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モニカ、はじめての観劇
しおりを挟む店を出て、ゆっくりと街の中心へ向かって歩く。
「次はどこへ行くのですか?」
モニカが隣で、すっと歩調を合わせてきた。レオポルドは、しばらく考え――
「……観劇でも見るか。」
「観劇?」
「そうだ。戦場ってわけじゃねぇが、まぁ、一種の戦いではある。」
「…なるほど。」
モニカは、ほんの少し考え込んだ後、
「戦う演目ですか?」
「そういうのもあるな。」
「では、それを。」
「…いや、別に剣を交える舞台ばかりじゃねぇぞ。」
「そうなんですか?」
「恋愛ものや、喜劇、歴史劇もある。」
「デートでは、何を見るべきなのでしょう?」
「…お前の好きなものでいい。」
「……?」
モニカは一瞬まばたきし、「では、戦う演目で。」 と頷いた。
やっぱりそうなるか。
レオポルドは苦笑しつつ、劇場へと足を進めた。
席に座ると、モニカは落ち着いた仕草で舞台を見つめていた。
幕が上がる。
戦士たちの熱い戦いが始まる。
モニカの視線は、微動だにしない。
…こいつ、すげぇ集中してんな。
時折、役者が剣を交えると、モニカの手が無意識に膝の上で握られる。
…興味あるのか、こういうの。
幕間に、レオポルドが尋ねる。
「どうだ?」
「面白いです。」
「そうか。」
「戦場の動きとは違いますが、演劇ならではの様式美があります。」
「お前、そんなとこ見てんのか。」
「ええ。」
…戦いの美学を感じ取ってるのか?
レオポルドは、肩をすくめた。
こういうデートで戦闘の所作に注目するの、モニカくらいだろ。
だけど
「おもしろいなら、よかった。」
「ええ。楽しいです。」
嬉しそうに頷くモニカを見て、レオポルドはそれ以上何も言わなかった。デートってのは、こういうものでいい。
…こいつが楽しいなら、それでいい。
幕が下がり、劇場をあとにする頃には、すっかり夕暮れになっていた。劇場を出て、夕暮れの街を歩いていると、モニカがふと足を止めた。
「……?」
レオポルドが振り返ると、モニカが何かを考え込むように空を仰いでいる。
「どうした?」
「ねこに、お土産を買いましょう。」
「…………。」
レオポルドは、一瞬、言葉を失った。
「…お前、今、デート中なのわかってるか?」
「はい。」
「じゃあ、普通は、デートの終わりに次の約束とかそういうの考えるもんじゃねぇのか?」
「ねこが待っています。」
「……。」
モニカは、当然のように頷く。
「ねこも、都の住人ですから。」
「…ああ、そうかよ。」
レオポルドは、ため息をつきながら苦笑する。
…まぁ、モニカらしいっちゃらしい。
「で、何を買うんだ?」
「そうですね。」
モニカは、真剣に考え込む。
「鮭のミルク煮はよく作っていますし…」
「おい、あれ贅沢すぎるって前も言っただろ。」
「ですが、ねこは気まぐれです。たまには違うものを。」
「…まぁ、それもそうか。」
「では、おやつにしましょう。」
モニカは、すぐ近くの雑貨屋を見つけ、まっすぐ入っていった。レオポルドは、少し遅れて後を追う。
「…どれがいいでしょう?」
モニカは、棚に並ぶねこ用おやつを真剣に見比べていた。レオポルドは、その横で腕を組む。
「どれでもいいだろ。」
「…いいえ。」
「?」
「せっかくの『デートのお土産』ですから。」
「…………。」
…お前、それ、俺とのデートより力入ってねぇか?
レオポルドは、何も言わずにため息をついた。
「…じゃあ、これにしろ。」
そう言って、肉の入ったねこ用スナックを手に取る。モニカは、じっとそれを見つめ
「レオポルドさんの選ぶものなら、間違いないですね。」
「…まぁ、な。」
モニカは、静かに微笑んで、そのおやつを買い求めた。
屋根裏の都に戻ると、ねこが窓辺で丸くなっていた。
「にゃあ。」
「ただいま戻りました。」
「にゃ。」
モニカはねこを抱き上げ、買ってきたおやつを差し出す。
「レオポルドさんが選びました。」
「俺の手柄みたいに言うなよ。」
ねこは、くんくんと匂いを嗅ぎ、満足そうに喉を鳴らして食べ始める。
「にゃあ。」
「気に入ったようですね。」
「…そりゃ、よかったな。」
レオポルドは、椅子に腰掛けながら、満足げなモニカとねこを眺める。
…なんか、いつもの屋根裏に戻ったな。
「レオポルドさん。」
「ん?」
「本日は、ありがとうございました。」
「…ああ、…まぁ、な。」
モニカは、ねこを撫でながら、ふっと微笑んだ。レオポルドは、その姿を見て
…なんだ、これ。デートの締めが、ねこってどういうことだよ。
そう思いながらも、どこか心地よい気分で、窓の外に広がる都の夜を眺めた。ねこは、相変わらず満足そうに、ゆっくりと尻尾を揺らしていた。
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