お飾り妻は離縁されたい。「君を愛する事はできない」とおっしゃった筈の旦那様。なぜか聖女と呼んで溺愛してきます!!

友坂 悠

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第二部。

夜の講義。

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 マグネシア高地より西、エウロパ亜大陸全土をほぼ支配下に置く帝国は、ただ帝国とだけ呼称される。
 その歴史は古く、過去にはその発祥の地の名をもって呼ばれていたこともあった帝国。
 しかし幾千万の人々が暮らすその地では、もはや発祥の地など一地方に過ぎない。
 過去何度もの遷都がされたその帝都には、エウロパの大地に敷設されたすべての紅い街道が最終的にそこに到着するという。
 ここ、エウロパに住むすべての人々の尊敬を一心に集める帝国皇室は、人々の心の拠り所ともなっていた。

 帝国の民によって、古くはマグネシアの名で呼ばれていたここアルメルセデスは歴史こそ帝国と並び古い国家であるものの、現在の王室は帝国皇室の血を受け継いでいるいわば帝国とは兄弟のような国家として繁栄を重ねてきた。
 過去、王室が絶えた時に帝国の皇子を王に迎え国家を存続させたアルメルセデス。
 現在の貴族もその多くは帝国貴族にその血の由来を持つものが多い。

 そんな中、古くからこの地、アルメルセデスの地を守り続けた貴族の血筋もまだ残ってはいる。
 軍務を預かるスタンフォード侯爵家。
 国境を守るガレリア辺境伯。
 そして、古くからの巫女の血を残す、コレット伯爵家。
 これらの古い家系は、旧王室の血を引く末裔として、未だアルメルセデス国内ではそれなりの地位を保っていた。

 ♢ ♢ ♢

「それでも、アルメルセデスは他の属国や属州、公国などとは違い、自主独立を保ってきたのです」

「それがこの地の特殊性に由来する、の、でしたわね」

「ええ。もうこのあたりの歴史は教えることも無くなってきましたね」

「ううん、タビィ。歴史はほんと好きよ。どんな物語よりもあなたの語ってくれる歴史のお話は興味深いもの」

「ありがとうございますシルフィーナ様。それでは次はここマグネシアがいかにしてアルメルセデスと成ったのか。この国の成り立ちを学びましょうか。次回は明後日の夜になりますね」

「そうね。明日の夜はいよいよ帝国皇太子の歓迎の宴ですもの。わたくし流石にお酒を頂いた後のお勉強は避けたいですわ」

「お酒の影響はキュアで消せますよ?」

「あは。タビイ。それではせっかくのほろ酔いの気分が味わえなくなってしまうわ。お酒を頂く意味も無くなってしまうもの」

「うーん。まぁ、それはそれで。少しかわいそうですかねぇ?」

「もう! 知らない!」

 ぷんと横をむくシルフィーナの顔を下から覗き込むタビィ。

 じーっと見つめられるとそのくりくりっとした瞳がかわいらしくて。
 怒っても、すぐに許してしまいそうになる。

(もう、しょうがないわね)

 そんなふうに小さくつぶやいて。

 夜の寝る前にこうしてタビィに話を聞くのは楽しい。
 勉強、ではあるのだけれど、それだけではない心地よさを感じていた。
 一日のいろいろな雑務を終え、ベッドに入るその前に。
 少しだけこうしてタビィによる講義の時間を設けている。
 魔法学の勉強や実地については主に朝食後の時間に済ませているけれど、それだけでは追いつかない部分の補足講義という位置付けで始めたものだったけれど。
 それでもこうして寝る前に夜伽話のように聞く歴史の話は興味深くて。

 サイラスは何かと夜も忙しくしていることも多く、シルフィーナが一人寝となる日も多い。
 そうした夜に。
 寂しさを紛らわせるのにもこの講義は一役を買っていた。



 に、しても。

 今日の話にあった、古い王家の末裔のお話。
 この、スタンフォード侯爵家がなぜ代々王国騎士団を統率しているのかが少しわかったような気がして。
 あと、コレット伯爵家といえば。

 そう、先日お会いしたウイリアムス様に嫁いだのがいとこのフランソワ・コレットだった。

 お子も一人いらっしゃる。まだ幼い赤子であったけれど、青みがかったその銀の髪は、自分の髪と少し似ていて。

 それに。

(ガレット辺境伯といえば、その御子コーネリアス様が今回アルブレヒト殿下と共にいらっしゃるとおっしゃっていましたね)

 明日にはそんな方々とお目にかかることもできるのだろうか?
 そんなことを考えつつ、シルフィーナはそっと寝室の灯りを消した。
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