お気に入りBL小説の推しの娘に転生したけど、このままだと推しが死ぬので全力で抗います

嘉ノ海祈

文字の大きさ
5 / 12
第1章 転生少女、推しの娘になる

5.ベルとうさまの想い

しおりを挟む
「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」

リビングへ向かうとそこには既にベルナール様がいた。エプロンを身に着けながらキッチンに立っている推しの姿に寝ぼけていた私の頭は一気に覚醒する。流石、ベル様。エプロン姿もとても素敵。やばい、刺激強すぎて鼻血でそう。叫びだしたい気持ちを必死に抑えながら、私は笑顔で挨拶をする。

「おはようございます。ベルナール様。はい。ぐっすり眠れました」
「…そうですか。それはよかった。朝食の用意ができましたので、一緒に食べましょう」
「はい!」

今日の朝食はベーコンエッグとパンだった。こんがりと焼けたベーコンに程よくとろける卵。きつね色に焼けた食パンはサクサクで、熱で溶けたバターの香ばしい香りが鼻孔をくすぐる。しばらく冷えてぱさぱさの丸パンを牛乳で流し込む生活をしていたので、あったかくて美味しい食事を朝から食べられることに物凄い幸せを感じた。

「さて、これからの日程ですが…」

朝食がひと段落したところで、ベルナール様は今日の日程について説明を始めた。

「私もシルヴァも平日は王宮で仕事がるので王宮にいかなければなりません。この家には私たち二人だけしか住んでいないため、このままだとアデルが一人で留守をすることになります。しかし、幼い貴方を一人にするわけにはいきません」
「はい」

精神年齢は既に成人してるとはいえ、身体は幼児な私は根本的に一人で生活をするのは難しい。何をするにも身長も力も足りないので上手くいかないし、大惨事になってしまう。そのため留守をさせられないという意見には大いに賛成だ。

「そこで、アデルには私たちと共に平日は王宮で過ごしていただきたいのです」
「王宮でですか?」

てっきり託児所的なところに預けられるだろうと思っていた私は、想定外の言葉に拍子抜けした。王宮って私なんかが過ごしても許されるところなのだろうか。

「ええ。実はシルヴァがお仕えしているこの国の第一王子であるロレシオ殿下が、学友を探していらっしゃるのです。アデルにはその学友になってもらいたいと思います」
「ロレシオ殿下の学友…?」

ロレシオ殿下といえば、シルヴァ様が護衛を務めている王子で、ベルナール様が文官として教育をしているお方だ。

「勿論、強制ではありません。それが嫌であれば別の方法で過ごしてもらうことはできます。ただ、殿下は色々と複雑なお立場におり、気軽に話せる友人がいないのです。アデルとは年が近いですし、いい関係が気づけそうな気がしてまして。一度、殿下に会っていただけますか?その後、貴方さえよければ殿下と共に勉強をしてください」
「わかりました。お会いしてみようと思います」

これはチャンスだ。シルヴァ様の死因は王位継承争い。王子に近づけば、何かそれを防ぐためのヒントが得られるかもしれない。それに、王宮で働くシルヴァ様とベル様の姿見れるなんて最高すぎる。ファンとしてこのチャンスは絶対に逃がせない。

「では早速準備をしましょうか。服は既に用意してあります。私の妹のお下がりで申し訳ないのですが、急なことだったので許してください。後で一緒に服を買いに行きましょう」

そういえばベルナール様には年の離れた妹がいたんだっけ。だから子供の面倒を見るのに慣れているのか。服も妹さんのだったんだ。確かに、この子供用のパジャマとか一体どこで用意したんだろうとは思っていたけど妹さんのお下がりなら頷ける。

「いえ、とんでもないです。このままお下がりで問題ありません」
「…遠慮なんていらないんですよ、アデル。せっかく念願の娘ができたんですから。愛娘を着飾る楽しみを私に下さい」
「ベルナール様…」

優しい。こんな下級騎士の娘に対して、そんな風に言ってくださるなんて。いい人すぎる。てか聞いた?!私のこと愛娘って言ってくれたよ?!嬉しすぎるんだけど!嬉しすぎて私の心臓破裂しそうなんだけど!

「私達はもう家族なんですから。急なことですし、すぐに私たちを父親として受け入れろとは言いません。でも、徐々に私達をもう二人の父親として頼ってくれると嬉しいです」
「はい!」

そうだよね。ベルナール様は本気で私を娘として引き取ってくれたんだもの。いつもでも私が他人行儀だと悲しいよね。いや、遠慮してるとかではなく推しと話しているという現実が恐れ多いだけなんだけどね。早くこの環境になれるようにしないと。

「ふふ、まずは呼び方からですね。流石にベルナール様と呼ばれるのは悲しいです」

あ、そっか。娘に様付で呼ばれるのはちょっと距離がありすぎるか。えーっと、ベル様でもなく、…ベルさんもちょっと違うし…

「…ベルとうさま?」
「っ!…いいですね、その響き。ぜひそう呼んでください」

満面の笑みでそう言われ、私は大きく頷いた。少し照れくさいけれど、推しが喜んでくれるなら羞恥など捨てられる。

「では、早速着替えましょうか。アデル、服は自分で脱げますか?」
「…え?」

…しまった!今の自分が幼女であることを忘れていた!

子どもの着替えを手伝うのは大人からしたら当たり前のことだし、そこに疾しい気持ちなど一切ないのは分かっているけど、推しの前で下着姿になるのは流石に恥ずかしすぎる!

「…あの、私、自分でできます。手伝ってもらわなくて大丈夫です」
「言ったでしょう?遠慮はいりませんよ。それに、この服は後ろにチャックが着いていて持ち上げるのが難しいんです。古いせいでチャックも少々硬いですし、アデルには少し難しいと思います」

あ、ダメだこれ。気を遣って遠慮してると思われてる。何が何でも着替えを手伝うつもりだベルとうさま。

私は覚悟を決めた。ベルとうさまに手伝ってもらいながら着替えることにした。まだ下着がついていたのが幸いだったと思う。ワンピース型の服だったこともあり、私はさっと脱いでそれを物凄い勢いで被った。ベルとうさまはそんな私を微笑ましそうに見ながら、チャックを閉める手伝いをしてくれた。

無事に着替え終わった私はほっと息をつく。

「うん。よく似合ってますよ、アデル。さてと、私も着替えを済ませてきます。少しここで待っていてください」
「はい!」

寝室へ戻っていったベルとうさまを見送りながら、私はとあることに気づく。

…この様子だとお風呂も一緒だよね?!どうしよう!?

昨日は疲れすぎて体力の限界だったので、ベルとうさまから濡れタオルをもらって体を軽く拭く程度で済ませてしまった。しかし、流石にずっとそのままで済ませるわけにはいかない。

面倒見のいいベルとうさまのことだ。絶対に幼女一人でお風呂に入れさせはしないだろう。

ようやく父親の前で裸になることに慣れたところなのに、推しに裸を見せるとかムリ…恥ずかしさで死ねる…。

ああどうしようと一人で悶えていると、いつ間にか準備を済ませたベルとうさまが部屋に戻ってきた。

「お待たせしました。…アデル?大丈夫ですか?もしかしてどこか具合でも悪い?」

その声に私はハッとして、顔を上げる。

「いえ!大丈夫です!床の木目を数えていただけです!」
「…床の木目、ですか?(…アデルにとってはそれが楽しいのでしょうか。小さい子どもの視点は独特で偶に分からないことがありますね)それは面白そう?ですね」

…いや、なんだよ床の木目を数えるって、もっと良い言い訳あるだろ自分。てか、ベルとうさま、不思議な顔で同情しなくていいんだよ。絶対、面白そうなんて思ってないよね。

「あははは。…それよりもベルとうさま、今日もとってもカッコいいですね!」

ベルとうさまの服は執務官の制服だ。緑色をベースに金糸で装飾の入った中世ヨーロッパ風の紳士服を違和感もなく着こなしている。流石私の推しだ。

私の言葉にベルとうさまは嬉しそうに微笑んだ。

「ふふ、ありがとうございます。…娘にかっこいいと言ってもらえるのは、こんなに嬉しいものなのですね」

感慨深そうにそう呟いたベルとうさまに私は首をかしげる。

「ずっと憧れていたんです。こうして娘と過ごすことに。私達は男同士のペアですから子供は望めません。だからこういう生活とは無縁だと思って生きてきたんです。子供がいるという一般的な幸せは手に入らないと諦めていました。…だからアデル、貴方が私たちの元に来てくれて本当に嬉しいんです。私達に子供がいるという幸せをくれて、ありがとうございます」

今にも泣きそうな顔でそう告げるベルとうさまに、私はたまらなくなりぎゅっと抱き着いた。そんな私をベルとうさまはしっかりと抱き留めてくれる。ベルとうさまの温もりを感じながら、私は原作を思い出していた。

ベルとうさまは自分が男であることに複雑な感情を抱いている。特に男同士のカップルであるがために子供を望めないということに非常に憂いていた。ベルとうさまが子供好きなのはもちろんあるが、それ以上にシルヴァ様に子供を抱く幸せをあげたいというのが一番大きかったようだ。シルヴァ様は兄弟がおらず、家族は父親だけで一般的な温かい家庭というものを知らない。だから、温かい家庭というものに強い憧れがあった。勿論、シルヴァ様はベルとうさまに子供が欲しいと言ったことはない。だが、シルヴァ様と付き合いの長いベルとうさまだからこそ、そういった部分を感じ取っていたのだと思う。だからこそ、ベルとうさまにとって養子に引き取った娘の存在は心の救いだったんじゃないだろうか。

「ベルとうさまこそ、わたしのとうさまになってくれてありがとうございます。わたし、お二人がお父さんになってくれてすごくうれしいです。…お二人がいなければわたし、今ごろお父さんを失った悲しみでこうして笑って過ごすことなんてできていないと思います。だから、ありがとうございます」

私の言葉にベルとうさまは優しい表情を浮かべながら頷いた。そんなベルとうさまを見て、絶対に二人を幸せにして見せようと、私は心の中で密かに誓うのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

事なかれ主義の回廊

由紀菜
BL
大学生の藤咲啓嗣は通学中に事故に遭い、知らない世界で転生する。大貴族の次男ランバート=アルフレイドとして初等部入学前から人生をやり直し、学園で出会う無愛想で大人顔負けの魔法の実力者であるヨアゼルン=フィアラルドと親友になるが、彼に隠された力に翻弄され次々と襲ってくる災難に巻き込まれる。終いには、国家の存続を揺るがす大事件にまで発展することに・・・

第2王子は断罪役を放棄します!

木月月
BL
ある日前世の記憶が蘇った主人公。 前世で読んだ、悪役令嬢が主人公の、冤罪断罪からの巻き返し痛快ライフ漫画(アニメ化もされた)。 それの冒頭で主人公の悪役令嬢を断罪する第2王子、それが俺。内容はよくある設定で貴族の子供が通う学園の卒業式後のパーティーにて悪役令嬢を断罪して追放した第2王子と男爵令嬢は身勝手な行いで身分剥奪ののち追放、そのあとは物語に一切現れない、と言うキャラ。 記憶が蘇った今は、物語の主人公の令嬢をはじめ、自分の臣下や婚約者を選定するためのお茶会が始まる前日!5歳児万歳!まだ何も起こらない!フラグはバキバキに折りまくって折りまくって!なんなら5つ上の兄王子の臣下とかも!面倒いから!王弟として大公になるのはいい!だがしかし自由になる! ここは剣と魔法となんならダンジョンもあって冒険者にもなれる! スローライフもいい!なんでも選べる!だから俺は!物語の第2王子の役割を放棄します! この話は小説家になろうにも投稿しています。

従者は知らない間に外堀を埋められていた

SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL 転生先は悪役令息の従者でした でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません だから知らんけど精神で人生歩みます

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

処理中です...