7 / 65
図書館。
しおりを挟む
聖都の中央、王宮のすぐ隣にある外苑に、その建物はあった。
紅い煉瓦でできた塔のように背の高いそれ。
周囲を覆う樹々から頭ひとつ抜き出たような、そんな建物。
「ほら、あれがこの国で一番の図書館、王立図書館ですわ」
エヴァンジェリンが指を指し示すそこ。
入り口の大きな門には門番が二人立って警護にあたっている。
「今日は平日ですからね。入り口には職員が待機しているはずですわ」
そう言って先に歩く彼女。
王宮外苑はその中に馬車を乗り付けることはできない。
警護の問題もあるし、外苑の景観を保つ意味もある。
乗って来た馬車を外苑入り口の馬車寄せに止め、御者はそこに残したまま二人で歩いてここまで来た。
門をくぐるとエントランスがあり、そこにはまた魔力的な門、ゲートが設られている。
「登録してある者しか通ることのできない魔力紋ゲートなのです。大事な御本もありますから、それを護るためにこういった魔力的な警護も万全というわけですわ」
そういうと、ゲートの前にある石板に手をかざすエヴァンジェリン。
「わたくしは貴族院で登録を済ませましたの。学生にはここの図書館の資料は必須ですからね。中に職員がいるはずですからすぐ呼んで来ますわね。お義姉様はそこでお待ちくださいな」
そう言ってゲートをくぐり奥に進む彼女。
(ここには目に見えない壁があるのだわ)
そう感じるシルフィーナ。
触ってみると確かにガラスのような質感の壁があることがわかる。
貴族院。
自分が通うことのできなかったそれ。
(そうよね。普通の貴族は皆貴族院に通うのだもの)
そう感慨に耽る。
人には誰しも魂というものがある。
心の元、と言ったらいいか。
自身の心の奥底にある、真那の塊。
それが魂。
人の体が生物学的なものだとしたら、この魂は精神的なその人の実体だとも言える。
人は皆、死と共にこの魂が肉体より離れ。
そうして大霊に還るのだ。
そして、大霊の中で混ざり合い分離し、また新たな魂となり新しい生命として生まれいづる。
そんな魂にある個性。それが魔力紋とよばれるものだ。
そんな魔力紋を感知し魔力的なゲートとして使用している魔道具がこれ、魔力紋ゲートと呼ばれるものだった。
ただし。
魔道具の中でも特に、こうした魔力紋ゲートなどは聖魔具というカテゴリーに分けられる。
技術的にもはや失われた過去の理論を使用しているこの魔力紋ゲートは、現在の技術では再現不能な聖なる技術とされていた。
「お待たせしましたわ。うーん、本当は人の管理人がいらっしゃるはずなんですがどうやら今はお留守のようなのです。この子でなんとかなるのかどうなのかわからないのですが……」
帰ってきたエヴァンジェリンが連れて来たのは、ちょうど子供のようなサイズの猫の着ぐるみ? だった。
ひょこひょこと歩いて近づいてくるそれ。
縞々な模様。口の周りと手足は白く、グレイのタキシードを着ているその着ぐるみは、シルフィーナに近づくと、言った。
「こんにちわ。登録の無いお嬢さん。ぼくはフロスティ、よろしくね」
ぬいぐるみとしては大きい、でも、大人の人が入るにはちょっと小さい。
そんな猫の着ぐるみ。
中には子供が入っているのだろうか?
シルフィーナがそんなふうに思ったところでエヴァンジェリンが言った。
「この子はこの図書館の司書のオート・マタというものですわ。自動人形? とでもいえばわかりやすいでしょうか。魔力紋ゲートと同じような聖魔具で、もう何千年も前からこの図書館を守り続けているのですって」
(はう)
思わずそう感嘆の声を上げる。
「わたくしはシルフィーナと言います。よろしくね。あなたが魔力紋の登録をしてくださるの?」
ちょっと屈んでそう声をかけてみる。
くりくりっとしたぬいぐるみの目が、こちらを興味深そうに覗き込むのがわかった。
「ごめんなさい。ぼく登録の権限無い」
「ああでも、お義姉様はスタンフォード侯爵の妻なのですから、なんとかなりませんの?」
「王族登録、上級貴族登録のマスタを検索します」
そう言って少し考えるように首を傾げるフロスティ。
「やっぱり、シルフィーナ、登録ない」
「え? でも……」
「魔力的に繋がりのある場合、自動登録は可能です。でも、シルフィーナ、登録、ない」
(ああ、ああ……)
自分は仮初の契約婚だから。
そう、立ち尽くすシルフィーナ。
「まだ早かったのかしら。ごめんなさいねお義姉様。貴族の結婚は相手の魔力をもその血縁に染めていくのですけど、きっとまだ少し時間がかかるのかもしれませんわ。ちゃんとした人の管理者がいればよかったのですけどしょうがありません。出直しましょ?」
呆然としてしまったシルフィーナを促すように、エヴァンジェリンは彼女を外に連れ出して。
(ああ、これはお兄様を問い詰める必要がありそうですね……)
そう独りごちた。
紅い煉瓦でできた塔のように背の高いそれ。
周囲を覆う樹々から頭ひとつ抜き出たような、そんな建物。
「ほら、あれがこの国で一番の図書館、王立図書館ですわ」
エヴァンジェリンが指を指し示すそこ。
入り口の大きな門には門番が二人立って警護にあたっている。
「今日は平日ですからね。入り口には職員が待機しているはずですわ」
そう言って先に歩く彼女。
王宮外苑はその中に馬車を乗り付けることはできない。
警護の問題もあるし、外苑の景観を保つ意味もある。
乗って来た馬車を外苑入り口の馬車寄せに止め、御者はそこに残したまま二人で歩いてここまで来た。
門をくぐるとエントランスがあり、そこにはまた魔力的な門、ゲートが設られている。
「登録してある者しか通ることのできない魔力紋ゲートなのです。大事な御本もありますから、それを護るためにこういった魔力的な警護も万全というわけですわ」
そういうと、ゲートの前にある石板に手をかざすエヴァンジェリン。
「わたくしは貴族院で登録を済ませましたの。学生にはここの図書館の資料は必須ですからね。中に職員がいるはずですからすぐ呼んで来ますわね。お義姉様はそこでお待ちくださいな」
そう言ってゲートをくぐり奥に進む彼女。
(ここには目に見えない壁があるのだわ)
そう感じるシルフィーナ。
触ってみると確かにガラスのような質感の壁があることがわかる。
貴族院。
自分が通うことのできなかったそれ。
(そうよね。普通の貴族は皆貴族院に通うのだもの)
そう感慨に耽る。
人には誰しも魂というものがある。
心の元、と言ったらいいか。
自身の心の奥底にある、真那の塊。
それが魂。
人の体が生物学的なものだとしたら、この魂は精神的なその人の実体だとも言える。
人は皆、死と共にこの魂が肉体より離れ。
そうして大霊に還るのだ。
そして、大霊の中で混ざり合い分離し、また新たな魂となり新しい生命として生まれいづる。
そんな魂にある個性。それが魔力紋とよばれるものだ。
そんな魔力紋を感知し魔力的なゲートとして使用している魔道具がこれ、魔力紋ゲートと呼ばれるものだった。
ただし。
魔道具の中でも特に、こうした魔力紋ゲートなどは聖魔具というカテゴリーに分けられる。
技術的にもはや失われた過去の理論を使用しているこの魔力紋ゲートは、現在の技術では再現不能な聖なる技術とされていた。
「お待たせしましたわ。うーん、本当は人の管理人がいらっしゃるはずなんですがどうやら今はお留守のようなのです。この子でなんとかなるのかどうなのかわからないのですが……」
帰ってきたエヴァンジェリンが連れて来たのは、ちょうど子供のようなサイズの猫の着ぐるみ? だった。
ひょこひょこと歩いて近づいてくるそれ。
縞々な模様。口の周りと手足は白く、グレイのタキシードを着ているその着ぐるみは、シルフィーナに近づくと、言った。
「こんにちわ。登録の無いお嬢さん。ぼくはフロスティ、よろしくね」
ぬいぐるみとしては大きい、でも、大人の人が入るにはちょっと小さい。
そんな猫の着ぐるみ。
中には子供が入っているのだろうか?
シルフィーナがそんなふうに思ったところでエヴァンジェリンが言った。
「この子はこの図書館の司書のオート・マタというものですわ。自動人形? とでもいえばわかりやすいでしょうか。魔力紋ゲートと同じような聖魔具で、もう何千年も前からこの図書館を守り続けているのですって」
(はう)
思わずそう感嘆の声を上げる。
「わたくしはシルフィーナと言います。よろしくね。あなたが魔力紋の登録をしてくださるの?」
ちょっと屈んでそう声をかけてみる。
くりくりっとしたぬいぐるみの目が、こちらを興味深そうに覗き込むのがわかった。
「ごめんなさい。ぼく登録の権限無い」
「ああでも、お義姉様はスタンフォード侯爵の妻なのですから、なんとかなりませんの?」
「王族登録、上級貴族登録のマスタを検索します」
そう言って少し考えるように首を傾げるフロスティ。
「やっぱり、シルフィーナ、登録ない」
「え? でも……」
「魔力的に繋がりのある場合、自動登録は可能です。でも、シルフィーナ、登録、ない」
(ああ、ああ……)
自分は仮初の契約婚だから。
そう、立ち尽くすシルフィーナ。
「まだ早かったのかしら。ごめんなさいねお義姉様。貴族の結婚は相手の魔力をもその血縁に染めていくのですけど、きっとまだ少し時間がかかるのかもしれませんわ。ちゃんとした人の管理者がいればよかったのですけどしょうがありません。出直しましょ?」
呆然としてしまったシルフィーナを促すように、エヴァンジェリンは彼女を外に連れ出して。
(ああ、これはお兄様を問い詰める必要がありそうですね……)
そう独りごちた。
13
あなたにおすすめの小説
氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―
柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。
しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。
「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」
屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え――
「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。
「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」
愛なき結婚、冷遇される王妃。
それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。
――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
結婚5年目のお飾り妻は、空のかなたに消えることにした
三崎こはく
恋愛
ラフィーナはカールトン家のお飾り妻だ。
書類上の夫であるジャンからは大量の仕事を押しつけられ、ジャンの愛人であるリリアからは見下され、つらい毎日を送っていた。
ある日、ラフィーナは森の中で傷ついたドラゴンの子どもを拾った。
屋敷に連れ帰って介抱すると、驚いたことにドラゴンは人の言葉をしゃべった。『俺の名前はギドだ!』
ギドとの出会いにより、ラフィーナの生活は少しずつ変わっていく――
※他サイトにも掲載
※女性向けHOT1位感謝!7/25完結しました!
愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
私の願いは貴方の幸せです
mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」
滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。
私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる