わたくし、お飾り聖女じゃありません!

友坂 悠

文字の大きさ
9 / 57

聖剣の舞。

しおりを挟む
 真っ青に晴れ渡る空の下。
 聖緑祭の本番、神楽舞台での聖剣の舞ホーリーグラディオの当日となって。

 例年であればこの祭りが終わると雨季に入る。
 神に奉納された真那マナをたっぷりと含んだ雨が大地を潤し、命の糧となり穀物のみならずすべての生き物の生育をはぐくんでゆくのだ。

 そうしてこの国は護られてきた。

 このアルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。

 そんな神楽舞台の上で、わたくしは純白の神事の衣装を身に纏い、両手に宝剣を持って佇んでいた。

 荘厳な神楽の音色が辺りに響く。

 両手をあげ、シャンとその宝剣を鳴らすと、そのままゆったりと舞っていく。

 聖剣の舞ホーリーグラディオと呼ばれるその聖なる舞。
 シャンとその宝剣を打ち鳴らし、弧を描くように舞っていくと、白銀の光が溢れ、そしてまたその光が剣を追いかけるように弧を描いていき。

 くるり、くるりと回りながら、波のように踊る宝剣の舞。

 そしてやがて眩い光がその剣先に集まっていったと思うと、大きく広がり神楽舞台全体を覆い隠す。

 最後に。

 舞台から空に、宙に向けて光の帯が放たれて。

 そこで舞を終えた。

 ♢

「綺麗だったよアーシャ」

 舞台の袖で待っていてくれたナリス様が、そう笑顔で迎えてくれた。

「禁忌の魔法陣も無事封じることができたようだし、これで全て元通りだね」

 そうおっしゃるナリス様に、わたくしの顔が少し曇って。

「どうしたの? アーシャ」

 そう心配させしまったみたい。
 申し訳ないと思いつつ、でも。少し悲しくなって。



 魔法陣はこの神楽舞台にありました。
 ちょうど聖剣の舞ホーリーグラディオで真那を放出したあとの、その空白の瞬間を狙ったのでしょうか。
 禁忌の魔法陣が起動して異界の門が完全に開くためには、真那濃度が薄ければ薄いほど良いようなのです。
 レムレス様が今回聖女宮長官代理を引き受けたのも、全てはこの時の為。
 わたくしが邪魔になったのはカナリヤ嬢のあの奇妙なシナリオのお陰だそうだけれど。

 というか、まだ禁忌の魔法陣が完全に開く前で良かったです。
 ほんの少し開いただけで、ああして異界から別世界の住人を召喚できるだなんて。

 調べはまだ全て済んでいないそうですが、ナリス様ならきっと全てを解決してくださるでしょう。
 ええ。
 もうわたくしの出る幕は無いのかもしれません。

「わたくしはもう、必要ないですよね」

 そうぼそっと呟いて。




 あれだけ大勢の目の前でレムレス様との婚約解消を叫ばれたのです。
 今更なかった事には出来ないでしょう。
 聖女の職も、そうです。
 一度解任された聖女が復職した例は、今までにありません。

 まあ今までの聖女は皆、婚姻を理由に引退したのでしたけど。


「ねえ、アーシャ。子供の頃の約束、覚えてる?」

 え?

「わたしが大きくなったら君と結婚するって言ったら」

「じゃぁわたくしがナリス様をお嫁さんに貰ってあげると」

 —————
「大きくなったらボク、アーシャと結婚する!」
「ふふ。じゃぁナリスお兄様はあたしがお嫁さんにもらってあげるよ」
「もう、それじゃ逆だよ」

 ——————
 そんなふうに二人で笑い転げたあの約束。

「覚えてて、くださったのですか?」

「忘れるわけないだろう?」

 そう優しく微笑むナリス様。

 あんなに、不義理をしてしまったのに。
 わたくしなんか、もうナリス様に愛される資格なんか、無いと思っていたのに。

「わたくしはもう、ナリス様に愛される資格なんか無いです……」

 涙が浮かんで、頬に流れていくのがわかりました。

「わたしはずっと、君の事だけを想っていたよ」

 ナリス様の手が伸びて、わたくしの頬に触れ。
 すっと涙をぬぐってくださって。

「愛してるよ。アーシャ」

 そう言って、優しく抱きしめてくれた。


 ああ。
 わたくしも、ナリス様の気持ちに応えても許されますか?
 このまま彼を抱きしめてもいいですか?
 神様……。

 ——にゃぁ。もう焦ったいなぁ。さっさとくっついてしまえばいいの。そんでもってお部屋に帰ってあたしを撫でて。アーシャの手で撫でられるの、あたし好きよ。

 ふふ。

 ありがとうファフナ。

 おかげで吹っ切れました。

「ナリス様、わたくしをお嫁さんにしてください」

 そう言って両手をまわし、抱きついた。

「幸せにするよ、アーシャ」

 耳元で痺れるようなそんな声が聞こえて。
 わたくしは思わず猫のように彼に頭を擦り付けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。

佐藤 美奈
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」 弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。 結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。 それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。 非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...