半纏姉ちゃん

吉沢 月見

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 運命の恋とか出会いなんて存在しない。他人なんて信じちゃだめ。
 そりゃ、びっくりした。社会人になって恋人がちっともできないと嘆いたら先輩が合コンに誘ってくれて、そこでちょっといいなと思った男性とその後本屋で、同僚と行ったボルダリングと瞑想で再会。
「奇遇ですね」
「ええ、本当に」
 恋をすると都合よく考えてしまうものなのだ。そして、それを運命と名付ける。
 ある日私が一人でドライヤーを電気店で選んでいたら、
「これがおすすめですよ」
 と髪が短いくせに彼はあれこれ教えてくれた。それまで恋らしきものをしてこなかった私はスマートな彼にぽうっとなってしまって、トントン拍子でお付き合いをすることになった。あとで判明したのだが、彼は私の同僚や知り合いを調べまくって私の行動を把握していたのだ。ぞっとした。その気になってうっかり婚約までしてしまった自分を呪いたい。
 彼曰く、私は、
「俺の隣りにいるのにちょうどいい」
 らしい。地味な顔だろうか。派手ではない服装を好まれたのかもしれない。
 母が亡くなったことを理由に延期を申し出たら、諸々のお金を請求された。彼の中では私の母が死のうとも半年後の結婚式は動かせないようだ。
 そんな人無理です。
 友人たちが間に入ってくれて婚約解消は大事にはならなかったが、母の葬儀の途中で別の厄介事が判明する。母は仕事をしていたのに貯金がほぼない。私は一人暮らしをしていたので実家に母の恋人が転がり込んでいることも知った。その人に、
「ここは俺の家だ」
 と言い張られる。どう考えてもその人が母の預金を使い込んでいることは明らかだ。母はお金に困っている素振りは見せなかったし、看護師をしながら私を短大にまで出してくれた。私は権利を主張し、その過程で自分に姉がいることを初めて知る。会ったこともなければ、母からそのようなことを聞かされたこともない。
 急に自分の人生が慌ただしい。今までが平穏すぎた。いつも頼っていた母もいない。
 真夜中というのは寂しさを倍増させる。もう恋人じゃないからあの人にも連絡できない。きっともう半年後に結婚ができる女性を探しているに決まっている。
 私はいつも読んでいるネットの小説の投稿サイトを見る。
 お気に入りの作家さんは俳句を詠む人。
『へいマミー これから私 どうすんの』
 まさに今の私の気持ちだ。
 母の恋人は内縁の間柄だったともっとお金を要求してきた。確かに生命保険は私が受取人になっている。それをよこせなんて強欲すぎる。母が亡くなったから家の光熱費を私に払えなんて冗談じゃない。姉を取り込んで、母の恋人を追い出そう。それしかない。
 私と姉で財産を二分の一。法的にはそうなっているが、探りを入れたところその男は母の職場の人いわく、
「雨だからって迎えに来てくれる優しい人」
 らしい。
 嘘だ。その人は母よりも10も若かった。優しそうな顔なのにお金の話になると般若のような形相に早変わり。仕舞には舎弟のような男を同席させ、私を恫喝した。当然、録音させていただきました。
 亡くなった母と男運がない母子だねと笑いたい。
 今更か。
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