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がんばる理由
しおりを挟むこれは森の中の1匹のリスのおはなし。
ぼくはリスのチビ。
産まれた時からずっとこの森の中に住んでいる。
だってここにはおいしい食べ物もたくさんあるし
あったかい落ち葉のふとんだってある。
今はちょうど秋の季節。
森にはたくさんの木の実や果物が実っている。
心配することはなにもないのだ。
「今日は天気がいいな。」
昨日の森は嵐で外に出られませんでした。
チビはクヌギの木の中に作った家から
ピョコッと顔を出し空を眺めました。
そして木を降り地面に足が着くと
外へ歩き出しました。
少し歩くと
向こうからクマが歩いてきました。
両手には栗をいっぱい抱えています。
「クマさんこんにちは。」
「おや、チビくんこんにちは。」
クマとはこの森で長い付き合いです。
「その栗はどうしたの?」
チビはたずねました。
「昨日の嵐で木からたくさん落ちていたんだよ。でもちょっと重たくて。僕の家まで運ぶのを手伝ってくれたら栗を分けてあげるよ。」
と、クマは言いました。
「僕は身体が小さいし。運べるとしても2つがやっとだ。悪いけど、他の動物に頼んでおくれ。」
チビはそう言いうと
また歩き出しました。
すると今度は、キツネに会いました。
なぜか一生懸命に土を掘っています。
「キツネさん、こんにちは。」
キツネは急に声をかけられ驚いたのか
勢いよく土から顔を出しました。
鼻には土がついています。
キツネは今年の春に、この森に引っ越してきました。
「ビックリした!なんだー、チビくんじゃないか。ちょうど良かった。ここに大きなさつまいもがあるみたいなんだ。けれど、なかなかとれなくて。掘るのを手伝ってくれたら採れたさつまいもを半分あげるよ。」
するとチビは
「えー⁈ 僕には無理無理!土なんて掘った事ないし、それに…泥だらけになっちゃう。悪いけど、他の動物に頼んでおくれ。」
チビは手を横に振り
少し慌ててその場から逃げました。
「どうしてみんな、あんなにがんばっているんだろう。頑張らなくたってほら、食べ物はあるじゃないか。」
チビはそう言うと、足元に落ちていたどんぐりを1つ拾いました。
「僕はこの1つでじゅうぶん。」
チビはドングリを食べながら
また歩き出しました。
住んでいる森を抜けて、少し歩くとリスがいました。
「リスさんこんにちは。」
「あら、はじめまして。」
初めて会うそのリスはペコッと頭を下げました。
「僕は隣の森に住んでるチビ。ここでなにをしていたの?」
チビは聞きました。
「私はすぐそこのコナラの木に住んでるハナ。別になにもしていないわ。ただ今日は天気が良かったから。つい外に出てきちゃったの。」
チビとハナは近くの切り株に座り、お話をしました。
昨日の嵐の事。
秋の匂いがしてきた事。
好きなドングリの料理。
そして
さっき会ったクマとキツネの話。
「どうしてみんな、がんばったりするんだろう。ハナちゃんには理由が分かる?」
チビはたずねました。
「さぁ。わたしもよく分からないわ。きっとがんばったらすてきなご褒美があるのかもしれないわ。」
ハナは少し笑って答えました。
その日からチビは天気が良いと外へ出て
ハナの住んでいる森へ行きました。
そしてはじめて会った時と同じように切り株に座って
ハナとお話をしました。
空を見て、明日の天気は雨だとか
夜になると聞こえてくるフクロウの声が怖いとか
冬は眠くなるとか。
そんなある日、チビはまたハナに会うため
隣の森へ行きました。
でもその日は、ハナはいつもの場所にいませんでした。
「いつもなら僕より先にいるはずなのに。どうしたんだろう。」
チビは心配になり、ハナの住んでいるコナラの木を登り
ドアをコンコン叩きました。
すると中からかすかにハナの声がしました。
チビがそっとドアを開けて中をのぞいてみると
ハナは布団の中にいました。
いつもとちょっと様子が違うようです。
「天気がいいのにどうしたの?またこの前の話の続きをしよう。」
するとハナは困った顔をして
「今日はなんだか調子が悪いの。頭がズキズキするし、歩くとフラフラするの。」
チビはハナのおでこを触ってみました。
すると、とっても熱いのです。
「大変だ。熱がある。」
チビは慌てました。
「どうしよう。なにか僕に出来ることはないかな。」
するとハナは
「なんだか寒いの。毛布がもう一枚欲しいわ。」
と、震えながら言いました。
「わかった。今持ってくるよ。」
チビは急いで外へ行き
落ちていた柔らかくて温かそうな落ち葉をなるべく選び、拾うと
ハナにかけました。
「ありがとう。」
ハナは言いました。
「ごはんは朝から食べていないの?」
チビは聞きました。
「食べていないわ。食欲がないの。」
ハナは首を横に振りながらそう言いました。
「ダメだよ。何か食べないと元気が出ない。よし、今僕が美味しいものを採ってくるよ。」
そう言ってチビは外に飛び出しました。
地面へ降りるとキョロキョロと
なにか食べ物がないか探します。
少し先の茂みに
ドングリが落ちていました。
チビはひょいっと拾い上げましたが
考え込みました。
「ドングリじゃいつもの食事と一緒じゃないか。もっと美味しいものを探そう。」
チビは手に取ったどんぐりを地面へと戻しました。
「あ!そうだ!」
チビは手をポンッと叩き、クマの家へ行きました。
クマの家は大きな洞穴の家。
頑丈で、ドアもとっても大きいのです。
コンコン。
「くまさーん。いますかー?」
チビは大きな声で言いました。
すると中からクマの子供たちが出てきました。
「リスさんだ!ちっちゃいな!僕たちの鼻と同じ大きさじゃないか!」
子グマたちははしゃぎながらそう言うと
チビを上から見下ろしました。
「君たちのお母さんはいる?ちょっとお願いしたい事があって来たんだ。」
すると奥の方からこの前会ったクマが出て来ました。
「あら、チビくんじゃない。どうしたの?」
クマはたずねました。
「この前、あなたがたくさん持っていた栗を少しだけ分けて欲しいんだ。」
チビは言いました。
するとクマは
「あら、ごめんなさい。この前の栗はこの子たちが全部食べてしまったの。」
クマはそう言って子グマたちの頭をなでました。
「そうなんだね。」
チビは子グマたちをみた後、下を向きました。
「でも、また落ちているかもしれないわ。上を見るとまだたくさん実っていたもの。」
クマは言いました。
「行ってみるよ。ありがとう。」
チビはクマと子グマたちに手を振って
クマの家をあとにしました。
栗の木へ行ってみると、地面には栗のイガだけがたくさん落ちていました。
栗はなさそうです。
ふと木の上を見ると、イガから顔を出している栗を見つけました。
チビは木を登ろうと木に近づきました。
すると
「いてて!」
チビの身体に痛みが走り背後を振り向きました。
栗のイガがしっぽに刺さってしまったようです。
しっぽには赤く傷が付いています。
それでもチビは痛むしっぽをクルッと丸めると
木を登り
栗を1つ手に取りました。
そしてなんとか木を降りることが出来ました。
次にチビはキツネの家へ行きました。
キツネの家はススキを編み込んで作ったかわいいお家。
ところどころにススキの穂がピョンと飛び出ています。
コンコン。
チビはドアをたたきました。
「キツネさん、ちょっとお願いがあるんだ。」
すると家の中からこの前会ったキツネが出てきました。
「おや、チビくんじゃない。どうしたんだい?あらら、大事なしっぽに傷がついているよ。」
キツネは心配そうにチビのしっぽを見ました。
「そんな事よりこの前掘っていたさつまいもは採れたかい?もし残っていたら少しだけ分けて欲しいんだ。」
チビは言いました。
するとキツネは
「あぁ、さつまいもは採れたよ。でももう残っていないんだ。さつまいもが大好物のやつがいてね、その日のうちに全部食べられてしまったよ。」
キツネは笑いながら家の中に目をやりました。
そこにはかわいいキツネの女の子がいました。
鏡を見ながらお化粧の練習をしているようです。
「そうだったのか。大好物なら仕方がないね。」
チビはガクッと肩を落としました。
するとキツネは
「まだあるかもしれないよ。僕が掘ったところはさつまいものツルがたくさんあったから。」
キツネは言いました。
「行ってみるよ。ありがとう。」
チビはペコッとお辞儀をして
さつまいもが生えていた草むらへ行きました。
さつまいもがあったところへ着くと
確かにさつまいものツルがまだ生えています。
でも土を掘らなければさつまいもは見つかりません。
チビは思い切ってツルの生えている根元を掘って掘って掘りました。
チビの手は泥だらけ。
すると
「あった!」
チビは叫びました。
そこには小さいさつまいもの頭がちょこっと土から顔を出しています。
チビはまた土を掘り出しました。
もう手だけではなく、身体中が土に埋まっていますが
気にしません。
どのくらいの時間掘っていたでしょう
やっとの事でチビは小さなさつまいもを1つ
掘り出す事が出来ました。
チビはさつまいもを背中にかつぎ、栗を口にくわえ
ハナのいる家を目指しました。
あたりを見るともう陽は落ちて真っ暗です。
フクロウがホーホーと鳴いています。
チビは怖い気持ちをおさえ
歩き続けました。
コンコン。
「ハナちゃん、僕だよ。チビだよ。」
チビの声が聞こえ、ハナはベッドから重い身体を起こしました。
そしてドアを開けてビックリ!
だってそこには
全身泥だらけのチビが栗とさつまいもを抱えて立っているんですもの。
「チビくんどうしたの⁈泥だらけじゃない!しっぽなんて怪我してるわ!」
ハナは目をまんまるにして驚いています。
「遅くなってごめんね。今からハナちゃんに美味しいものを作るよ。」
そう言ってチビは台所に立ち
栗の皮を歯で上手にむき
さつまいもを丁寧に洗い
鍋で一緒にコトコト煮ました。
ハナの部屋は美味しそうな匂いでいっぱいです。
「さぁ、出来上がり!」
そう言ってチビは、ハナが寝ているベッドへ自分が作った料理を持って行きました。
「美味しいか分からないけれど食べてみて。」
ハナはスプーンで鍋の中の栗とさつまいもをすくい
ひと口、口の中へ入れました。
「美味しい!どんどん食べれちゃう!」
ハナは喜んで、またひと口、またひと口と
チビが作った料理を美味しそうに食べました。
そして食べ終わると
「ちびくん、ありがとう。」
と言いました。
チビもハナが美味しいと言って
食べてくれた事に安心したのか
ベッドの端に腰を下ろすと
話出しました。
「聞いてよ。今日の僕、いつもなら嫌がる事をたくさんしてきたんだ。だから絶対疲れているなはずなのに。ハナちゃんの顔を見たら、元気が出たみたい。」
ハナは思わずクスッと笑いました。
そしてハナは言いました。
「どうしてそんなに泥だらけになるまでがんばったの?」
そうハナに言われたチビはビックリしました。
「そうか。僕、今日がんばったのか。」
チビは我に返ったように自分の汚れた身体を見ました。
がんばったって
素敵なご褒美なんてありませんでした。
もらったのはしっぽの傷と泥だらけの身体です。
そしてチビの頭の中に
クマが子グマ達をなでていた時と
キツネが笑って振り向いた先に
キツネの女の子がいた時のなんでもない出来事が
自然と浮かんできたのでした。
チビはなにか分かったような気がしました。
そして
朝より元気そうなハナをみて言いました。
「がんばってよかった。」
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