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第二部。
請う皇女。
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通されたのはサラ皇女が泊まるゲストルームに設られた応接コーナーだった。
「よくいらっしゃいました。サイラス様、シルフィーナ様」
シルフィーナたちが部屋に通されると同時にさっと席を立つサラ皇女。そうしてそのまま軽く会釈すると手招きで二人に手前のソファーを勧める。
着座すると同時に周囲のメイドたちがさっと飲み物のカップを差し出す。
優雅にそっと口をつけ、こちらに向かって笑みをこぼすサラ。
「帝国で流行りのお茶ですわ。お口に合うといいのですけど」
そう、ゆったりと話す。
「ありがとうございます。いただきます」
隣でなぜかむっつりと黙ってしまったサイラスを横目で見ながらそう応えるシルフィーナ。
「あの、サラ様……」
じっとシルフィーナを見つめるだけのサラにサイラスが痺れを切らしているのを感じ、そう声をかけてみる。
「どう、お口にあったかしら?」
それでもそんなことを意に返さない様子で笑みを絶やさずゆったりとそう言うサラに。
「私たちはあの溢れた魔の瘴気に対して帝国側がどう対処されるおつもりなのか、それを尋ねにきたのです。まったりとお茶を楽しむためにわざわざ参ったのではありません」
そう冷たい声で言い放つサイラス。
「ええ。それについては帝国においても憂慮しておりますわ。ですからシルフィーナ様をお貸しいただけないか? と、事前に打診をしたのですけれど」
「それは難しいとしか言いようがありません。彼女はこの国においても必要です。魔力災害に対応するために騎士団を出動させますが、それにも同行してもらう予定ですから」
「この国には別に、ちゃんと聖女として認定されている方々がいらっしゃるではありませんか?」
「聖女宮の聖女は残念ながら魔を払うまでの力を持ちません。多少の回復魔法や聖魔法が使えるのみです。そもそもそれも、欠損を回復させうる力もないのです」
「それが本当なのだとしたら、そちらのシルフィーナ様は聖女どころか大聖女に認定されていなければおかしいのではないですか? 聞けば準聖女にさえ認定されていないのでしょう?」
「聖女に、せめて準聖女に、という話はあった。しかし……」
「わたくしがお受けしなかったのです。自信がないから、と」
「シルフィーナ様……。まあ貴女はそうなのかもしれませんね……。帝国にいらしてくださらないのはもう仕方がないと諦めていますわ。でも、せめて」
サラ皇女はシルフィーナに向き直り、両手を取って跪く。
「せめて、貴女を大聖女に認定させていただけませんか? 帝国聖女宮より、大聖女の称号を贈りたいと思っています。貴女にはそれだけの力があります。貴女の活躍はそれを裏付けるのに十分なのですもの」
熱心にそう話すサラの視線はまっすぐシルフィーナの目を見据えていた。
嘘や偽りでも、ましてや交渉の材料でもない。
ただシルフィーナにそれだけの価値があるのだと。シルフィーナにそんな大聖女の地位を送りたいのだと、そう話す彼女に。
それ以上、あらがうことはできなかった。
帝国皇女が跪いて請うのだ。
そんな真似をさせてしまった自分に、申し訳なさの方が先に立つ。
「すみません。サラ様。わたくしのような者でよろしければ、そのお申し出をお受けしたいと思います……」
「よくいらっしゃいました。サイラス様、シルフィーナ様」
シルフィーナたちが部屋に通されると同時にさっと席を立つサラ皇女。そうしてそのまま軽く会釈すると手招きで二人に手前のソファーを勧める。
着座すると同時に周囲のメイドたちがさっと飲み物のカップを差し出す。
優雅にそっと口をつけ、こちらに向かって笑みをこぼすサラ。
「帝国で流行りのお茶ですわ。お口に合うといいのですけど」
そう、ゆったりと話す。
「ありがとうございます。いただきます」
隣でなぜかむっつりと黙ってしまったサイラスを横目で見ながらそう応えるシルフィーナ。
「あの、サラ様……」
じっとシルフィーナを見つめるだけのサラにサイラスが痺れを切らしているのを感じ、そう声をかけてみる。
「どう、お口にあったかしら?」
それでもそんなことを意に返さない様子で笑みを絶やさずゆったりとそう言うサラに。
「私たちはあの溢れた魔の瘴気に対して帝国側がどう対処されるおつもりなのか、それを尋ねにきたのです。まったりとお茶を楽しむためにわざわざ参ったのではありません」
そう冷たい声で言い放つサイラス。
「ええ。それについては帝国においても憂慮しておりますわ。ですからシルフィーナ様をお貸しいただけないか? と、事前に打診をしたのですけれど」
「それは難しいとしか言いようがありません。彼女はこの国においても必要です。魔力災害に対応するために騎士団を出動させますが、それにも同行してもらう予定ですから」
「この国には別に、ちゃんと聖女として認定されている方々がいらっしゃるではありませんか?」
「聖女宮の聖女は残念ながら魔を払うまでの力を持ちません。多少の回復魔法や聖魔法が使えるのみです。そもそもそれも、欠損を回復させうる力もないのです」
「それが本当なのだとしたら、そちらのシルフィーナ様は聖女どころか大聖女に認定されていなければおかしいのではないですか? 聞けば準聖女にさえ認定されていないのでしょう?」
「聖女に、せめて準聖女に、という話はあった。しかし……」
「わたくしがお受けしなかったのです。自信がないから、と」
「シルフィーナ様……。まあ貴女はそうなのかもしれませんね……。帝国にいらしてくださらないのはもう仕方がないと諦めていますわ。でも、せめて」
サラ皇女はシルフィーナに向き直り、両手を取って跪く。
「せめて、貴女を大聖女に認定させていただけませんか? 帝国聖女宮より、大聖女の称号を贈りたいと思っています。貴女にはそれだけの力があります。貴女の活躍はそれを裏付けるのに十分なのですもの」
熱心にそう話すサラの視線はまっすぐシルフィーナの目を見据えていた。
嘘や偽りでも、ましてや交渉の材料でもない。
ただシルフィーナにそれだけの価値があるのだと。シルフィーナにそんな大聖女の地位を送りたいのだと、そう話す彼女に。
それ以上、あらがうことはできなかった。
帝国皇女が跪いて請うのだ。
そんな真似をさせてしまった自分に、申し訳なさの方が先に立つ。
「すみません。サラ様。わたくしのような者でよろしければ、そのお申し出をお受けしたいと思います……」
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ありがとうございます。
この先のお話とか世界観のお話とかも考えているので、
現在シルフィーナのその後のストーリーと、彼女たちの次の世代のお話とを書いてます。
できたらまたこちらに掲載させて頂きますのでよろしくお願いします。
素敵なお話でした‼️
私も番外編、お願いします
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ありがとうございます〜♬
頑張って続き書きます💕
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ありがとうございます〜。
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