お気に入りBL小説の推しの娘に転生したけど、このままだと推しが死ぬので全力で抗います

嘉ノ海祈

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第1章 転生少女、推しの娘になる

6.ロレシオ殿下

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「殿下、ご紹介します。私の娘となったアデルです」

 ベルとうさまに連れられ私はロレシオ殿下の部屋にやってきた。ベルとうさまはいつもここで殿下に勉強を教えているという。部屋に入るとそこには既に殿下らしき少年と護衛であろうシルヴァ様がいた。シルヴァ様は私を見ると優しく微笑んでくれる。推しの不意打ちの攻撃に私の心臓はドキドキだ。しかし、隣にいた少年がこちらをじっと観察しているのに気づき、直ぐに気持ちを切り替え姿勢を正した。

「はじめまして。アデル・ルヴェーチュラと申します。よろしくおねがいします」

 ルヴェーチュラ、なんていい響き。そんなことを思いながら、私は目の前の少年に挨拶をする。少年は私に頭を上げるように言うと、自分も名乗った。

「ロレシオ・ルグランだ。よろしく」

 夜空のような蒼い髪に、海のように深い青い瞳。長く伸ばされた前髪から見え隠れする右目の涙黒子がちょっと色っぽい。顔はまだあどけないが、6歳という年齢の割には大分落ち着きがある。原作で彼がこうなった背景を知っているがゆえに、それを目の前にして私は複雑な気持ちになった。


「本日の授業にはアデルも参加します。偶には年の近い子供と接する機会があった方が殿下にも良い刺激になるかと思っての判断です」
「わかった。受け入れよう。ちょうど自分と年齢の近い子供と交流をしてみたいと思っていたところだ」

 ベルとうさまの説明に殿下は納得したように頷いた。まだ6歳のはずなのに大人であるベルとうさまと対等に話をしている様子を見て、私は素直に感心した。きっと殿下は既にこの年齢で周囲の人間関係や立場を理解されているのだろう。とても聡明な子供なのだと思う。

 それにしても綺麗な顔をしているなぁ。原作でも憂いを忘れる美しさと評されていたけど、幼い頃でこのクオリティなら、将来きっとかなりの美丈夫になるよね。

 シルヴァ様が勉強の邪魔になるからと部屋の外へ出ていくと、ベルとうさまはさっそく教科書を開いた。

「ではさっそく今日のお勉強にはいりましょうか。まずは綴りの練習から」
「ああ」

 殿下は紙とペンを手に取ると、お手本を写しだした。少しぎこちないところはあるが、しっかりと文字は形になっている。次々と単語を書き取り、綴りの練習をしていた。暇なので私も一緒に綴りの練習でもしようと紙に文字を書き出したところで、ベルとうさまが驚いたように言った。

「…アデル、貴方文字が書けるのですか?」
「…え?」

 そう言われて、私はこの国の識字率の低さを思い出す。平民であれば本来、私の年齢くらいの子供はペンの持ち方すら知らない。当たり前のようにペンを持ち、なおかつスラスラとお手本を写し出したら普通は驚くものだ。書いてしまった以上は嘘をつくわけにもいかないので正直に頷いた。

「…えっと、ある程度は」

 殿下は私の手元を覗き込むと感心したように言った。

「すごいな。文字もきれいだ」
「…暇だったので。父に手紙を書くために字の練習をしたんです」
「…そう、でしたか」
「そなたも苦労しているのだな…」

 憐れむような視線を送る二人に私は苦笑いで返す。殿下の苦労に比べたら私の苦労なんて大したことないです、なんて思ったけど口には出さなかった。殿下の事情は本来、会って日の浅い私が知るはずがないものだから。

 その後、歴史の勉強や貴族会のマナーの勉強も終えると、ベルとうさまの仕事が終わるまで殿下と遊ぶことになった。

「そなたは普段、何をして遊んでいるのだ?」

 その言葉に私はどう答えようか悩む。というのも精神年齢が大人であるがゆえに、一般的な子供の遊びを普段していないのだ。この年齢であれば、おままごととかかくれんぼとか年相応の遊びをするのが普通だろうが、生憎、それを楽しめる精神年齢はとうに過ぎている。

 私の普段の過ごし方は専ら腐女活だった。腐女子である私は日常のどこでも男性同士のやり取りを見てはカップリングをし、様々な物語を頭の中で繰り広げることを楽しんでいた。本が読めれば一番よかったのだが、この世界では本は高価で中々手に入らない。印刷技術がないので量産できないため価値が高いのだ。植物紙が普及していて紙自体は手に入らなくもないのだが、前世ほど安いわけでもない。手紙ならまだしも大量に紙を使う執筆は子供には難しいのが現実だった。そのため、妄想で暇を潰すしかなかったのだ。

 そもそもこの世界、同性婚が普通に認められているためBLカップルも結構いる。そのため、腐女子にとっては大興奮の光景が盛りだくさんの天国である。

 待ちゆくところにBLカップル。妄想が膨らまないはずがなかった。ただ、一国の王子に向かってBLカップルのあれこれを妄想していますというのは流石に憚れる。私はオブラートに包みこう発言した。

「物語を空想しています」
「物語を空想…?」

 不思議そうに首をかしげる殿下に私は思わず苦笑する。まぁ、嘘は言ってないね。内容が限定されすぎているだけで。

「本は手に入らなかったので、自分で物語を想像するしかなかったんです。普段過ごしている中で見たものをもとに、こんな物語があったらいいなぁって想像して楽しんでいました」

 そう説明するとロレシオ殿下は納得したように頷いた。

「…そうか。本が読めるのはあたりまえのことだと思っていたが、言われてみれば本が常にあるこの状況が特殊なのだったな。アデルは本が好きなのか?」
「ええ、好きですね(BL小説がですが)」

 前世では食事よりもBL小説を優先させるレベルで読んでいた。今は本が手に入らないので読んでいないだけで、叶うことならBL小説に埋もれて暮らしたい。

「なら、本を読みに行くか?」
「え!?よろしいのですか?」

 殿下からの非常に魅力的な提案に私のテンションは一気に上がった。目を輝かせてそう尋ねる私に殿下はもちろんだと頷く。

「私が一緒であればそなたも王宮図書館に入れるはずだ。私も本は好きでな。よく図書館に行って本を読んでいる。色々な種類があるからそなたも気に入るはずだ」

 その言葉に、そういえば原作でもロレシオ殿下は本を読んでいるシーンが多かったなと私は思い出す。あの本好きは幼少期の頃からだったのか。大人になった時のロレシオ殿下の聡明さは、読書好きからきているのかもしれないな。幼少期の情報は僅かにしか出てこなかったので、こういう発見はちょっと新鮮だ。

「行きたいです!(BL小説が読めるかもしれない!)」
「なら、行こうか」

 嬉々としてそう言った私に殿下は楽しそうに微笑んだ。こうして私はこの世界の人生で初の図書館へと足を運ぶことになったのだった。
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