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そんなよのぎさんを見るために、今は来月のコレクションのためにひたすら縫わないと。
「よのぎさん、書斎で縫物しているね」
「七さんが縫うの?」
「縫うよ。刺繍が終わらなくてね」
デザイナーだろうと社長だろうと間に合わすためならなんでもする。
「見ていてもいい?」
「退屈だよ」
「邪魔しないから」
書斎より、よのぎさんのそばのほうが温かい。
「こうやって、内側に向かって縫うイメージ。これを繰り返すと、お花」
「すごい。でも白地に白の糸じゃ目立たない?」
「いいんだ」
「ウェディングドレスも白地に白い糸でたくさん刺繍してありますもんね。手伝えなくてごめんなさい」
「ううん」
よのぎさんに見られているだけで順調。老眼なのに指に刺すこともない。よのぎさんの大きな目が僕の指先に向けられる。
「会社の人もやってるの?」
「そうだね。今は総出でやってる。事務の人もやってるんじゃないかな」
「みんなで作ったものを縫い合わせるのね。素敵」
「よのぎさんも一針縫う?」
「いいの?」
「うん」
下手じゃなかった。靴下のほつれそうな箇所を直してくれたこともあるから、お裁縫はできるらしい。あのおじいさんと暮らして、料理はおじいさんがして、お針子作業はよのぎさんの担当だったのかもしれない。
家族というのは自然とそういう分担ができるものだ。母から、
「七は器用ね」
と言われて縫物を始めた。サッカーをしているとき仲間の破れたりほつれた靴下を直してあげた。そっちのほうが楽しかったわけじゃない。生きるために下働きから始めて、師匠が亡くなったり引き抜きされたり転々として、何となく自分で始めて今に至る。頼まれればドレスも靴も帽子も作った。でも今は、普通に着られる服を作りたい。
この仕事が終わったら、自分でよのぎさんの服を作ろう。ドレスを作って写真を撮ろう。
そう思うと全ての面倒な作業が苦ではない。
「よのぎさん、書斎で縫物しているね」
「七さんが縫うの?」
「縫うよ。刺繍が終わらなくてね」
デザイナーだろうと社長だろうと間に合わすためならなんでもする。
「見ていてもいい?」
「退屈だよ」
「邪魔しないから」
書斎より、よのぎさんのそばのほうが温かい。
「こうやって、内側に向かって縫うイメージ。これを繰り返すと、お花」
「すごい。でも白地に白の糸じゃ目立たない?」
「いいんだ」
「ウェディングドレスも白地に白い糸でたくさん刺繍してありますもんね。手伝えなくてごめんなさい」
「ううん」
よのぎさんに見られているだけで順調。老眼なのに指に刺すこともない。よのぎさんの大きな目が僕の指先に向けられる。
「会社の人もやってるの?」
「そうだね。今は総出でやってる。事務の人もやってるんじゃないかな」
「みんなで作ったものを縫い合わせるのね。素敵」
「よのぎさんも一針縫う?」
「いいの?」
「うん」
下手じゃなかった。靴下のほつれそうな箇所を直してくれたこともあるから、お裁縫はできるらしい。あのおじいさんと暮らして、料理はおじいさんがして、お針子作業はよのぎさんの担当だったのかもしれない。
家族というのは自然とそういう分担ができるものだ。母から、
「七は器用ね」
と言われて縫物を始めた。サッカーをしているとき仲間の破れたりほつれた靴下を直してあげた。そっちのほうが楽しかったわけじゃない。生きるために下働きから始めて、師匠が亡くなったり引き抜きされたり転々として、何となく自分で始めて今に至る。頼まれればドレスも靴も帽子も作った。でも今は、普通に着られる服を作りたい。
この仕事が終わったら、自分でよのぎさんの服を作ろう。ドレスを作って写真を撮ろう。
そう思うと全ての面倒な作業が苦ではない。
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