高卒サラリーマンが脱サラして田舎でスローライフするだけの話

らいお

文字の大きさ
38 / 71

皆ではしゃごうBBQ 第四話

しおりを挟む
 さぁピザを焼くぞ!
 俺はそそくさとバーベキューをしていた焚き火台を崩し、新しく石ブロックと鉄板を組み合わせて簡易のピザ窯を作った。結構簡単に作れるので調べてやってみるといいよ。

「へぇ、こうやって作るんだな」

 清水さんが感心しながらまじまじと見てくる。

「簡単に作れるもんですよ。自由に治具作ってるみたいで楽しいですよ。清水さん宅の庭でも出来るんじゃないですかね。煙凄いですけど」
「はははっ、住宅街でできるわけがないだろ」

 デスヨネー。住宅街でやろうものなら苦情の嵐だろうな。
 さて、雑談はここまでにして準備の続きをやろう。
 まずはピザ窯の底面部に設けていた焚き火に火を付け、薪をくべながら安定するまで見守る。

「よし、そろそろいいかな」

 火が安定した事を確認すると次は食材の準備だ。生地は前もって作って寝かせていたので具材を乗せていくだけだが、こういった作業は皆でやったほうが楽しいだろうな。

「生地持ってきたんで、皆で好きな具材乗せましょうか。ほら、子供達もやっていいよ」

 俺は持ってきた具材を並べ、生地を指さしながら子供達に言う。

「うぉぉ、なんか楽しそう!」
「お母さん、やってくる!」

 先程まで寝ていたので元気いっぱいな須藤さんと清水さんのお子さん達ははしゃぎながら具材を選んでは乗せていく。

「サクラコはいいのか?」

 俺は横にいたただそれを眺めるだけのサクラコに言う。少し難しい表情をしているサクラコを見るからに、どうやらまだお子さん達とは仲良くなれていないようだった。大人達とはもう仲良くなってたのになぁ。同年代の子供との距離感が分からないのかもしれないな。

「うーん……なんかね、よく分からないんだよね」

 分からない、か……俺も同年代の友人よりも年上の友人のほうが多いが、そこまで渋い顔をするほど分からないなんて事は経験したことが無いな。

「まぁなんだ……俺や他の大人達と話すようにすればいいんじゃないかな。ひとまず、なんでもいいから行ってこい。俺も横にいてやるからよ」
「えっ、ちょっと孝文ぃっ!」

 サクラコの背中をぐいぐいと具材を選んでいる子供達の傍まで押していく。

「ほらお前ら―。ちゃんと野菜も選ぶんだぞー」
「えぇー、肉でいいじゃん!」
「お野菜、ちょっと苦手……」

 どうやら子供達は野菜が苦手なようだな。美味いんだけどなぁ。

「サクラコはしっかり食べれるんだぞー?お前らより年下なのに偉いもんだ」
「えー、サクラコちゃん野菜食べれるのー!?」
「う、うん。……お野菜、美味しいよ?」
「すごーい!」

 こんな調子でサクラコに話を振ってやると、子供達も食いついてどんどんと話していくようになっていった。

「お前、子供の相手上手いのな」

 子供の様子を見に来た清水さんが言う。

「あぁ、清水さん。いやぁ、上手いとかそんなんじゃないですよ。ただ会話を繋げてるだけですって」

 子供達を見てみると、もうじゃれあいながら一緒に具材を選んでいる。楽しそうだな。
 サクラコももう無邪気に笑っているし、心配は無さそうだな。

「よし、じゃあ焼いてくぞー。これは危ないから俺がやるからな」

 子供達がトッピングしたピザを、窯に入れて熱する。火加減が難しいから時折様子を見ながら焼いていくか。

 そこから大人達も交えて具材をトッピングしつつ、沢山のピザを用意しそれを焼いていく作業に移行した。



 ピザを焼きだしてから1時間、まだ用意したピザの全てを焼くことはできていないが、焼きあがった分から皆に食べだしてもらっている。
 常にピザ窯の傍にいて焼き加減と火加減を確認しているので、もう汗だくだ。
 額から滴る汗をぬぐっていると、ふと後方から涼しいそよ風が吹いてきたので顔を向けてみると、飯田さんが団扇で扇いでくれていた。

「飯田さん、ありがとうございます」
「頑張りすぎはいけないよぉ。ちょっと休憩してもいいんじゃないかしら?」

 確かに、ずっと焼きっぱなしだったからな。そろそろ水分補給をしないと汗の量からして脱水症状で倒れてしまうだろう。

「そうですね。これが焼き終わったら休憩にしますよ」

 そう言うと飯田さんは微笑み、団扇で扇ぎながら見守ってくれていた。



 焼き終わると俺は飯田さんに礼を言い、汗でびしょびしょな服を着替えるために室内に来ていた。
 汗を軽く拭き、着替え終わると念のため保護した子犬の様子を見に行くとまだゲージの中で寝ていた。やはり子犬はよく寝るな。そのまま騒がずに大人しくしておいてくれよ?

 その後庭に戻ると相変わらず盛り上がっていて、酒でも飲んでいるのかと心配になってしまうほどだった。
 今回酒は一切用意していない。全員今日中に帰るし、車やバイクで来ているので酒は飲まないようにと前もって忠告していたのだ。

「おっ、喜多ぁっ!聞いてくれよこの前部長の野郎がよぉ!」
「はいはい、聞きますよー。また部長がやらかしたんすか」

 まったく、俺は会社を辞めてる身だというのに相も変わらず愚痴を聞かされるんだな。まぁいいか。俺が辞めてからどうなったか気になっていた部分もあるのでこの際に聞いてしまおう。

 そんな具合で愚痴を聞いたりピザをまた焼いたり、子供達と遊んだりクロエや烏骨鶏達の様子を見たいなどで慌ただしくしていると時間というものはすぐに過ぎるもので。
 気が付けば夜も更け21時過ぎ。そろそろ皆帰る準備を始めだした。
 清水さんと須藤さんのお子さん達は遊び疲れたのかもう寝ている。夕方も寝ていたのに、子供は遊んで寝てで忙しい限りだ。

 最初に帰ったのは松田さんと青央さんだった。帰り道に温泉があるらしく、そこに寄っていくそうだ。いいなぁ、温泉。俺も行きたい。
 その次はてんちょーと猫村さん、飯田さん。飯田さんと猫村さんは近いのでいいが、てんちょーはどうやらここまで歩いてきたらしい。正確な場所は知らないが、歩いて来れる距離だったのか。しっかり光り輝くヤカンは持ち帰ってもらったよ。
 そして次は清水さんファミリーと須藤さんファミリー。最後の最後に「仕事嫌だ―!ずっとここにいる!」と言っていたが知りません。管理職は苦労がいっぱいだね。頑張ってください。
 そして最後に残ったのが――

「サクラコ、君はいつまでここにいるつもりだ?」

 皆が帰って10分以上経っているが、いつまでも帰ろうとする気配のないサクラコ。何故か声を掛けても黙ったままだし、しまいには手を握ってくる始末。どうした急に。

「……ごめんね孝文。なんかね、帰りたくないの」

 絶世の美女に言われたい言葉№1を頂きました。
 でもな、帰りたくないのはわかるよ。楽しい時間って終わっちゃうと少し寂しさを感じるからな。某ネズミの国に行った帰り道とか同じ感情になりがちだ。
 とはいえ、まだ小学校低学年の子供を家に帰らせないわけにはいかないし……どうしたものか。そろそろ親が心配してしまうだろう。

「サクラコ、そろそろ帰らないと親が心配するぞ?家まで送ってやるから一緒に帰ろうな?」
「……でも、家帰っても独りだし」

 独り?親は帰ってきていないのか?人様の家庭環境に口を突っ込むわけにはいかないが、さてどうしたものか。

「親は、仕事か何かで出かけてるのか?」
「うん、ずっと他のところに行ってるの。ママもパパもどこか行ってるから、わたしはいっつも家では独りなんだ」

 出張か何か仕事の都合で家を空けるなんてのはどこの家庭でもあるものだろう。だけど、両親が常に家を空けるなんて――普通ではないだろうな。

「いつ帰ってくるとかは知ってるのか?」
「……うぅん、知らない」

 子供に関心が無い親なのかもしれないな。どうしたものか……

「……ひとまず、今日は泊っていくか?」
「いいの?」
「いいも何も、いくら田舎とはいえこの時間に帰らせるのも危ないだろうし……いいよ、泊ってけ」
「うんっ!ありがと孝文!」

 先程までの沈んだ表情とは打って変わって明るい表情になり、いつも通りのサクラコに戻った。
 今日だけでなんだか疲れたな。やたらと動いた、って事もあるけど、子犬を拾ったりサクラコの家庭事情だったりな問題もあったりで身体的にも、精神的にも疲れた。
 ……あぁそうだ。今日はサクラコが泊るからほなみさんとの電話はできないだろうな。後で連絡しておこう。
 そんな事を考えながら、室内に入っていくサクラコの後ろ姿を眺める孝文だった。


〇作者の独り言
あれからずっと孝文くんとほなみさんの『一日に一回電話をする』という約束は続いています。何話してるんでしょうね。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

居酒屋で記憶をなくしてから、大学の美少女からやたらと飲みに誘われるようになった件について

古野ジョン
青春
記憶をなくすほど飲み過ぎた翌日、俺は二日酔いで慌てて駅を駆けていた。 すると、たまたまコンコースでぶつかった相手が――大学でも有名な美少女!? 「また飲みに誘ってくれれば」って……何の話だ? 俺、君と話したことも無いんだけど……? カクヨム・小説家になろう・ハーメルンにも投稿しています。

処理中です...