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永泰の夜
第二十三話 2
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ユースィフが炎龍と別れた凡そ一刻後、馬車や荷台に乗った氷漬けの人間が次々と華潤宮へと運ばれてきた。
「兄ちゃん達!!無事だったんだね!!」
村人の中には、あの山道でユースィフ達を付けてきて居た少年もいた。
「だから、大丈夫だって言ったろ?」
ハーシムの言葉に、少年は笑う。
「円覚先生と同じくらい強いってのは、本当だったんだね!」
「ああ、そう。同じくらいな」
村の人間が総出で氷漬けの人間を運び出している。
その中にはジュードも居た。
相変わらず氷の中でピクリとも動かない。
庭にはユースィフが皆が来る前に魔術で出した水を、炎龍が湯を沸かした温泉が湯気を立てていた。
既に炎龍の姿は見えない。
アスアドは、しっかりとジュードを持つと、そっとその湯の中につける。
じわり、と何をしても解けなかった氷が、湯の中で少しずつ解けていった。
「おおおお!」
村民からも歓声が上がる。
しばらくすると表面の氷は全て溶け、その青かった顔色にも赤みが刺してきた。
アスアドは、再び注意深くジュードを引き上げると、布の上に寝かせる。
「…おい、ジュード!」
「いい加減目を覚ませ!」
アスアドとハーシムの言葉に、僅かにジュードの瞼が揺れる。
「……!!」
それから瞬き一つか二つ分の時間の後、ジュードの目にゆっくりと光が灯った。
「ジュードさん!」
「あ…れ?わたしは……」
ジュードの言葉に、ユースィフは人知れずほっと息をついた。
身体中の力が抜ける。
「よかった……」
「ユースィフ様?」
ユースィフは地面に座り込むと、ふうと長いため息をついた。
「ユースィフ様?じゃないぞ!こんなに心配をおかけして!」
アスアドが目に涙を溜めながらそう言って怒る。
「まあまあアスアドさん。無事だったんだから良しとしましょう、ね」
ジュードは士英の手を借りながら身体を起こすと、徐々に記憶を取り戻してゆく。
周りでは、次々と村人達が目を覚ましていっていた。
「随分とご迷惑、おかけしてしまいましたね…」
ジュードが申し訳なさそうに言うと、ユースィフはおおらかに笑う。
「いや、無事ならそれでいい。ひとまず良かった」
ユースィフがそう言って立ち上がると、村人から人一倍大きな声が上がった。
「兄ちゃん!!兄ちゃん!!良かった!!生きてた!!」
見れば先ほどの少年が、1人の青年に抱きついて泣いている。
青年は溶かされたばかりで何が何だかわからないと言った風だったが、とにかく少年を慰めた。
「良かった。彼の兄も無事に戻ったのですね」
士英の言葉にハーシムが頷くと、さてと、と立ち上がる。
「戦ったりしてたやつには悪いが、おれたちにはあまり時間がない…」
「それはそうですね」
「簪は手に入ったのですか?」
ジュードの言葉に、ユースィフは羊桂英の簪を取り出してみせた。
「ああ、この通りだ」
「流石ユースィフ様ですね」
ジュードの言葉に士英は周りを見渡して言う。
「ジュードさん、起きたばかりで申し訳ありませんが、この隙に我々はお暇しましょう…」
村人に見つかってしまえば、感謝の宴やら何やらで時間をとられそうな事この上ない。
先を急ぐユースィフ達にとって、それはあまりありがたくない話だった。
それに、そもそも簪という目的があってここにきたわけであって、ユースィフ達は単純に人助けできたのではない。
だから、そう盛大に感謝されるのも筋違いなような気がするのだ。
「はい、その方が良さそうですね」
察したジュードは素早く着替えを済ませると、温泉を背にする。
『ーーまた来い』
不意に頭の中で響いた声に頷きながら、ユースィフ達はそっと村人達の輪の中から出た。
そして、再び大きくなった小狼の背中に乗る。
そのまま傾き始めた陽の中を、永泰まで激しい速さで戻って行った。
「兄ちゃん達!!無事だったんだね!!」
村人の中には、あの山道でユースィフ達を付けてきて居た少年もいた。
「だから、大丈夫だって言ったろ?」
ハーシムの言葉に、少年は笑う。
「円覚先生と同じくらい強いってのは、本当だったんだね!」
「ああ、そう。同じくらいな」
村の人間が総出で氷漬けの人間を運び出している。
その中にはジュードも居た。
相変わらず氷の中でピクリとも動かない。
庭にはユースィフが皆が来る前に魔術で出した水を、炎龍が湯を沸かした温泉が湯気を立てていた。
既に炎龍の姿は見えない。
アスアドは、しっかりとジュードを持つと、そっとその湯の中につける。
じわり、と何をしても解けなかった氷が、湯の中で少しずつ解けていった。
「おおおお!」
村民からも歓声が上がる。
しばらくすると表面の氷は全て溶け、その青かった顔色にも赤みが刺してきた。
アスアドは、再び注意深くジュードを引き上げると、布の上に寝かせる。
「…おい、ジュード!」
「いい加減目を覚ませ!」
アスアドとハーシムの言葉に、僅かにジュードの瞼が揺れる。
「……!!」
それから瞬き一つか二つ分の時間の後、ジュードの目にゆっくりと光が灯った。
「ジュードさん!」
「あ…れ?わたしは……」
ジュードの言葉に、ユースィフは人知れずほっと息をついた。
身体中の力が抜ける。
「よかった……」
「ユースィフ様?」
ユースィフは地面に座り込むと、ふうと長いため息をついた。
「ユースィフ様?じゃないぞ!こんなに心配をおかけして!」
アスアドが目に涙を溜めながらそう言って怒る。
「まあまあアスアドさん。無事だったんだから良しとしましょう、ね」
ジュードは士英の手を借りながら身体を起こすと、徐々に記憶を取り戻してゆく。
周りでは、次々と村人達が目を覚ましていっていた。
「随分とご迷惑、おかけしてしまいましたね…」
ジュードが申し訳なさそうに言うと、ユースィフはおおらかに笑う。
「いや、無事ならそれでいい。ひとまず良かった」
ユースィフがそう言って立ち上がると、村人から人一倍大きな声が上がった。
「兄ちゃん!!兄ちゃん!!良かった!!生きてた!!」
見れば先ほどの少年が、1人の青年に抱きついて泣いている。
青年は溶かされたばかりで何が何だかわからないと言った風だったが、とにかく少年を慰めた。
「良かった。彼の兄も無事に戻ったのですね」
士英の言葉にハーシムが頷くと、さてと、と立ち上がる。
「戦ったりしてたやつには悪いが、おれたちにはあまり時間がない…」
「それはそうですね」
「簪は手に入ったのですか?」
ジュードの言葉に、ユースィフは羊桂英の簪を取り出してみせた。
「ああ、この通りだ」
「流石ユースィフ様ですね」
ジュードの言葉に士英は周りを見渡して言う。
「ジュードさん、起きたばかりで申し訳ありませんが、この隙に我々はお暇しましょう…」
村人に見つかってしまえば、感謝の宴やら何やらで時間をとられそうな事この上ない。
先を急ぐユースィフ達にとって、それはあまりありがたくない話だった。
それに、そもそも簪という目的があってここにきたわけであって、ユースィフ達は単純に人助けできたのではない。
だから、そう盛大に感謝されるのも筋違いなような気がするのだ。
「はい、その方が良さそうですね」
察したジュードは素早く着替えを済ませると、温泉を背にする。
『ーーまた来い』
不意に頭の中で響いた声に頷きながら、ユースィフ達はそっと村人達の輪の中から出た。
そして、再び大きくなった小狼の背中に乗る。
そのまま傾き始めた陽の中を、永泰まで激しい速さで戻って行った。
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