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10.関わりたくない人
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馬車が家の前で停車すると、周りの人々が伺うような視線とぶつかる。
こんな場所に貴族が来ることなどありえない事なのだ。
気になるのも仕方のない事。
執事が馬車の出入り口に踏み台を準備し下りて大丈夫ですとアルバートたちに伝えた。
その声を聞いてアルバートは馬車の扉を開き、先にアランを抱き上げ下ろし、その次にフィーネを抱き上げそのまま外に出た。
「アラン。君の家まで案内してくれるか」
「はい」
アランは先導するように玄関まで歩き、ドアを開けた。
「ここです」
「ありがとう」
アルバートは案内されるままに家に上がり込み一つしかない粗末なベッドにフィーネを下した。
「ありがとうございました。公爵様」
「いや、礼には及ばない。私がしたくてした事だ。気にするな」
「公爵様。母上を運んで下さってありがとうございます」
フィーネとアランから礼を言われ、フッと少し微笑みアランの小さな頭を撫でた。
アランはまだ小さいはずなのに随分と利発な子のようだ。
皇帝の子たちに会った事もあるが、同じ年くらいの時はもっと子供らしかったが・・・。
少々子供らしさがないような・・・。
疑問には思ったがすぐ意識の外に追いやった。今はフィーネの状態の確認だ。
「一応怪我の確認をするぞ」
「え」
「右足を見せるんだ」
「あの、大丈夫ですから・・・」
はぁっとアルバートは溜息を吐いて、フィーネのすぐ目の前まで来たかと思えば足元に膝を突いた。
間違っても公爵が取っていい態度ではない。
「公爵様っ」
「少し失礼する」
「あっ!」
なんとフィーネの右足をそっと持ち上げたかと思うと、自分の膝の上に乗せた。
フィーネの足首が見えるようにスカートの裾を少しだけめくり上げ傷を確認した。
「少し切れているな。砂利などで擦ってしまったか。骨に異常はないようだが捻挫が心配だな」
「本当に大丈夫ですから離して下さい!!」
「大人しくしてくれ。アラン切り傷を洗うから水と清潔な布をもらえるか」
「持って来ます!」
フィーネは抵抗したが、アルバートの力には敵わずされるがままになる。
アランが持ってきた水で傷口を洗い流し、布を軽く当てた。
「数日は化膿しないように清潔にしていろ。本当は医師を送りたいが君は嫌がるだろう?」
「当たり前です!これくらいの怪我なら本当に大丈夫ですから。手当して下さってありがとうございました」
手当が終わるとアルバートはフィーネの足を下した。
アルバートは立ち上がると家の中をぐるりと見渡す。
やはり、このような家に住んでいるのが信じられない。
あれからどのような人生を歩んできたのか。
アルバートが調べた限りでは、当時貴族派だった家門はほとんどが粛清された。しかし、クレストン子爵家は当主であるフィーネの父親が死んでから一家が離散している。
一人娘であったフィーネが唯一の後継者だったが、失踪してしまい足取りが掴めなかった。
内戦中にクレストン家は事実上お取り潰しとなった。なので内戦終結後に行われた粛清に名を連ねなかった一族だ。死んだ者も多いはずだが生き残りはいたはず。
足取りが掴めているのはフィーネの継母。継母は現在男爵家の後妻に収まっているようだ。
「ここまで運んで下さった事には感謝致しますが、本当にもうお帰り下さい」
フィーネはアルバートに流されて受け入れるしかなかったが、正直アルバートには複雑な思いでいっぱいだ。
父の仇。
アランの父親。
憎む気持ちが無いわけじゃない。
5年前の光景は今でも悪夢でフラッシュバックするほど。
しかし、5年という歳月の間の過酷な生活にフィーネは必死だった。アランを育て、やった事もない仕事に忙殺されてきた。今の自分は憎しみに身を焦がすより、アランを立派に育て幸せにしてあげる事が何よりも大事だった。
だが、だからと言って目の前に父の仇がいるという状況は望んでいない。
生きる世界の違う人だから忘れた振りが出来たのだ。
復讐に燃えるほど、フィーネは向こう見ずではない。
何より、一番恐れているのはここにいるアランがアルバートの子であるという事実が露見する事だ。
もし、グライア公爵家の血筋だと露見すればアランは連れて行かれてしまう。
黒髪と赤い瞳というのはそれだけの価値があるから。
誰もが身体的特徴を見て分かってしまう。
これからも、この先も関わり合いになりたくない。
捨て置いて欲しい。
これがフィーネの素直な気持ちだった。
こんな場所に貴族が来ることなどありえない事なのだ。
気になるのも仕方のない事。
執事が馬車の出入り口に踏み台を準備し下りて大丈夫ですとアルバートたちに伝えた。
その声を聞いてアルバートは馬車の扉を開き、先にアランを抱き上げ下ろし、その次にフィーネを抱き上げそのまま外に出た。
「アラン。君の家まで案内してくれるか」
「はい」
アランは先導するように玄関まで歩き、ドアを開けた。
「ここです」
「ありがとう」
アルバートは案内されるままに家に上がり込み一つしかない粗末なベッドにフィーネを下した。
「ありがとうございました。公爵様」
「いや、礼には及ばない。私がしたくてした事だ。気にするな」
「公爵様。母上を運んで下さってありがとうございます」
フィーネとアランから礼を言われ、フッと少し微笑みアランの小さな頭を撫でた。
アランはまだ小さいはずなのに随分と利発な子のようだ。
皇帝の子たちに会った事もあるが、同じ年くらいの時はもっと子供らしかったが・・・。
少々子供らしさがないような・・・。
疑問には思ったがすぐ意識の外に追いやった。今はフィーネの状態の確認だ。
「一応怪我の確認をするぞ」
「え」
「右足を見せるんだ」
「あの、大丈夫ですから・・・」
はぁっとアルバートは溜息を吐いて、フィーネのすぐ目の前まで来たかと思えば足元に膝を突いた。
間違っても公爵が取っていい態度ではない。
「公爵様っ」
「少し失礼する」
「あっ!」
なんとフィーネの右足をそっと持ち上げたかと思うと、自分の膝の上に乗せた。
フィーネの足首が見えるようにスカートの裾を少しだけめくり上げ傷を確認した。
「少し切れているな。砂利などで擦ってしまったか。骨に異常はないようだが捻挫が心配だな」
「本当に大丈夫ですから離して下さい!!」
「大人しくしてくれ。アラン切り傷を洗うから水と清潔な布をもらえるか」
「持って来ます!」
フィーネは抵抗したが、アルバートの力には敵わずされるがままになる。
アランが持ってきた水で傷口を洗い流し、布を軽く当てた。
「数日は化膿しないように清潔にしていろ。本当は医師を送りたいが君は嫌がるだろう?」
「当たり前です!これくらいの怪我なら本当に大丈夫ですから。手当して下さってありがとうございました」
手当が終わるとアルバートはフィーネの足を下した。
アルバートは立ち上がると家の中をぐるりと見渡す。
やはり、このような家に住んでいるのが信じられない。
あれからどのような人生を歩んできたのか。
アルバートが調べた限りでは、当時貴族派だった家門はほとんどが粛清された。しかし、クレストン子爵家は当主であるフィーネの父親が死んでから一家が離散している。
一人娘であったフィーネが唯一の後継者だったが、失踪してしまい足取りが掴めなかった。
内戦中にクレストン家は事実上お取り潰しとなった。なので内戦終結後に行われた粛清に名を連ねなかった一族だ。死んだ者も多いはずだが生き残りはいたはず。
足取りが掴めているのはフィーネの継母。継母は現在男爵家の後妻に収まっているようだ。
「ここまで運んで下さった事には感謝致しますが、本当にもうお帰り下さい」
フィーネはアルバートに流されて受け入れるしかなかったが、正直アルバートには複雑な思いでいっぱいだ。
父の仇。
アランの父親。
憎む気持ちが無いわけじゃない。
5年前の光景は今でも悪夢でフラッシュバックするほど。
しかし、5年という歳月の間の過酷な生活にフィーネは必死だった。アランを育て、やった事もない仕事に忙殺されてきた。今の自分は憎しみに身を焦がすより、アランを立派に育て幸せにしてあげる事が何よりも大事だった。
だが、だからと言って目の前に父の仇がいるという状況は望んでいない。
生きる世界の違う人だから忘れた振りが出来たのだ。
復讐に燃えるほど、フィーネは向こう見ずではない。
何より、一番恐れているのはここにいるアランがアルバートの子であるという事実が露見する事だ。
もし、グライア公爵家の血筋だと露見すればアランは連れて行かれてしまう。
黒髪と赤い瞳というのはそれだけの価値があるから。
誰もが身体的特徴を見て分かってしまう。
これからも、この先も関わり合いになりたくない。
捨て置いて欲しい。
これがフィーネの素直な気持ちだった。
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