包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見

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 ほっとしたのは実家のせいだからじゃない。親には会わせられなかったけど兄弟には紹介できたから、これで僕が急死しても大丈夫。人間はこうやって外堀を埋めてしまうものなのだ。そのために面倒な何回忌とかがあるのだろう。

 やっぱり結婚式をすればよかったのだろうか。でも長男は膝が痛そうだったし、上から二番目の兄も腰が曲がりつつある。
 三番目の兄だけ左利き。五番目の兄は奥さんが緑内障らしい。みんなそれぞれに事情がある。親族だからって補えない。
 割としっかりした家で、裏に二番目の兄が住み、少し離れたところに他の兄たちも暮らしている。昔は全部、畑だった。三番目の兄が会社をしているが、その割に普通の家。本家よりは目立ってはいけないと思っているのだろう。


「七、帰ってるって?」
 近所の知り合いは兄弟の友達含めたくさんいる。最近は訃報を聞くことも少なくない。
「むっちゃん?」
「よう」
 玄関に座り込むところがいかにもこっちの人らしい。

 むっちゃんは3軒となりの幼馴染。
 むっちゃんの家は大きな農家さんだったはず。それなのに今はアパート経営とか様々なことに手を出して、たいぶ田畑を減らしたらしいと長兄から聞いていた。

「今度、これ始めようと思って」
 嫌な予感がした。貝のボタンなんて作っても今はポリエステルの安価なものが主流だ。

「七のところで使ってくれたらそこから一気に世界進出だ。あはははは」
 昔はそんなに阿呆ではなかったはず。お母さんがそろばん教室をしていて計算は得意なはずだろうに。すぐに土地を金に換えられると味わってしまったのだろうか。

「いや、うちじゃ使えないよ」
 まだ作ってもいないもので取引をする気にはなれない。

「もうこの機械も買っちゃったんだ。貝を削るものとボタンの穴開けるやつ。七のところには特別きれいなものを送るよ。な?」
 困ったような顔をされてもこちらが困る。

「お話し中失礼します。友達だったらどうして七さんの迷惑になるって思わないんですか?」
 よのぎさんが口を挟む。

「なに、この女」
「私は七さんの妻です」
「知ってるぞ。最近結婚したばかりの女だろ? 俺たちは40年来の友達なんだぞ」
 むっちゃんが品定めをするようによのぎさんを睨む。

「友達なんて法的にはなんの効力もないですよ。私は、この人の配偶者です」
 よのぎさんの凄み方がすごい。顔をぐいぐい近づけて、目力で圧倒する。

「ああ、もういい。金儲けになるのに、知らないからな」
 捨て台詞を吐いてむっちゃんは玄関を閉めずに帰って行った。昔からあのガニ股は変わっていない。

「ふう」
 よのぎさんが床にへたり込む。

「よのぎさんがあんなこと言うなんて思わなかったな」
「ごめんなさい」
「ううん。むっちゃんも悪い人ではないんだけど、ずうずうしいっていうか」
「でも、仲がいいと遠慮がないは別でしょ? 私は七さんに嫌われたくないから、七さんが嫌なことはなるべくしないようにしてるもの」

 そうなのか。
「例えば?」
 僕は聞いた。
「今朝だって変な寝相してたけどこのままのほうが七さんは気持ちよく寝れるのかなとか」

「妻は強いね。法的にも一番だ。いつか話そうと思っていたけど理解していてくれてよかった」
 義姉の話ではむっちゃんはもう奥さんを亡くして、奥さんの結婚指輪を親指にはめて周囲の同情を乞うているらしい。それに気づいたら僕は、あの話に乗ってしまっていたかもしれない。 

 今回は本当によのぎさんを連れてきてよかった。
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