206 / 250
七章 決戦
大晦日
しおりを挟む
「ダァァァァァァァ!!!」
ある年の大晦日。
とある森の中に建っている豪邸から似つかわしくない叫び声が轟いた。
その衝撃か、風がざわめき、小鳥は血相を変えて逃げ出し、小動物は縮こまり、魔物は失神するというある意味での災害が森を襲った。
しかし、その災害を引き起こした張本人はそんなことを気にせず、もう一度、さっきよりも大きな声で叫び声をあげた。
「どうなってんだよーーーーーーーーー!!!!」
「うるさい!」
「グホッ!……す、すまない」
しかし、その言葉は中途半端なところで止まった。それを待ってましたと言わんばかりか、付近の動物たちは一斉にその家から遠ざかり、付近の街に出没し始めたが、そんなことも気にせず声をあげた張本人と大声を出す者を止めた張本人はソファに力なく座り込んだ。
「なぁ」
「どうしたの?」
「今日って……大晦日だよな」
「うん。大晦日だね」
一人は、まるで確認を取っているかのようだが、すでに顔には影がかかっていた。対するもう一人は、特に気にもとめず紅茶に手を伸ばしていた。
「大掃除って……するよな?」
「まぁ普通はするんじゃないかな?私の家お城だからどういう基準まで掃除をすればいいのかはわかんないけど」
「……年を越す時って……蕎麦食べるよな?」
「ううん。ゴブリンを食べるんだよ?何回も言ってるけど……」
「……………………ダァァァァァァァ!!!!」
「だからうるさいってば!」
「グハッ……ご、ごめん」
そう、先ほどの叫び声はこのことが原因で起こっていたのだ。
事の発端は叫び声をあげる男がこの世界に来て食べたゴブリンの肉の味だった。
それは、この世のものとは思えなおほどの異臭を醸し出し、溶けたガムのようなねっとりとしてネバネバする感触がし、肉の色が紫というなんとも食べ難いものだった。
しかし、そんなことに気づかずにそれを焼いて食べてしまった彼は、口の中が地獄祭りとなり、一週間ほど味がわからなくなるという事件を起こしていた。(本作中には出ておりません)
そのようなことがきっかけで、彼はその日以降ゴブリンはただ狩るだけのものとなり、魔石すらも回収せず跡形もなく燃やすのが普通となっていた。
そんな彼の、トラウマとも言える食材をめでたい?時に食べなくてはいけないことに対して、絶叫を上げていたのだ。
「なーにが好き好んであんな肉食べなきゃいけねぇんだよ!!」
「日々の料理に対しての有り難みを忘れないためにだよ」
そう。なんとこの世界では、新年を無事に遅れたから宴会をしようってことはなく。来年も慎ましく生き延びられることを願って貧しい料理を食べるんだとか。
これは勇者が作ったのではなく。もともとこの世界にいた住民たちが作った物なので、俺も消そうとまでは思えなかったのだ。
しかし。
「なぁ。オークじゃダメなのか?異次元倉庫に腐るほどあるんだが」
「ダーメーでーす!何度言えばいいのよ。それより早く掃除終わらせちゃってよね」
「は、はい」
彼は少女に逆らうことはせず、渋々と言った感じに掃除に取り掛かった。
と言っても、この豪邸には掃除が必要なくなるように結界がかけられているため、掃除と言う名の整理しかすることがなかった。
まず彼が向かったのは倉庫だ。そこには、武器や食材なんかが色々と置かれておりごちゃごちゃとしていた。
「とりあえず。『整理整頓』っと」
彼がそう唱えると、みるみるうちに整理されていき、ものの数秒で仕分けされ整理整頓されていた。
これは、彼が大掃除する時にと創った魔法であり、半径10メートルにあるものを種類、用途別に整理整頓できると言う便利な魔法だ。
「あとは……やっぱもうないんだよな。はぁ~店のどこ行ってもゴブリンしかないし、諦めてミリーナが作るゴブリンを食うか。案外、ミリーナが料理することで化けるかもしれないしな」
ご紹介がまだだったが、大声で叫んでいたのがアラストール・エリーニュスであり、グラント王国で公爵の爵位を持っているものだ。親しいものからはアストと呼ばれている。
そして、彼が言ったミリーナという女性はかくかくしかじかあって、アストと共に生きることを決め王国の第三王女という肩書きを捨てて共に生活をしているアスト伴侶だ。
「はぁ~憂鬱だ」
時が少し経ち、夕飯時となった。
アストにはミリーナが意外にも家族がいるのだが、それぞれ用事があるとのことで一緒に晩飯が食えないこととなっていた。
俺がそう呟いて数分後、ミリーナが両手に皿を持ってキッチンから出てきた。
「はい。ゴブリン肉の塩焼き」
なんとあのゲロマズ肉を塩と焼くだけで食うらしい。
俺はあの頃の悪夢が蘇り出し、昼に食べたものが出てきそうになるが、グッと堪えた。
そして、一口目を食べた。
「…………ん??…………あれ??」
俺は不思議な感覚に陥りながら二口目、三口目と口に頬張った。
そう。
「まずく……ない」
「当たり前でしょ。左腕のお肉しか使ってないんだから」
「ひ、左腕?」
「え?知らないの?」
話を聴くと、ゴブリンは雑食であり、全体的にクソマズな肉しかないが、左腕だけは特に雑味もなく普通に食べられるのだ。
「なんだよそれ……俺の今までの心配を返せよ……」
俺は力果てながらゴブリン肉に食らいつき、ミリーナと久し振りに二人きりの時間を、朝まで楽しんだ。
ーーーーーーーーー
作者より。
新年、あけましておめでとうとございます!
この作品で新年を迎えることができて嬉しいです。
かれこれ半年以上書き続けてますがなかなか上達しない作者ですいません。
これからも精進していきますので、新年からも応援よろしくお願いします!
ある年の大晦日。
とある森の中に建っている豪邸から似つかわしくない叫び声が轟いた。
その衝撃か、風がざわめき、小鳥は血相を変えて逃げ出し、小動物は縮こまり、魔物は失神するというある意味での災害が森を襲った。
しかし、その災害を引き起こした張本人はそんなことを気にせず、もう一度、さっきよりも大きな声で叫び声をあげた。
「どうなってんだよーーーーーーーーー!!!!」
「うるさい!」
「グホッ!……す、すまない」
しかし、その言葉は中途半端なところで止まった。それを待ってましたと言わんばかりか、付近の動物たちは一斉にその家から遠ざかり、付近の街に出没し始めたが、そんなことも気にせず声をあげた張本人と大声を出す者を止めた張本人はソファに力なく座り込んだ。
「なぁ」
「どうしたの?」
「今日って……大晦日だよな」
「うん。大晦日だね」
一人は、まるで確認を取っているかのようだが、すでに顔には影がかかっていた。対するもう一人は、特に気にもとめず紅茶に手を伸ばしていた。
「大掃除って……するよな?」
「まぁ普通はするんじゃないかな?私の家お城だからどういう基準まで掃除をすればいいのかはわかんないけど」
「……年を越す時って……蕎麦食べるよな?」
「ううん。ゴブリンを食べるんだよ?何回も言ってるけど……」
「……………………ダァァァァァァァ!!!!」
「だからうるさいってば!」
「グハッ……ご、ごめん」
そう、先ほどの叫び声はこのことが原因で起こっていたのだ。
事の発端は叫び声をあげる男がこの世界に来て食べたゴブリンの肉の味だった。
それは、この世のものとは思えなおほどの異臭を醸し出し、溶けたガムのようなねっとりとしてネバネバする感触がし、肉の色が紫というなんとも食べ難いものだった。
しかし、そんなことに気づかずにそれを焼いて食べてしまった彼は、口の中が地獄祭りとなり、一週間ほど味がわからなくなるという事件を起こしていた。(本作中には出ておりません)
そのようなことがきっかけで、彼はその日以降ゴブリンはただ狩るだけのものとなり、魔石すらも回収せず跡形もなく燃やすのが普通となっていた。
そんな彼の、トラウマとも言える食材をめでたい?時に食べなくてはいけないことに対して、絶叫を上げていたのだ。
「なーにが好き好んであんな肉食べなきゃいけねぇんだよ!!」
「日々の料理に対しての有り難みを忘れないためにだよ」
そう。なんとこの世界では、新年を無事に遅れたから宴会をしようってことはなく。来年も慎ましく生き延びられることを願って貧しい料理を食べるんだとか。
これは勇者が作ったのではなく。もともとこの世界にいた住民たちが作った物なので、俺も消そうとまでは思えなかったのだ。
しかし。
「なぁ。オークじゃダメなのか?異次元倉庫に腐るほどあるんだが」
「ダーメーでーす!何度言えばいいのよ。それより早く掃除終わらせちゃってよね」
「は、はい」
彼は少女に逆らうことはせず、渋々と言った感じに掃除に取り掛かった。
と言っても、この豪邸には掃除が必要なくなるように結界がかけられているため、掃除と言う名の整理しかすることがなかった。
まず彼が向かったのは倉庫だ。そこには、武器や食材なんかが色々と置かれておりごちゃごちゃとしていた。
「とりあえず。『整理整頓』っと」
彼がそう唱えると、みるみるうちに整理されていき、ものの数秒で仕分けされ整理整頓されていた。
これは、彼が大掃除する時にと創った魔法であり、半径10メートルにあるものを種類、用途別に整理整頓できると言う便利な魔法だ。
「あとは……やっぱもうないんだよな。はぁ~店のどこ行ってもゴブリンしかないし、諦めてミリーナが作るゴブリンを食うか。案外、ミリーナが料理することで化けるかもしれないしな」
ご紹介がまだだったが、大声で叫んでいたのがアラストール・エリーニュスであり、グラント王国で公爵の爵位を持っているものだ。親しいものからはアストと呼ばれている。
そして、彼が言ったミリーナという女性はかくかくしかじかあって、アストと共に生きることを決め王国の第三王女という肩書きを捨てて共に生活をしているアスト伴侶だ。
「はぁ~憂鬱だ」
時が少し経ち、夕飯時となった。
アストにはミリーナが意外にも家族がいるのだが、それぞれ用事があるとのことで一緒に晩飯が食えないこととなっていた。
俺がそう呟いて数分後、ミリーナが両手に皿を持ってキッチンから出てきた。
「はい。ゴブリン肉の塩焼き」
なんとあのゲロマズ肉を塩と焼くだけで食うらしい。
俺はあの頃の悪夢が蘇り出し、昼に食べたものが出てきそうになるが、グッと堪えた。
そして、一口目を食べた。
「…………ん??…………あれ??」
俺は不思議な感覚に陥りながら二口目、三口目と口に頬張った。
そう。
「まずく……ない」
「当たり前でしょ。左腕のお肉しか使ってないんだから」
「ひ、左腕?」
「え?知らないの?」
話を聴くと、ゴブリンは雑食であり、全体的にクソマズな肉しかないが、左腕だけは特に雑味もなく普通に食べられるのだ。
「なんだよそれ……俺の今までの心配を返せよ……」
俺は力果てながらゴブリン肉に食らいつき、ミリーナと久し振りに二人きりの時間を、朝まで楽しんだ。
ーーーーーーーーー
作者より。
新年、あけましておめでとうとございます!
この作品で新年を迎えることができて嬉しいです。
かれこれ半年以上書き続けてますがなかなか上達しない作者ですいません。
これからも精進していきますので、新年からも応援よろしくお願いします!
5
あなたにおすすめの小説
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる