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Scene 11-2
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玉城さんとの交際は、五ヶ月目に突入していた。秋に公開された、玉城さんが主演の映画は、熱愛報道や、交際相手の殺害事件など、本人自身の話題性も大きく、良い意味と悪い意味での主演女優への注目が上乗せされ、大きなブームを呼び、異例の大ヒットを記録した。僕たちも内緒で、二人で映画を観に行った。人口の少ない都心から外れた閑静な街の映画館で、あらかじめ、隣同士の席を予約し、時間をずらして入館する。他人のふりをして映画館を出て、帰り道の途中で車で拾ってもらい、そのまま、映画の感想を言い合いながら、海まで、深夜のドライブをして、日の出を見に行った。僕は、店長の大学進学への提案は丁寧に断り、あいかわらず、創作活動を続け、九月に応募した作品は、最終選考にまで残り、村瀬さんは、自分で見つけた新人の作品が最終選考にまで残ったことに、編集者として手応えを感じているのか、結果を聞いた次の日に、僕を立ち飲みイタリアンに誘った。
そして、その次の日、割れるような頭の痛みと、胃の中から香ってくる酒の匂いにむせ返りそうになりながら、とても狭い一室で僕は目を覚ました。背中には、柔らかい擦り切れたソファの感覚と、目の前には、デスクトップパソコンがある。気がつくと、僕は漫画喫茶の中にいた。昨日、村瀬さんと飲んだ途中からの記憶がない、しかもなぜか、喫煙席を選んでいたせいで、あたりがタバコくさい。僕は、血の気がひき、ハッと伝票を見ると、昨日の深夜十二時ごろからここにいたようだ、とすぐに理解した。僕はとりあえず、村瀬さんに昨日、何があったか聞こうと、携帯を開くと、大量の着信履歴が残されていた。玉城さんからだ。僕は彼女に電話するのが恐ろしく、とりあえず、村瀬さんに、昨日何があったか電話で訊いた。村瀬さん云く、僕はふらふらの状態で帰っていったらしい。送っていけば良かった、と謝られたが、申し訳ないと思いながらも、何もなかった事に安堵した。
憔悴しながら、なんとかアパートに着き、玄関の扉を開けると、僕の方を睨みつけている玉城さんの姿があった。これから、きっと、問い詰められる。玉城さんは、昨日僕が村瀬さんと食事に行ったことを知っている。彼女は村瀬さんのことをあまりよく思っていない。僕は、後ろ暗いことがあるわけでもないのに、彼女の怒りの形相に気押され、重苦しい気分を何とか作り笑いで誤魔化して、ただいま、と彼女に言った。
「昨日どうして、電話に出なかったんですか?」
「昨日は、村瀬さんと飲んでて、そのまま、結構酔っちゃって、漫画喫茶で昼前まで過ごしたんだ」
「本当に?浮気じゃないの?」
「浮気?僕がするわけないでしょ」
「じゃあ、何で、夜の九時ごろからほとんど連絡返ってこなかったの?」
玉城さんは、僕の元まで歩み寄り、眉間に皺を寄せて、僕を問い詰める。今まで見た中で、一番怖い顔だ。多分、何を言っても怒られる気がする。
「いや、実を言うと、あまり記憶がなくて。。。」
「記憶がない?。本当にあの女と何もなかったの?」
「なかったよ。さっき電話で村瀬さんに確かめたよ。途中で別れたって。ふらふらなのに送っていかなくてごめんって」
「何で私より先に、あの女に電話するのよ」
僕は、ごめん、とポツリと言った。ただ、確かに玉城さんに連絡を入れなかったのは悪いが、彼女の怒り方はちょっと異常な気がしていた。まだ、何か彼女を怒らせた原因がある気がしていた。
「昨日さ、何の日か覚えてる?」
何の日と言われ、僕は思い出した。記念日だ。玉城さんは、ケーキとプレゼントを取り出して、「作品が最終選考に残ったし、帰ってきたら、お祝いしようと思ったのに」と声をくぐもらせながら言った。
初めて自分の書いた作品が、一次、二次と、選考を通過していくことに、僕は内心喜び、自分の作品が他人に認められているという自信から、ますます、創作活動にのめり込む様になっていた。沸き起こるアイデアの数々に僕の思考は埋め尽くされ、来月が付き合い始めてちょうど半年だと言うことは覚えていたが、昨日が記念日だと言うことは完全に忘れていた。
玉城さんの目は、みるみる、濡れていく。
「ごめんなさい」と言うと、
「なんかトシくんなんか慣れ始めてるでしょ」
「そんなことないよ」
「じゃあどうして忘れたの?。節目節目は二人でキチンとお祝いしてたじゃん、どうして?あの女のせい。もう目移りたの」
「いつも言ってるけど、村瀬さんは何も悪くないでしょ。いつも、僕が不注意なだけで」
「ねえ、何であの女をかばうの」
「かばってるわけじゃないよ。それに謝ってるでしょ」
「謝れば良いってわけじゃないでしょ」
「そうだけど」
居心地が悪い。二日酔いで、気分が悪くて、すぐにでも横になって、一旦、全部頭の中で整理したい。執拗な問い詰めに、僕はイラついていた。言ってやりたかった、自分だって、散々男と寝まくってるくせに、どうして僕は女の人と食事に行くのもダメなんだ、と。ワインの残り香を押し込むように、僕は感情を抑えた。このまま、話し合っていたら、とんでもないことを口走りそうだ。僕は何も言わず、ふらふらと、彼女の横を通り過ぎ、ベッドに向かう。
「ちょっと、何よ、その態度」
玉城さんは僕に言い付けて、腕時計で時間を確認し「これから仕事があるから。いい?帰ってきたら洗いざらい全部話してもらうから」と家を出る準備を始めた。
玉城さんは激昂し、僕は弁解を考えるのに必死で、二人とも外のざわつきに気がつきもしなかった。玉城さんは不貞腐れながらも、いってきます、と僕に声をかけてから玄関を開けると、大量のマスコミ関係者に囲まれた。鳴り止まないシャッター音とストロボ光。そして、僕らの関係への絶え間ない詰問。泣きっ面に蜂とはこのことで、僕らの交際が世間にバレたと悟った瞬間だった。
そして、その次の日、割れるような頭の痛みと、胃の中から香ってくる酒の匂いにむせ返りそうになりながら、とても狭い一室で僕は目を覚ました。背中には、柔らかい擦り切れたソファの感覚と、目の前には、デスクトップパソコンがある。気がつくと、僕は漫画喫茶の中にいた。昨日、村瀬さんと飲んだ途中からの記憶がない、しかもなぜか、喫煙席を選んでいたせいで、あたりがタバコくさい。僕は、血の気がひき、ハッと伝票を見ると、昨日の深夜十二時ごろからここにいたようだ、とすぐに理解した。僕はとりあえず、村瀬さんに昨日、何があったか聞こうと、携帯を開くと、大量の着信履歴が残されていた。玉城さんからだ。僕は彼女に電話するのが恐ろしく、とりあえず、村瀬さんに、昨日何があったか電話で訊いた。村瀬さん云く、僕はふらふらの状態で帰っていったらしい。送っていけば良かった、と謝られたが、申し訳ないと思いながらも、何もなかった事に安堵した。
憔悴しながら、なんとかアパートに着き、玄関の扉を開けると、僕の方を睨みつけている玉城さんの姿があった。これから、きっと、問い詰められる。玉城さんは、昨日僕が村瀬さんと食事に行ったことを知っている。彼女は村瀬さんのことをあまりよく思っていない。僕は、後ろ暗いことがあるわけでもないのに、彼女の怒りの形相に気押され、重苦しい気分を何とか作り笑いで誤魔化して、ただいま、と彼女に言った。
「昨日どうして、電話に出なかったんですか?」
「昨日は、村瀬さんと飲んでて、そのまま、結構酔っちゃって、漫画喫茶で昼前まで過ごしたんだ」
「本当に?浮気じゃないの?」
「浮気?僕がするわけないでしょ」
「じゃあ、何で、夜の九時ごろからほとんど連絡返ってこなかったの?」
玉城さんは、僕の元まで歩み寄り、眉間に皺を寄せて、僕を問い詰める。今まで見た中で、一番怖い顔だ。多分、何を言っても怒られる気がする。
「いや、実を言うと、あまり記憶がなくて。。。」
「記憶がない?。本当にあの女と何もなかったの?」
「なかったよ。さっき電話で村瀬さんに確かめたよ。途中で別れたって。ふらふらなのに送っていかなくてごめんって」
「何で私より先に、あの女に電話するのよ」
僕は、ごめん、とポツリと言った。ただ、確かに玉城さんに連絡を入れなかったのは悪いが、彼女の怒り方はちょっと異常な気がしていた。まだ、何か彼女を怒らせた原因がある気がしていた。
「昨日さ、何の日か覚えてる?」
何の日と言われ、僕は思い出した。記念日だ。玉城さんは、ケーキとプレゼントを取り出して、「作品が最終選考に残ったし、帰ってきたら、お祝いしようと思ったのに」と声をくぐもらせながら言った。
初めて自分の書いた作品が、一次、二次と、選考を通過していくことに、僕は内心喜び、自分の作品が他人に認められているという自信から、ますます、創作活動にのめり込む様になっていた。沸き起こるアイデアの数々に僕の思考は埋め尽くされ、来月が付き合い始めてちょうど半年だと言うことは覚えていたが、昨日が記念日だと言うことは完全に忘れていた。
玉城さんの目は、みるみる、濡れていく。
「ごめんなさい」と言うと、
「なんかトシくんなんか慣れ始めてるでしょ」
「そんなことないよ」
「じゃあどうして忘れたの?。節目節目は二人でキチンとお祝いしてたじゃん、どうして?あの女のせい。もう目移りたの」
「いつも言ってるけど、村瀬さんは何も悪くないでしょ。いつも、僕が不注意なだけで」
「ねえ、何であの女をかばうの」
「かばってるわけじゃないよ。それに謝ってるでしょ」
「謝れば良いってわけじゃないでしょ」
「そうだけど」
居心地が悪い。二日酔いで、気分が悪くて、すぐにでも横になって、一旦、全部頭の中で整理したい。執拗な問い詰めに、僕はイラついていた。言ってやりたかった、自分だって、散々男と寝まくってるくせに、どうして僕は女の人と食事に行くのもダメなんだ、と。ワインの残り香を押し込むように、僕は感情を抑えた。このまま、話し合っていたら、とんでもないことを口走りそうだ。僕は何も言わず、ふらふらと、彼女の横を通り過ぎ、ベッドに向かう。
「ちょっと、何よ、その態度」
玉城さんは僕に言い付けて、腕時計で時間を確認し「これから仕事があるから。いい?帰ってきたら洗いざらい全部話してもらうから」と家を出る準備を始めた。
玉城さんは激昂し、僕は弁解を考えるのに必死で、二人とも外のざわつきに気がつきもしなかった。玉城さんは不貞腐れながらも、いってきます、と僕に声をかけてから玄関を開けると、大量のマスコミ関係者に囲まれた。鳴り止まないシャッター音とストロボ光。そして、僕らの関係への絶え間ない詰問。泣きっ面に蜂とはこのことで、僕らの交際が世間にバレたと悟った瞬間だった。
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