わたくし、お飾り聖女じゃありません!

友坂 悠

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懇願。

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 切羽詰まったようなそんな声に、わたくしは足早にその声がする方に向かいました。

「待ってお嬢様、人混みにいきなり近づくと危ないです!」

 後ろからにいさまの声。
 でも、気になって。

「すみません、ちょっと通してくださいませ」

 人混みをかき分けなんとかその声のするところまで辿り着くと、そこにはまだ幼稚舎にも入っていないような年齢の男の子が、大きな男の人の足元に縋り付くようにして懇願する姿が見えました。

「だからよ、そういう話はそこのギルドの受付にだな、ちゃんと金を積んで依頼しな」

「だって、おいらお金がないんだもの。ねえおじさん強いんだろ? お願いだよにいちゃんを助けてよ。助けてくれたらきっとちゃんとお礼をするからさ」

「バカ言ってんじゃね。どこの誰がそんな当てにならない話で危険な仕事を引き受けるもんか。大体お前のにいちゃんは冒険者の端くれなんだろ? だったら何か日にちのかかるクエストに挑戦してるのかも知れねえぜ? だとしたらそのうち自力で帰ってくるだろうさ。それでもし帰れねえってことは、そいつは助からねえって事だしな。単純な話だろう?」

「そんな。にいちゃんはゆうべ絶対に帰って来るって出かけていったんだ。おいらの誕生日だったから、うまいもん食わせてやるよって。にいちゃんが約束を破るわけはないんだ。きっと洞窟で何かあって動けないに違いないんだよ。お願いだよおじさん。ああ、周りにいる他の誰かでもいいんだ。お願いだよにいちゃんを助けてよ」

 まだほんと小さな男の子。
 だけど。
 見た感じ、着ている服もボロボロ。そこから覗いている腕も脚もごぼうのように細くって。
 この領地に住んでいる人はみんな割と裕福だと思ってたから、そんな子供の姿は衝撃で。

「ここのとこ他領より移住してくる者があとを経たないのです。以前はあんな浮浪者のように見える子供は見かけなかったのですけれど」
 わたくしに追いついたにいさまが、周囲をガードしながらそう声をかけてくださいました。
「なんとかならないのでしょうか?」
「それは、あのような子供の救済という意味ですか?」
「いいえにいさま。孤児の救済であればこの領地の政治におまかせした方がいいとはわかっているんです。お母様にもいつも聞いていました。アルルカンドのお役人は皆優秀なのですよって。だからそこはそこまで心配しているわけではないんです」
「では?」
「ええ。あの子のお兄様をなんとか助けてあげることはできないかなって……」
「ふむ。そうですね。ではまず具体的な話を聞いてみましょう。今の会話では情報が少なすぎます。それに、冒険者に依頼すべき案件なのか騎士団に依頼すべきものなのかも、わかりませんから」
「ありがとうにいさま。じゃぁわたくし、あの子に声をかけてきますね」

 わたくしはにいさまににこりと微笑んで、冒険者さんの足元に縋り付く男の子のそばまで近づきました。
 周囲の人も、同情をしている感じはあるけれど自分から声をかけるのは躊躇っている様子。
 人垣ができているのも興味本位ではなく、戸惑ってはいるものの心配しているっていう感じのお顔の方が多いです。

「ねえ、おねえさんに詳しいお話を聞かせてくれない? うちのおにいさまはとっても強いから、ぼうやの力になれるかもしれないわ」

 しゃがんでその子と目線をあわせ、わたくしはそうゆっくりと話しかけてみました。

 きょとんとしてこちらを見る少年。

「いいの? お姉ちゃん、ほんとににいちゃん助けてくれるの?」

「ええ、そのためにもちゃんとお話を聞かせてくれない?」

 あ、うう、うわーん。と泣き出したその子。
 緊張の糸が途切れたのでしょうか。わんわんと泣いてしまって泣き止みそうにありません。

「すまねえな姉ちゃん、よろしくたのむわ」

 相手をしていた男性も、そう言い残してギルドの中に入っていきました。
 あの方も、口では邪険にしながらも縋り付くのを振り解かず相手をしてくれていただけ、きっと優しい方なのでしょう。

「泣き止むのを待ってから、ギルドの中で話を聞きましょうか?」
「ええ、にいさま」

 わたくしはその子の頭を撫でながら、泣き止むのを待って。
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