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第二部。

回廊。

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 宮殿をぐるりと取り囲むように造られている回廊をジェラルドに手を引かれながら歩く。

 時折こちらに気を遣ってくださるそのスマートな身のこなしが上品で。
 よくある騎士の荒々しさは全く感じないそんな彼に。

 ああ、子爵家の御子息様ですもの。
 そう感心をするシルフィーナ。

 スタンフォード家の家臣である騎士や、普段、王国騎士団の一員として旦那様に付き従う騎士様とも少し違った印象で。

 その宝石のように赤く燃えるように映える髪。
 そして。
 すっと整った鼻筋に、そっとかかる眼鏡。

 銀の縁取りのその眼鏡は、彼の印象を一層、騎士というよりも文官よりに見せていた。
 普通に見れば、ここまで美麗な顔立ちの華奢な青年が騎士だとは思えなかっただろう。


 貴族の一族であっても爵位を継げるものはその当主に限られる。
 当然、嫡男となれなかった男子には、その後の選択肢が限られる。

 領家の家臣となり家を盛り上げていく、か。
 より上級貴族の家に仕える、か。
 騎士団への入団を目指し、功績を立て騎士爵や士爵を目指すか。
 いっそ、独立して家を起こし、事業を始め商人の道を目指す、か。

 後は貴族とは縁を切り、過酷な一冒険者となり、他国へ赴くか。

 である。



 この地には巨大な国家がいくつかあり、そしてその周囲に小国が散らばっている。
 人々の往来は東西中央海の道を通じていくつもルートがあり、それはまた、交易に従事する民族によって都度開発されていた。

 この国、アルメルセデスは小国ながら、西は山脈、南と東は海に隔たれ、そして北は雪深い氷河に覆われた地域とあって、あまり他国との戦禍には巻き込まれることなく長い歴史を誇ってきた。

 海を隔てたはるか東には龍が住まうという華国。南には砂漠の国カナン。そして山脈を隔てた西には帝国。
 アルメルセデスは地域的に、この西の地域の覇者である帝国の影響下にあると言える。
 過去、アルメルセデスの王室が絶えた時、帝国からその皇室の血筋の者を王に迎えたこともあった。
 それでも属国とはならず独立を保ったのも、この地の特殊性故だろう。


 ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。

 しかし、この国を一歩外に出てみると。
 そこには魔獣や魔物が闊歩する過酷な環境が広がっている。

 ここアルメルセデスでは神の氣生命を司る真那マナに護られているおかげであまり発生することの少ない魔も、外の世界ではまた違った装いを見せるのだ。
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