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【断罪】
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——まず破滅を回避、断罪回避、そのためならなんでもするわ。
——こんな情けない死に方はまっぴらですもの。
そう目の前の魔王、ウィルヘルム・マックザカートの前で宣言する。
アリシアの瞳は、紅く、紅く、輝いて。
♢ ♢ ♢
もう、肌の感覚などとうに消えていた。
痛みが麻痺しているのか、凍えるくらいな気温であるはずなのに、かえって何も感じない
——このまま、死ぬのかな。
もう、疲れたと、そう諦めの気持ちにもなる。
——でも。
死んでも許せない。
心の底。心の中心。そんな場所が真っ赤に染まり。
沸々とぐつぐつと、湧き出すように赤が黒くなっていく。
悔しい。辛い。悲しい。
次々と溢れてくる負の感情が、余計に自分自身を傷つけているのがわかるけれど。わかるけれど。止めることなどもうできなかった。
外は雪。
それも吹雪のようだ。
——精霊グラキエスが怒ってくれたのかしら。
だとしたら、いい気味だ。
それでも。
精霊たちにはもうわたくしの声は届かないのだろう。
魔力封じの首輪を嵌められ。
声も、薬で潰された。
——もう、わたくしには何もできることはない。
それが悲しかった。
石畳の牢獄は薄暗く、廊下にも灯りは無い。
手の届かないほど高いところにある窓にも格子がはまっているが、そこから漏れる外の光だけが、唯一この牢獄の明かりだった。
時々粗末な水とカチカチに乾いたパンだけの食事を運ぶ看守がくるが、もはやそれを口にする気力もない。
力つき、骨と皮だけになった腕や足が、わずかに動くだけ。
命の火も、もうそろそろと尽きようとした、頃合いに。
ふうわりと黒い人影が揺らいで。
死神が舞い降りた。のだと、アリシアは思った。
■■■ ■■■ ■■■
「わたくしはここに宣言いたします。神の名のもとに、この、アリシア・ブランドーに与えらえれていた聖女の称号を剥奪することを!」
荘厳なオルガンの音色が響く教会の大聖堂のホールで、その茶番は始まった。
目隠しをされ首に魔力封じの首輪を嵌められたアリシア。
跪く彼女の声は、事前に薬物によって潰されていた。
「何か申し開きをすることはあるか!」
大司教によってそう声がかけられるけれど、中央に跪くアリシアには、それに応えることは叶わなかった。
「偽聖女のこの魔女は、そこにいるマリサ・ブランドーの暗殺を企てたのです。死刑に処されて当然かと」
変わってそう声をあげたのは、この国の王太子であるルイス・カロラインであった。
「そんな、殿下。お願いです。お姉さまの命だけは助けてくださいませ」
——茶番。
——わたくしをここに追い遣ったのは、あなたでしょうに。マリサ。
可愛らしくそうお願いするマリサに、殿下が頷く。
「ああ。こわかったろうにマリサ。それでも君は姉であるというだけでこの魔女の助命を嘆願をするのかい?」
「ええ、殿下。お姉さまにだって、事情がおありになったのかもしれませんもの」
「やはり君は聖女だね。そこにいる悪女、魔女とは大違いだ。同じ姉妹だというのに」
彼女がアリシアを見る目に、一瞬だけ悪意の色が乗る。
喉を潰され魔力を止められてさえ、アリシアの魔眼は生きていた。
人のマナも、その性質も。
全て彼女には理解できていたというのに。
——油断、かしらね。まさかあんな手を使うとは、思ってもいなかったから。
まさか。
彼らがここまでするのだとは、アリシアには思いもよらなかった。
信じていた。
父も、妹も。そして婚約者である王太子ルイスのことも。
——こんな情けない死に方はまっぴらですもの。
そう目の前の魔王、ウィルヘルム・マックザカートの前で宣言する。
アリシアの瞳は、紅く、紅く、輝いて。
♢ ♢ ♢
もう、肌の感覚などとうに消えていた。
痛みが麻痺しているのか、凍えるくらいな気温であるはずなのに、かえって何も感じない
——このまま、死ぬのかな。
もう、疲れたと、そう諦めの気持ちにもなる。
——でも。
死んでも許せない。
心の底。心の中心。そんな場所が真っ赤に染まり。
沸々とぐつぐつと、湧き出すように赤が黒くなっていく。
悔しい。辛い。悲しい。
次々と溢れてくる負の感情が、余計に自分自身を傷つけているのがわかるけれど。わかるけれど。止めることなどもうできなかった。
外は雪。
それも吹雪のようだ。
——精霊グラキエスが怒ってくれたのかしら。
だとしたら、いい気味だ。
それでも。
精霊たちにはもうわたくしの声は届かないのだろう。
魔力封じの首輪を嵌められ。
声も、薬で潰された。
——もう、わたくしには何もできることはない。
それが悲しかった。
石畳の牢獄は薄暗く、廊下にも灯りは無い。
手の届かないほど高いところにある窓にも格子がはまっているが、そこから漏れる外の光だけが、唯一この牢獄の明かりだった。
時々粗末な水とカチカチに乾いたパンだけの食事を運ぶ看守がくるが、もはやそれを口にする気力もない。
力つき、骨と皮だけになった腕や足が、わずかに動くだけ。
命の火も、もうそろそろと尽きようとした、頃合いに。
ふうわりと黒い人影が揺らいで。
死神が舞い降りた。のだと、アリシアは思った。
■■■ ■■■ ■■■
「わたくしはここに宣言いたします。神の名のもとに、この、アリシア・ブランドーに与えらえれていた聖女の称号を剥奪することを!」
荘厳なオルガンの音色が響く教会の大聖堂のホールで、その茶番は始まった。
目隠しをされ首に魔力封じの首輪を嵌められたアリシア。
跪く彼女の声は、事前に薬物によって潰されていた。
「何か申し開きをすることはあるか!」
大司教によってそう声がかけられるけれど、中央に跪くアリシアには、それに応えることは叶わなかった。
「偽聖女のこの魔女は、そこにいるマリサ・ブランドーの暗殺を企てたのです。死刑に処されて当然かと」
変わってそう声をあげたのは、この国の王太子であるルイス・カロラインであった。
「そんな、殿下。お願いです。お姉さまの命だけは助けてくださいませ」
——茶番。
——わたくしをここに追い遣ったのは、あなたでしょうに。マリサ。
可愛らしくそうお願いするマリサに、殿下が頷く。
「ああ。こわかったろうにマリサ。それでも君は姉であるというだけでこの魔女の助命を嘆願をするのかい?」
「ええ、殿下。お姉さまにだって、事情がおありになったのかもしれませんもの」
「やはり君は聖女だね。そこにいる悪女、魔女とは大違いだ。同じ姉妹だというのに」
彼女がアリシアを見る目に、一瞬だけ悪意の色が乗る。
喉を潰され魔力を止められてさえ、アリシアの魔眼は生きていた。
人のマナも、その性質も。
全て彼女には理解できていたというのに。
——油断、かしらね。まさかあんな手を使うとは、思ってもいなかったから。
まさか。
彼らがここまでするのだとは、アリシアには思いもよらなかった。
信じていた。
父も、妹も。そして婚約者である王太子ルイスのことも。
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