わたくし、お飾り聖女じゃありません!

友坂 悠

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紅い街道と二人。

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 遠くに白い山肌がみえる。
 もう春もすぎ、そろそろ初夏になろうという頃合いなのに、まだ北の山では雪が溶けきっていないようだ。
 ちょうど盆地に差し掛かったようで、周囲にはひたすら草原が広がっている。
 紅い煉瓦が敷き詰められた街道は、この国だけではなくこの西の大陸中を東西南北ひたすら続いている。
 主要な街を結ぶそれははるか昔に敷設されたもののはずであるのに、いまだに欠けることもなく平坦な道を保っている。
 一説には神の御力の賜物とも伝えられているそんな紅い街道は、こうして今でも人々の往来の目安となっていた。

 道は別に紅い街道だけではない。
 他にも主要な街を結ぶ道は多々つくられ利用されてはいるが、それでもこの紅い街道をゆくものの方が多いのは、やはりこの道が神に守られているという伝承が永く伝わっているからだろうか。
 当然旅には野獣や魔物の襲来にも備えなければならないが、この紅い街道をゆくものはそういった魔物にも襲われにくい。
 そんな、実際には眉唾な話ではあるけれど、そういった伝承が古くから人々の間に伝わっていたからか、旅をするなら紅い街道を通った方がよいとそういう心理が働いているのだろう。
 世間から隠れて生きているような物でない限り、旅をするならまずこの街道を選ぶ。
 その結果。
 宿場や街も街道沿いにつくられ、発展してきたのだった。

 で、あるのにも関わらず、今こうしてその紅い街道をわざわざ外れ、往来の少ない道を選び旅する二人組があった。

 見るからにまだ少年に見える二人連れ。
 着ている物は一見冒険者ふうにも見える服ではあるけれど、どことなく作りたてのような袖を通して間がないといったような、不自然さも感じられた。

 そもそも冒険者であるならその衣服の厚手の生地もきざらしで、何度も洗い色もおち、場合によっては繊維にほつれや傷などが当たり前に付いているもの。
 買ったばかりの新品を着ていれば、逆にどこの初心者かと舐められると、わざと何度も洗濯をしダメージをつけたものを好むもので。
 こうして新品の衣服を一度も洗濯もしないまま着て旅に出るなどするものも稀だ。

「なあ、なんで歩きなんだ? 馬車で行くとか馬に乗るとか、他にも方法はあっただろう?」

「にいさんは馬鹿ですか? 大体、馬車で旅をするのに一体どれだけの費用と人員がかかると思っているんです? 御者が必要なだけではないですよ? 馬の飼馬の問題も、替えの馬の問題も。おまけに馬車は賊に狙われやすいですからね、当然警備に相当の人材を揃えなければいけませんし、人が多くなればその分食料や水の問題も出てきます」

「馬車で旅をするのは貴族だけではないだろう?」

「もちろん商隊の馬車隊や遠距離をゆく乗り合い馬車などもありますけど、その場合も常に危険と隣り合わせなんです。そのために冒険者の護衛をつけるくらいですからね?」

「じゃぁ、馬で駆けていけばいいじゃないか。二人で行くだけならそこまで荷物も必要ないだろう?」

「にいさん? あなた馬、乗れないでしょう? いや、乗れても長距離を走ったことなんかないんじゃないですか?」

「ば、馬鹿にするな! 馬くらい乗れるさ。乗れるに決まってるだろ?」

「そのへんをゆっくり回るだけじゃないんですよ? 馬での移動には腰や脚にかなりの負担がかかるんです。慣れない乗馬で遠距離をゆくのは無理ですよ」

「しかし、このままずっと歩きでは……」

「にいさんがどうしてもアナスターシアに会いたいというから付き合ってあげているのに。大体、自分から婚約破棄をしておいて今更だと思いますけどね?」

「手紙は何度も送ったんだ、でも、なしのつぶてで返事もない。どうせあの騎士団長のサイラスが手紙を握りつぶしているのに違いないんだ。アナスターシアに会えさえすれば、話さえできればこの状況も変わるかもしれないんだから!」
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