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救い。
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最初に命が狙われたのがいつだったのか。
もう覚えていない。
生まれが兄と一年離れていないせいか、正妃に比べ母の身分が低いためか。
それもきっと、ただのきっかけに過ぎなかったのだろう。
嫉妬深い正妃マルガレッタはナリスの母フランソワを憎んでいた。
それは理解できる。
理解はできるけれど、許せることではない。
もちろんそれは向こうにとっても同じことだったのだろうけれど。
父ウイリアムスがまだ王太子の頃は、ナリスもまだ幸せだった。
父は母を愛していた。
少なくとも政略結婚であるマルガレッタを差し置いて伯爵家の娘にすぎない母フランソワをそばに置くくらいには。
即位前の父は、それでもまだしがらみも少なく。
母と、ナリスと、そして生まれたばかりの弟を慈しんでくれた。
その頃は、命を狙われても些細な事故として処理されていたのだろう。
向こうも本気では無く、あっさりナリスが死んでしまえばそれでよし、程度のことであったから。
オルレアン公爵家の出身であるマルガレッタが嫌えば、それに追随する貴族など掃いて捨てるほど存在するもの。
そのうちの誰の指示であったのか、とか。
どんな依頼で行われたのか、とか。
きっと王太子であるウイリアムスは承知していたのだろう。
それくらい、当時の父には造作もなかっただろうとは、今こうしてその父の後を継ぎ魔道士の塔という国家の影を任されてから理解した。
そして。
父が本気で相手を排除する気もなければ自分を本気で守る気もなかったことも、理解してしまった。
父にとって大切なのは母で。
そしてその次に大切なのは国であるのだと。
国の屋台骨をどうにかしてしまうような決断は、彼はすることも無かったし、しようとも思わなかったのだと。
幼い時。
毒で死にかけ、生死の境を彷徨った。
それでもなんとか生きながらえた後、自分のその顔を見ていつもと同じように微笑む父に。
『自分の価値を高めこの人に見せなければいけない。でなければこの父は、自分を必要とはしてくれないのではないか?』
そう、悟った。
父が自分に向けるのはあくまで母の子供であるという価値に対しての愛情だけ。
そしてそれは、替えが効くものなのだ、と。
かろうじて命が助かった自分に対していつもと全く同じ笑みを見せる父に。
絶望と共にそう悟ったのだった。
♢ ♢ ♢
王宮にいると些細なことで命を狙われる。
そう感じていたナリスが唯一心が休まる場所。それがスタンフォード侯爵家の館だった。
母フランソワの従姉妹シルフィーナの嫁ぎ先、騎士団長を務めるサイラス・スタンフォード侯爵の館は、質実剛健でそれでいて花が咲き乱れる庭園が美しく。
何より、そこには天使が居た。
可愛らしくピンクがかった白銀の髪はふわふわと風に揺れ。
透き通る白い肌、整った顔立ちにピンクに艶めく唇は、その少女を人形のように作り物めいて見せていた。
こちらを覗くようにくるくるうごく金色に輝く瞳がかわいくて、心の中が洗われるようだった。
ナリスは。
その少女、アナスターシアと語らう時だが、己が生きていて幸せだと感じられた。
唯一、その少女だけが、ナリス・ド・アルメルセデスにとっての救いだったのだ。
もう覚えていない。
生まれが兄と一年離れていないせいか、正妃に比べ母の身分が低いためか。
それもきっと、ただのきっかけに過ぎなかったのだろう。
嫉妬深い正妃マルガレッタはナリスの母フランソワを憎んでいた。
それは理解できる。
理解はできるけれど、許せることではない。
もちろんそれは向こうにとっても同じことだったのだろうけれど。
父ウイリアムスがまだ王太子の頃は、ナリスもまだ幸せだった。
父は母を愛していた。
少なくとも政略結婚であるマルガレッタを差し置いて伯爵家の娘にすぎない母フランソワをそばに置くくらいには。
即位前の父は、それでもまだしがらみも少なく。
母と、ナリスと、そして生まれたばかりの弟を慈しんでくれた。
その頃は、命を狙われても些細な事故として処理されていたのだろう。
向こうも本気では無く、あっさりナリスが死んでしまえばそれでよし、程度のことであったから。
オルレアン公爵家の出身であるマルガレッタが嫌えば、それに追随する貴族など掃いて捨てるほど存在するもの。
そのうちの誰の指示であったのか、とか。
どんな依頼で行われたのか、とか。
きっと王太子であるウイリアムスは承知していたのだろう。
それくらい、当時の父には造作もなかっただろうとは、今こうしてその父の後を継ぎ魔道士の塔という国家の影を任されてから理解した。
そして。
父が本気で相手を排除する気もなければ自分を本気で守る気もなかったことも、理解してしまった。
父にとって大切なのは母で。
そしてその次に大切なのは国であるのだと。
国の屋台骨をどうにかしてしまうような決断は、彼はすることも無かったし、しようとも思わなかったのだと。
幼い時。
毒で死にかけ、生死の境を彷徨った。
それでもなんとか生きながらえた後、自分のその顔を見ていつもと同じように微笑む父に。
『自分の価値を高めこの人に見せなければいけない。でなければこの父は、自分を必要とはしてくれないのではないか?』
そう、悟った。
父が自分に向けるのはあくまで母の子供であるという価値に対しての愛情だけ。
そしてそれは、替えが効くものなのだ、と。
かろうじて命が助かった自分に対していつもと全く同じ笑みを見せる父に。
絶望と共にそう悟ったのだった。
♢ ♢ ♢
王宮にいると些細なことで命を狙われる。
そう感じていたナリスが唯一心が休まる場所。それがスタンフォード侯爵家の館だった。
母フランソワの従姉妹シルフィーナの嫁ぎ先、騎士団長を務めるサイラス・スタンフォード侯爵の館は、質実剛健でそれでいて花が咲き乱れる庭園が美しく。
何より、そこには天使が居た。
可愛らしくピンクがかった白銀の髪はふわふわと風に揺れ。
透き通る白い肌、整った顔立ちにピンクに艶めく唇は、その少女を人形のように作り物めいて見せていた。
こちらを覗くようにくるくるうごく金色に輝く瞳がかわいくて、心の中が洗われるようだった。
ナリスは。
その少女、アナスターシアと語らう時だが、己が生きていて幸せだと感じられた。
唯一、その少女だけが、ナリス・ド・アルメルセデスにとっての救いだったのだ。
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