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【生垣】
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初夏の日差しが眩しく目に染みる。
招待されたお屋敷は貴族街と平民街のちょうど中程にあった。
それでも、それなりに広く豪奢な屋敷で、そこにはどことなく気品も感じさせるバラの生垣が屋敷の敷地を包んでいた。
以前は石づくりの塀があったのだろうか。その生垣の下部には石垣が腰の高さほどまであった。
守りを重視するのであれば石垣を背の高さ以上にすべきだと思われるが、このように薔薇の生垣で屋敷を囲っていることに、マリエルは貴族らしくないなと思う。
こうして薔薇が密集して咲いていれば中を覗くことなどできないようにも思えるけれど、薔薇が落ちてしまえばどうなるのだろう。まさか貴族の屋敷の中庭が道路から覗き放題でいいわけがない。
そう、貴族に対し忌避感を持っているはずのマリエルでもそう思うくらい、このお屋敷は貴族らしくない。
まるで——
「わたくしの実家のようだわ」
そう呟いた。
ユーラッド家の創始者、グランドルフ・ユーラッドの素性は明かされていない。
マリエルでさえ、祖父は平民であったと信じていたくらいだった。
しかし、実は王家の落とし胤。先先代国王ランドルフ・ライデンバルカが平民の女性との間にもうけた子であったというのは、貴族の重鎮の間では暗黙の了解であった。
それもあって王家の全面的なバックアップを受け商売の道に邁進したグランドルフ翁。
今は亡き彼グランドルフは、その功績を持って伯爵に叙され、グランドルフ・ユーラッド伯爵となったのだった。
マリエルはだからこそジュリウスの妻として選ばれた。
王家の血を引くマリエルを、先代侯爵ガイウス・アルバトロス・レイングラードは欲しがった。
侯爵家に王室の血を入れたがったのだ。
また、逆に。
ジュリウスはそんな父の想いに反発を覚えていた。
マリエルの素性はジュリウスも承知だった。グランドルフが聖なる青い髪をしていたことから、幼いマリエルもそんな聖なる血を引いているということは十分わかっていたはずだった。
しかし、だからこそ。
ジュリウスはそんな父がマリエルのことを道具のように扱うことが許せなかったのもある。
愛のない、政略結婚。
そんなものは認めたくなかった。
幼い頃に恋したマリエルのことを、ただの子孫を残す道具にはしたくなかった。
そんなマリエルの実家、ユーラッド家では貴族らしさというものは皆無な、素朴な屋敷で。
屋敷の周りは季節の花が咲き誇る、そんな生垣で覆われていた。
幼い頃のマリエルはよく、ジンと一緒になって木登りをしたり、泥遊びをしたり。
時には生垣の隙間を抜け外まで抜け出しては二人して怒られて。
マクギリウスの館の薔薇の生垣は、彼女のそんな幼い頃の思い出を蘇らせて。
招待されたお屋敷は貴族街と平民街のちょうど中程にあった。
それでも、それなりに広く豪奢な屋敷で、そこにはどことなく気品も感じさせるバラの生垣が屋敷の敷地を包んでいた。
以前は石づくりの塀があったのだろうか。その生垣の下部には石垣が腰の高さほどまであった。
守りを重視するのであれば石垣を背の高さ以上にすべきだと思われるが、このように薔薇の生垣で屋敷を囲っていることに、マリエルは貴族らしくないなと思う。
こうして薔薇が密集して咲いていれば中を覗くことなどできないようにも思えるけれど、薔薇が落ちてしまえばどうなるのだろう。まさか貴族の屋敷の中庭が道路から覗き放題でいいわけがない。
そう、貴族に対し忌避感を持っているはずのマリエルでもそう思うくらい、このお屋敷は貴族らしくない。
まるで——
「わたくしの実家のようだわ」
そう呟いた。
ユーラッド家の創始者、グランドルフ・ユーラッドの素性は明かされていない。
マリエルでさえ、祖父は平民であったと信じていたくらいだった。
しかし、実は王家の落とし胤。先先代国王ランドルフ・ライデンバルカが平民の女性との間にもうけた子であったというのは、貴族の重鎮の間では暗黙の了解であった。
それもあって王家の全面的なバックアップを受け商売の道に邁進したグランドルフ翁。
今は亡き彼グランドルフは、その功績を持って伯爵に叙され、グランドルフ・ユーラッド伯爵となったのだった。
マリエルはだからこそジュリウスの妻として選ばれた。
王家の血を引くマリエルを、先代侯爵ガイウス・アルバトロス・レイングラードは欲しがった。
侯爵家に王室の血を入れたがったのだ。
また、逆に。
ジュリウスはそんな父の想いに反発を覚えていた。
マリエルの素性はジュリウスも承知だった。グランドルフが聖なる青い髪をしていたことから、幼いマリエルもそんな聖なる血を引いているということは十分わかっていたはずだった。
しかし、だからこそ。
ジュリウスはそんな父がマリエルのことを道具のように扱うことが許せなかったのもある。
愛のない、政略結婚。
そんなものは認めたくなかった。
幼い頃に恋したマリエルのことを、ただの子孫を残す道具にはしたくなかった。
そんなマリエルの実家、ユーラッド家では貴族らしさというものは皆無な、素朴な屋敷で。
屋敷の周りは季節の花が咲き誇る、そんな生垣で覆われていた。
幼い頃のマリエルはよく、ジンと一緒になって木登りをしたり、泥遊びをしたり。
時には生垣の隙間を抜け外まで抜け出しては二人して怒られて。
マクギリウスの館の薔薇の生垣は、彼女のそんな幼い頃の思い出を蘇らせて。
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