85 / 174
84
しおりを挟む
「由愛ちゃん、ここミシンお願い」
「はい」
「先生、確認お願いします」
「そこ置いて」
追い込みで、ついみんな大声になる。
「みんな、ごめんなさい。私できることなくて」
旗本さんが謝罪する。
「そんなことない。悪いけどコーヒー淹れてくれるかな?」
「はい」
ここで旗本さんに抜けられては困る。彼女は英語が堪能だし、羽切さんがいないなら一番の潤滑油。職人気質ばかりではつい言い争いになってしまう。
「先生、どうですか?」
黒田くんとトルソーに着せて最終チェック。
「いいね」
空輸するので、この空気感が出せるとは限らない。なるべく早く向こうで開梱しなくては。旗本さんが様々な角度から写真を撮ってくれる。
そういうのも全部、羽切さんがやってくれていたんだよな。
黒田くん、お願いだから旗本さんのフォローもしてくれないだろうか。彼は自分の仕事に没頭してしまう。
「大好きだよ」
の一言で、旗本さんの不安も払拭するのではないだろうか。
縫物に没頭する黒田くんを見ていると、いつかの自分を見ているよう。今はよのぎさんがいるから仕事に全神経を注ぐのは会社にいるときだけ。
ずっと、僕のそばには羽切さんがいた。彼女を愛せなかったのは同士だったからだ。仕事をする彼女が好きだった。だから、嫌いになれなかった。嫌いになりたくなくて女性として見ないようにしていたのだと思う。仕事が大事だから羽切さんも大切だと思い込みたかった。それなのに、
「もっと歳を取ってお互いに一人だったら老後は一緒に暮らそうか」
などと言って淡い期待を募らせた。
「はい」
「先生、確認お願いします」
「そこ置いて」
追い込みで、ついみんな大声になる。
「みんな、ごめんなさい。私できることなくて」
旗本さんが謝罪する。
「そんなことない。悪いけどコーヒー淹れてくれるかな?」
「はい」
ここで旗本さんに抜けられては困る。彼女は英語が堪能だし、羽切さんがいないなら一番の潤滑油。職人気質ばかりではつい言い争いになってしまう。
「先生、どうですか?」
黒田くんとトルソーに着せて最終チェック。
「いいね」
空輸するので、この空気感が出せるとは限らない。なるべく早く向こうで開梱しなくては。旗本さんが様々な角度から写真を撮ってくれる。
そういうのも全部、羽切さんがやってくれていたんだよな。
黒田くん、お願いだから旗本さんのフォローもしてくれないだろうか。彼は自分の仕事に没頭してしまう。
「大好きだよ」
の一言で、旗本さんの不安も払拭するのではないだろうか。
縫物に没頭する黒田くんを見ていると、いつかの自分を見ているよう。今はよのぎさんがいるから仕事に全神経を注ぐのは会社にいるときだけ。
ずっと、僕のそばには羽切さんがいた。彼女を愛せなかったのは同士だったからだ。仕事をする彼女が好きだった。だから、嫌いになれなかった。嫌いになりたくなくて女性として見ないようにしていたのだと思う。仕事が大事だから羽切さんも大切だと思い込みたかった。それなのに、
「もっと歳を取ってお互いに一人だったら老後は一緒に暮らそうか」
などと言って淡い期待を募らせた。
1
あなたにおすすめの小説
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2025.11.25)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました
藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。
そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。
ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。
その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。
仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。
会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。
これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている
夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。
ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。
無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。
クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる