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しおりを挟む夕陽が出てきた頃、ラニエラの元へと戻ってきたルルフは見るからに落ち込んでいる。
少し涙ぐみながら「大変申し訳ございません」と頭を垂らすルルフに、ラニエラは元はと言えば自分の注意不足なのだからと肩を数回、優しく叩いて慰める。
ルルフはラニエラの部屋で這いつくばって指輪を探していた様子を見るに、きっと外でも見逃すまいとあちこち探してくれたに違いない。
それでも見つからなかったという事は、あそこには指輪は無いのかもしれない。
ならば一体どこに落としたのか。
なんというか、あんなに小さいものを、こんなに広い城の中で、探し出せるものだろうか。
そんな不安がラニエラのあたまを過った。
見ない振りしていた現実に、血の気が引いて身体が冷たくなっていくのが分かって、今はまず目の前の事を考えよう、とラニエラは無理矢理指輪の事を思考から外した。
そうすると頭に浮かんでくるのは、もうすぐ帰ってくるはずのオルテガの事だ。
実のところ、ルルフを送り出してからずっと考えていた事がある。
どうしたものか、と思いながらオルテガから贈られた花を見ているとコンコン、と扉をノックする音が。
ルルフは此処にいるのできっと扉の先にいるのはロバンだろう。
ラニエラが目配せをすると、ルルフが「はい」と扉を開ける。
やって来たのは想像通りロバンだ。
さり気なく手を重ねて指輪をしていない指を隠したラニエラ。
ロバンは気が付いていない様で、ラニエラは静かに胸をなで下ろした。きっとルルフも同じ気持ちだろう。
「もうすぐ旦那様が領地へ入られると連絡がきました」
言いにくそうなロバンに、その先に続く言葉は容易に想像できた。
「お出迎えはいかがいたしましょうか。勿論、旦那様より奥様の気持ちを優先するようにと仰せつかっております故――…」
そして続く言葉は想像通り。
ほら、いつも通りの言葉だ。
ラニエラに、妻に、なにも期待していない、そんな言葉。
いつもならそう思って終わりだった。
しかし、今日は少し違って聞こえた。
ラニエラはロバンに向けて手をかざし、ロバンの言葉を遮る。
ロバンが黙った事を確認したラニエラは、待ってくださいとロバンを引き留め、どこかへと歩き出す。
そして戻ってきたラニエラの手には真珠のネックレスが。
オルテガからの贈り物だ。
ロバンはラニエラの意図が分からない様子で、それでも読み解こうとラニエラの一挙一動を見守っている。
これでは伝わらないか、と肩を落としたラニエラだったが諦めずにネックレスを持ってドレッサーの前に腰掛けると、ロバンの横で一緒にラニエラの意図を読み解いていたルルフが「あッ!」と声をあげる。
「もしかして旦那様のお出迎えに……?」
ラニエラは神妙な顔でゆっくりうなずいた。
昼間、ルルフを見送ってから考えていた。
なにか花束のお礼をしたいな、と。
あれがオルテガの気まぐれでも。
それでも、あの花を贈られた時のラニエラの喜びは本物だったから。
嬉しかったと、伝えたかった。
伝えるのは今のラニエラには難しいので行動で示すのはどうだろうか。
それで考え付いたのが、これだった。
今の今までろくに出迎えた事も無かったのにいきなり出迎えて驚くだろうかという不安もあり、そして自分の心境の変化を行動で示すのが気恥ずかしくもあり、ラニエラはどんな顔をしていいのかわからず硬い表情になってしまったのだが。
ラニエラの表情から無理をしているのではないかと何度もロバンから確認があったが、ラニエラはその度に首を横に振って否定した。
終いには「しつこいですよ」とルルフが味方をしてくれた事もあり、なんとかロバンも納得したようだ。
しかし、ラニエラの選択にルルフとロバンが戸惑いの表情から段々と嬉しそうな表情へと変わっていくのを見て、なんとなく気分が良くなった。
特にロバンは、ラニエラの所為で色々と苦労を掛けているに違いないだろうから。
ラニエラがそんな事を考えている間にも「きっと旦那様も喜ばれますね!」と手際よくラニエラの身支度を始めるルルフ。
昼間の時にも感じたが、どうやらルルフはラニエラとの相性が良いらしい。
そう思ったのはロバンも一緒のようで、感心した様に物言わぬラニエラの意図を読み取ったルルフを見ていた。
そうこうして決まった出迎え。
ラニエラにとってはこの城に嫁いできて初めての出迎えだった。
ルルフの手を借りて身支度をしながらラニエラは果たして急に人前に出てオルテガをうまく出迎えられるのかという恐怖と、オルテガは出迎えにやって来たラニエラを見つけた時にどんな表情になるだろうか、というほんの少しの期待で落ち着かなかった。
誰にも強要されず自分で決めた事なのに、身支度が終わりに近づくにつれラニエラの気持ちは重たくなっていく。
その度にラニエラは胸元に手を当てて、気持ちを落ち着かせる。
ルルフからは心配そうな視線が向けられるが、それでも「やはりやめましょうか」とは言わず、「綺麗ですよ、奥様」と鏡越しにラニエラを勇気づけた。
そうして、身支度が終わったとほぼ同じタイミングでロバンがやって来た。
「奥様、参りましょうか」
ロバンの合図に、ラニエラはゆっくりうなずいた。
ラニエラの足を心配し差し出された手を大人しく借りて歩きながら、いよいよ逃げられなくなった事を悟って、一気に沸いてくる緊張と不安。
このラニエラにとっての安全地帯だった部屋から出るのが怖くなって、ラニエラは名残惜しく振り返る。
無意識に行き着いた視線の先、窓際で夕陽を浴びて、また違う美しさでラニエラの視線を惹く白い花。
その姿は相も変わらず、綺麗だった。
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