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日常の終わりは突然に
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しんしんと雨が降り続ける。鳴りやまぬ雨の調べを聞きながら、私はひっそりと佇む墓碑の前に座った。そっと墓碑に手を添えその冷たさを指先に感じながら、静かに瞳を閉じる。次第に雨音が大きくなっていった。
大地が水に打たれるこの音を聞いていると、あの日のことをふと思い出す。あの時はまさか、彼が自分の隣からいなくなる時が来るなんて夢にも思わなかった。いつも彼が自分の傍にいてくれて、共に笑い、共に泣き、辛いときは私を抱きしめ、その温かな温もりで包んでくれることが当然のことのように感じていた。それがどれだけ特別で、どれだけ幸せな事なのかを実感する日が来ようとは思ってもいなかった。
今でも鮮明に覚えている。あの日も雨が降っていた。
―あの日、彼はいつものように起きてきて、私におはようの挨拶をくれた。私もそれに笑顔で答えた。彼の大好きなチーズ入りのオムレツを作り、朝食にだす。彼はとても嬉しそうに席に着くと、幸せそうにそれを頬張った。美味しいという彼の言葉に私も嬉しくなり頬が緩む。ごくごく普通のささやかな日常。でもそんな日常が、私にとってはとても幸せなものだった。
その日、彼はいつものようにいってきますと言って仕事に向かった。私はいってらっしゃいと笑顔で手を振り、彼の背中を見送った。この時、これが彼の最後の言葉になるとは思いもしなかった。
仕事が休みだった私は、溜まっていた家事をこなしていた。外が晴れていたのでシーツを洗濯し、外に干した。床を箒ではき、雑巾で水拭きをした。それでも時間が余ったので、普段は掃除できないところも掃除をしようと、棚の上を拭いていると腕が何かにぶつかった。棚から零れ落ちたそれは、重力にしたがって床に落ちる。ガシャンと大きな音を立てて、それは床に散らばった。
「うわぁ…やっちゃった…。後で謝らないと…」
それは彼がいつかの遠征でお土産に買ってきてくれた置物だった。宿泊した地域で守り神として崇められているという神様の置物だった。
「…なんだか、不吉だなぁ」
その土地でしか信仰されていない神様とは雖も、守り神の置物である。何だか罰当たりな気がして、私はそっと両手を胸の前で合わせて神様に深く謝罪した。
割れてしまった置物を片付けて、掃除を終えた頃には大分時が過ぎていた。私は次に何をしようか考えながら、一息つこうとリビングで紅茶を飲む。ふと、外が騒がしくなった。不思議に思い、私は窓の外を見遣る。
「やだ!雨降ってる!」
私は慌てて外に干したシーツを取り込んだ。しかし、間に合わなかった。シーツは完全に雨でぐしょぐしょに濡れていた。
「あーあ。ついてないなぁ…」
ほうっとため息をつきながら、私は濡れたシーツを籠に入れる。仕方がない。これは明日、また洗濯しよう。
私は新しいシーツを収納棚から取り出すと、マットレスの上に敷いた。ポスンとベッドに腰を下ろしながら、私は窓から外の景色を眺める。
「…大丈夫かなぁ」
騎士として王宮で勤めている彼は、帰りの時間が不定期だ。今日は内勤ということだったので普通に早く帰れると言っていた。王宮から我が家までは少し距離がある。馬で通っているのでそこまで時間はかからないが、今日は雨で道がぬかるんでいるためいつもより時間がかかるだろう。きっとずぶ濡れで帰ってくるだろうなと思った私は、彼の着替えとお風呂の準備を始めた。
トントントンと野菜を切り、夕食の準備をしながら窓の外を見遣る。既に日は落ち、辺りは闇に包まれていた。本来ならば、彼は既に帰っている時間だ。しかし、彼はまだ帰ってきていない。外は相変わらずの雨だった。心なしか先ほどよりも勢いが強くなっている気がする。じわじわと心の奥底からせりあがってくるものを感じた。何故、こんなに不安になるのだろうか。これほど嫌な予感がするのは、一体どうしてなのだろうか。
大地が水に打たれるこの音を聞いていると、あの日のことをふと思い出す。あの時はまさか、彼が自分の隣からいなくなる時が来るなんて夢にも思わなかった。いつも彼が自分の傍にいてくれて、共に笑い、共に泣き、辛いときは私を抱きしめ、その温かな温もりで包んでくれることが当然のことのように感じていた。それがどれだけ特別で、どれだけ幸せな事なのかを実感する日が来ようとは思ってもいなかった。
今でも鮮明に覚えている。あの日も雨が降っていた。
―あの日、彼はいつものように起きてきて、私におはようの挨拶をくれた。私もそれに笑顔で答えた。彼の大好きなチーズ入りのオムレツを作り、朝食にだす。彼はとても嬉しそうに席に着くと、幸せそうにそれを頬張った。美味しいという彼の言葉に私も嬉しくなり頬が緩む。ごくごく普通のささやかな日常。でもそんな日常が、私にとってはとても幸せなものだった。
その日、彼はいつものようにいってきますと言って仕事に向かった。私はいってらっしゃいと笑顔で手を振り、彼の背中を見送った。この時、これが彼の最後の言葉になるとは思いもしなかった。
仕事が休みだった私は、溜まっていた家事をこなしていた。外が晴れていたのでシーツを洗濯し、外に干した。床を箒ではき、雑巾で水拭きをした。それでも時間が余ったので、普段は掃除できないところも掃除をしようと、棚の上を拭いていると腕が何かにぶつかった。棚から零れ落ちたそれは、重力にしたがって床に落ちる。ガシャンと大きな音を立てて、それは床に散らばった。
「うわぁ…やっちゃった…。後で謝らないと…」
それは彼がいつかの遠征でお土産に買ってきてくれた置物だった。宿泊した地域で守り神として崇められているという神様の置物だった。
「…なんだか、不吉だなぁ」
その土地でしか信仰されていない神様とは雖も、守り神の置物である。何だか罰当たりな気がして、私はそっと両手を胸の前で合わせて神様に深く謝罪した。
割れてしまった置物を片付けて、掃除を終えた頃には大分時が過ぎていた。私は次に何をしようか考えながら、一息つこうとリビングで紅茶を飲む。ふと、外が騒がしくなった。不思議に思い、私は窓の外を見遣る。
「やだ!雨降ってる!」
私は慌てて外に干したシーツを取り込んだ。しかし、間に合わなかった。シーツは完全に雨でぐしょぐしょに濡れていた。
「あーあ。ついてないなぁ…」
ほうっとため息をつきながら、私は濡れたシーツを籠に入れる。仕方がない。これは明日、また洗濯しよう。
私は新しいシーツを収納棚から取り出すと、マットレスの上に敷いた。ポスンとベッドに腰を下ろしながら、私は窓から外の景色を眺める。
「…大丈夫かなぁ」
騎士として王宮で勤めている彼は、帰りの時間が不定期だ。今日は内勤ということだったので普通に早く帰れると言っていた。王宮から我が家までは少し距離がある。馬で通っているのでそこまで時間はかからないが、今日は雨で道がぬかるんでいるためいつもより時間がかかるだろう。きっとずぶ濡れで帰ってくるだろうなと思った私は、彼の着替えとお風呂の準備を始めた。
トントントンと野菜を切り、夕食の準備をしながら窓の外を見遣る。既に日は落ち、辺りは闇に包まれていた。本来ならば、彼は既に帰っている時間だ。しかし、彼はまだ帰ってきていない。外は相変わらずの雨だった。心なしか先ほどよりも勢いが強くなっている気がする。じわじわと心の奥底からせりあがってくるものを感じた。何故、こんなに不安になるのだろうか。これほど嫌な予感がするのは、一体どうしてなのだろうか。
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