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幸福論
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しおりを挟むにぎやかだった夕食の片付けが終わって、火の元と戸締りを確認した。
これでお風呂に入れば、私の今日一日が終わる。
准君はシャワーでもう済ませたのは知ってるけど、圭さんはまだのはずだった。
でも、もしかして私が買い物か夕食の支度をしてる間に入ったのかも知れない。
ここへ来てからというもの、入浴は家族の後にって心掛けてた。
私が最後なら、さっと拭き掃除もできるし。
聞いてみよう。
三階に上がると圭さんの部屋のドアをノックした。
「どうぞ。」
すぐに返事が聞こえた。
ドアを開けると圭さんはソファに寝転がってた。
仰向けになって、顔の上で何か冊子のようなものを広げて読んでた。
「お風呂、入りました?」
「まだだけど、先に入っていいよ。今、仕事中だから。」
圭さんは冊子から目を離さないで、そう答えた。
仕事中には見えないけど?
それでも、邪魔をしたら良くないことが起きる予感がした。
「すみません…お先にいただきます。」
控えめな声量で断りを入れると、そっとドアを閉じた。
朝から屋敷中を行ったり来たり、登ったり降りたり、不測の買い物ができたり、予想外の鍋だったり…
とにかく汗をかいた一日だった。
それに足がパンパン。
仕事を辞めてから通勤がなくなって、運動不足に拍車がかかった。
ここ数日の私の世界は、この屋敷の中から駅前の商店街までだった。
いつもはシャワーで済ませてたけど、今日はバスタブに湯を張らせてもらった。
シャワーで身体を流してから、お湯に浸かった。
シャワールームはホテルのようなガラス張り。
といっても、ガラス張りの風呂があるホテルなんて泊まったこともないんだけど。
最初はクリア過ぎて落ち着かなかったけど、数日で慣れた。
まずシャワールームがあって、その奥がこれもガラスの扉で仕切られた浴室。
バスタブには自宅から持ってきたオイルを、さっき垂らしておいた。
春に綾さんから誕生日プレゼントでもらったバスオイルだった。
ちょっと高めの金額のお店の物で、自分のために買うには勇気がいる。
だからもらえてうれしかったし、大事に使ってた。
元来、入浴は時間があれば毎日でも湯船に浸かりたい派だった。
それに、なんとこのお風呂…ジャグジーつき。
ボタンを押したら皮膚にまとわりつく細かい泡と、拡散されるバラの香り…
腕は耳の横につけて、足先はシャワールームに向けて身体をうーん、と伸ばした。
“こんなお風呂に毎日入ることができる幸せ"
と、
“こんなお風呂にたまに入って幸せを実感できる"
のって、どっちが幸せなんだろう?
どっちにしても、今が幸せすぎて
眠ってしまった…
応援ありがとうございます!
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