63 / 63
とても心地よくて。
しおりを挟む
「セラフィーナ。君が最近元気がない様子にみえて、心配なんだ」
セラフィーナが元のセラフィーナの置き手紙を見つけてから、数日が過ぎていた。
あれから、何もやる気がおきなくて部屋に閉じこもっていた彼女。
一旦切れた感情の糸を再度繋ぐことができずにいた。
そして。
披露宴の後もセラフィーナの許可なく寝室に入ろうとはしなかったはずのルークヴァルトがこうして特にことわりもせず寝室に入ってくるようになっていたことにも、訝しんで。
ああ、もしかしたら、と。
自分の記憶のない、元のセラの時に、もしかしてもう既に彼と結ばれてしまったんじゃないか。
いや、だって、それは。でも。
元のセラはルークが好きだったのだ。彼女は自分で望んでルークの妻になったのだ。
だったら彼女にはルークを拒む理由なんてどこにもないのだもの。
と、そう思い返す。
でも、ならどうして。
どうして今更わたしがここにいるんだろう。
わたしなんて要らないじゃない。
彼女だってエメラの記憶があるのなら魔法ぐらい使えるでしょう?
だったらほんと、わたしなんか要らない!!
そう、泣きたくなる。
心の中がぐちゃぐちゃで。
元のセラに嫉妬して。
自己嫌悪に陥って。
そして、情けなさにも死にたくなって。
涙が溢れてとまらなくなった。
「泣かないで。セラフィーナ。何があったんだい? お願いだセラフィーナ。どうしたのか私に教えてくれないか? 君ためにできることがあれば、なんでもする。したいんだ」
セラフィーナの手をぎゅっと掴んでそう熱心に話す彼をみているとよけいに悲しくなって。
「だって、旦那様はわたしじゃないセラフィーナを愛してるんでしょう? ずっとセラと仲良くしてたんでしょう? この寝室にそうして遠慮なく何事も無いように入ってくるってことは、そういうとなんでしょう? だから……」
「ここに入るのは君が許可してくれたんじゃないか。夫婦なんだから遠慮しないでもいいって。もしかして、覚えてないのか?」
(ああ、やっぱり)
「覚えてない。覚えてないのよ。わたし、マキアベリ領で、あの館で倒れてからの記憶がないんだもの!」
目を見開きこちらを凝視するルークヴァルト。
口を開き何か話そうとするが言葉が出てこないのか、そのまままた閉じた。
「ごめんね。めんどくさいよね。めんどくさい女だよねわたし。こんな記憶がなんども飛ぶ女なんてあなたに愛される資格なんかもともと無かったんだ。ごめんね……」
最初に何もかも知らない、何もかもわからない時はこんな気持ちにはならなかった。
なまじ中途半端に記憶があるから余計にこんなふうに心が乱れるのかもしれない。
そう思うと、もう何もかも忘れてしまいたくなって頭を振った。
「君は、記憶喪失になった方のセラフィーナなのか?」
「ええ、そうよ。偽物の方。本当のセラじゃない。あなたのことが好きで好きでしょうがなかった方のセラじゃないもの!!」
涙が堪えられない。感情がぐちゃぐちゃで、自分でも何を言っているのかわからない状態だった。
「偽物、じゃ、ないよ。君は私が好きになったセラフィーナなんだから」
そう言って、セラフィーナを抱きしめるルークヴァルト。
背中にまわした手にぎゅっと力をこめる。
「愛してるいるんだセラフィーナ。私は、昔のセラフィじゃない、今の君を愛してる。どうしても妹のようにしか見えなかったセラフィじゃなくって、君を、セラフィーナをあいしてるんだよ」
「ルーク、さま……」
肯定された。そう、思えた。
他の誰でもない、ルークヴァルトに。
(ああ、でも……)
逆に、気がついてしまった。
セラが再び引き篭もってしまった理由にも……。
「わたしで、いいんですか……?」
「ああ、君が良いんだ。君の事を愛してるんだ」
セラフィーナも、彼の背中に手を伸ばして。
ぎゅっと抱きしめる。
心地がよくて。
いつまでもこうしていたい。そう思えた。
第一部 終。
セラフィーナが元のセラフィーナの置き手紙を見つけてから、数日が過ぎていた。
あれから、何もやる気がおきなくて部屋に閉じこもっていた彼女。
一旦切れた感情の糸を再度繋ぐことができずにいた。
そして。
披露宴の後もセラフィーナの許可なく寝室に入ろうとはしなかったはずのルークヴァルトがこうして特にことわりもせず寝室に入ってくるようになっていたことにも、訝しんで。
ああ、もしかしたら、と。
自分の記憶のない、元のセラの時に、もしかしてもう既に彼と結ばれてしまったんじゃないか。
いや、だって、それは。でも。
元のセラはルークが好きだったのだ。彼女は自分で望んでルークの妻になったのだ。
だったら彼女にはルークを拒む理由なんてどこにもないのだもの。
と、そう思い返す。
でも、ならどうして。
どうして今更わたしがここにいるんだろう。
わたしなんて要らないじゃない。
彼女だってエメラの記憶があるのなら魔法ぐらい使えるでしょう?
だったらほんと、わたしなんか要らない!!
そう、泣きたくなる。
心の中がぐちゃぐちゃで。
元のセラに嫉妬して。
自己嫌悪に陥って。
そして、情けなさにも死にたくなって。
涙が溢れてとまらなくなった。
「泣かないで。セラフィーナ。何があったんだい? お願いだセラフィーナ。どうしたのか私に教えてくれないか? 君ためにできることがあれば、なんでもする。したいんだ」
セラフィーナの手をぎゅっと掴んでそう熱心に話す彼をみているとよけいに悲しくなって。
「だって、旦那様はわたしじゃないセラフィーナを愛してるんでしょう? ずっとセラと仲良くしてたんでしょう? この寝室にそうして遠慮なく何事も無いように入ってくるってことは、そういうとなんでしょう? だから……」
「ここに入るのは君が許可してくれたんじゃないか。夫婦なんだから遠慮しないでもいいって。もしかして、覚えてないのか?」
(ああ、やっぱり)
「覚えてない。覚えてないのよ。わたし、マキアベリ領で、あの館で倒れてからの記憶がないんだもの!」
目を見開きこちらを凝視するルークヴァルト。
口を開き何か話そうとするが言葉が出てこないのか、そのまままた閉じた。
「ごめんね。めんどくさいよね。めんどくさい女だよねわたし。こんな記憶がなんども飛ぶ女なんてあなたに愛される資格なんかもともと無かったんだ。ごめんね……」
最初に何もかも知らない、何もかもわからない時はこんな気持ちにはならなかった。
なまじ中途半端に記憶があるから余計にこんなふうに心が乱れるのかもしれない。
そう思うと、もう何もかも忘れてしまいたくなって頭を振った。
「君は、記憶喪失になった方のセラフィーナなのか?」
「ええ、そうよ。偽物の方。本当のセラじゃない。あなたのことが好きで好きでしょうがなかった方のセラじゃないもの!!」
涙が堪えられない。感情がぐちゃぐちゃで、自分でも何を言っているのかわからない状態だった。
「偽物、じゃ、ないよ。君は私が好きになったセラフィーナなんだから」
そう言って、セラフィーナを抱きしめるルークヴァルト。
背中にまわした手にぎゅっと力をこめる。
「愛してるいるんだセラフィーナ。私は、昔のセラフィじゃない、今の君を愛してる。どうしても妹のようにしか見えなかったセラフィじゃなくって、君を、セラフィーナをあいしてるんだよ」
「ルーク、さま……」
肯定された。そう、思えた。
他の誰でもない、ルークヴァルトに。
(ああ、でも……)
逆に、気がついてしまった。
セラが再び引き篭もってしまった理由にも……。
「わたしで、いいんですか……?」
「ああ、君が良いんだ。君の事を愛してるんだ」
セラフィーナも、彼の背中に手を伸ばして。
ぎゅっと抱きしめる。
心地がよくて。
いつまでもこうしていたい。そう思えた。
第一部 終。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで
越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。
国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。
孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。
ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――?
(……私の体が、勝手に動いている!?)
「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」
死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?
――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる