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飲み込んだ魔結晶。
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「で、心当たりは?」
黙り込んでしまった侯爵に対し、もう一度強い口調で詰めるルークヴァルト。
泳ぐように定まらない目で宙を見る侯爵は、苦しそうに口を開く。
「魔道士連、は……」
「魔道士連か。そうだなその例の死亡していた魔道士は、こちらの地域の魔道士連に所属していたそうだが」
「そう、ですか。なぜ彼らがそんなことを……」
「白々しいな。魔道士連には裏をとってある。全ては貴殿の依頼のもと貸し出した魔道士であったと」
「誤解です……。確かに魔獣対策のために魔道士連に依頼を出しましたが、それがなぜそんなことになったのでしょう……」
「ふっ。貴殿がその魔道士に依頼した内容も、実はあちらには全て記録が残っていた。我らを襲う計画の失敗が発覚した後すぐ魔道士連に追加の魔道士派遣まで依頼したそうだな。それでもまだ言い逃れをするか!」
頭を垂れ苦しそうに胸を抑え始めたラカン・マキアベリ侯爵。
(あ、まさか。恰幅がいい方だから絶対ふところに入れていると思ってたのに!)
「だめ! ルークさま! このかた、魔結晶を飲み込んでいるわ!!」
(絶対に見つからない場所を、と、袋にでも包んで飲み込み、胃の中にでも隠していたのだろうか? ああでも魔素は漏れ出ていたし……)
焦る。
直接じゃなかったから時間がかかったのだろう。それでもこのままじゃこの人の命が危ない。
すぐにでも吐き出させないと。
「なんと! どういうことだ!?」
「多分袋か何かに包んで飲み込んだのよ。すぐに吐き出させないと!」
ばっと飛び出たアルバートが苦しむ侯爵の口を無理矢理と開ける。
「奥歯に紐が結んであります! 我々が去った後に紐を引っ張り吐き出すつもりだったのでしょう! おい! 誰か手伝え!」
二、三人の騎士が侯爵の体を押さえつけ、口にタオルのようなものを噛ませる。
「右の奥歯だ! なに、歯なんか気にしなくてもいい! とにかくその紐を引っ張れ!」
はい! と威勢良く騎士の一人が籠手のつけたままの手を侯爵の口に突っ込んで。
そのまま探り当てた糸を「ぬん!」とばかりに引っ張った。
ソファーから崩れ落ち床に這いつくばる侯爵。騎士が紐を引っ張ると同時に含ませていたタオルごと胃液をげぼぼと吐く。しかしそのこぼれ出たものの中には魔結晶らしきものは見当たらない。
「切れたのか!」
「申し訳ありません!! 局長!!」
一気に引きすぎたのか紐は切れてしまっていた。
それでも、侯爵はなおも嘔吐を続けている。
(このまま出てくれればいいけど……、ああ、だめ。危ないわ……)
魔結晶のある場所をセラフィーナは感じることができた。マナの見えざる手を伸ばし手元に転移させることもできなくはない。でも、それをしたら侯爵の内蔵部分もかなりの部分を削ってしまうかもしれない。助けるつもりが殺してしまう可能性に、どうしても躊躇してしまう。
「吐かせてあげて、お願い! 魔結晶はすぐ喉元まで出てきているわ!」
「そうか! だったら!」
兄、アルバートが侯爵の口の中に指を突っ込んだ。
黙り込んでしまった侯爵に対し、もう一度強い口調で詰めるルークヴァルト。
泳ぐように定まらない目で宙を見る侯爵は、苦しそうに口を開く。
「魔道士連、は……」
「魔道士連か。そうだなその例の死亡していた魔道士は、こちらの地域の魔道士連に所属していたそうだが」
「そう、ですか。なぜ彼らがそんなことを……」
「白々しいな。魔道士連には裏をとってある。全ては貴殿の依頼のもと貸し出した魔道士であったと」
「誤解です……。確かに魔獣対策のために魔道士連に依頼を出しましたが、それがなぜそんなことになったのでしょう……」
「ふっ。貴殿がその魔道士に依頼した内容も、実はあちらには全て記録が残っていた。我らを襲う計画の失敗が発覚した後すぐ魔道士連に追加の魔道士派遣まで依頼したそうだな。それでもまだ言い逃れをするか!」
頭を垂れ苦しそうに胸を抑え始めたラカン・マキアベリ侯爵。
(あ、まさか。恰幅がいい方だから絶対ふところに入れていると思ってたのに!)
「だめ! ルークさま! このかた、魔結晶を飲み込んでいるわ!!」
(絶対に見つからない場所を、と、袋にでも包んで飲み込み、胃の中にでも隠していたのだろうか? ああでも魔素は漏れ出ていたし……)
焦る。
直接じゃなかったから時間がかかったのだろう。それでもこのままじゃこの人の命が危ない。
すぐにでも吐き出させないと。
「なんと! どういうことだ!?」
「多分袋か何かに包んで飲み込んだのよ。すぐに吐き出させないと!」
ばっと飛び出たアルバートが苦しむ侯爵の口を無理矢理と開ける。
「奥歯に紐が結んであります! 我々が去った後に紐を引っ張り吐き出すつもりだったのでしょう! おい! 誰か手伝え!」
二、三人の騎士が侯爵の体を押さえつけ、口にタオルのようなものを噛ませる。
「右の奥歯だ! なに、歯なんか気にしなくてもいい! とにかくその紐を引っ張れ!」
はい! と威勢良く騎士の一人が籠手のつけたままの手を侯爵の口に突っ込んで。
そのまま探り当てた糸を「ぬん!」とばかりに引っ張った。
ソファーから崩れ落ち床に這いつくばる侯爵。騎士が紐を引っ張ると同時に含ませていたタオルごと胃液をげぼぼと吐く。しかしそのこぼれ出たものの中には魔結晶らしきものは見当たらない。
「切れたのか!」
「申し訳ありません!! 局長!!」
一気に引きすぎたのか紐は切れてしまっていた。
それでも、侯爵はなおも嘔吐を続けている。
(このまま出てくれればいいけど……、ああ、だめ。危ないわ……)
魔結晶のある場所をセラフィーナは感じることができた。マナの見えざる手を伸ばし手元に転移させることもできなくはない。でも、それをしたら侯爵の内蔵部分もかなりの部分を削ってしまうかもしれない。助けるつもりが殺してしまう可能性に、どうしても躊躇してしまう。
「吐かせてあげて、お願い! 魔結晶はすぐ喉元まで出てきているわ!」
「そうか! だったら!」
兄、アルバートが侯爵の口の中に指を突っ込んだ。
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