茜雲の向こう

月森優月

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 あの茜雲の先には、何があるのだろう。
 滲んだ手首の血をちろりと舐める。酸っぱい味がした。
 切っても切っても物足りなかった。
 痛みつけた先には痛みしかなかった。
 成海は「やば」と苦笑いを浮かべながら、他の友達と一緒に帰っていった。石ころを蹴り飛ばすと水たまりに静かに沈んでいった。
 あーあ。
 世界の終わりってこんな感じなのかぁ。
 授業中にカッターの刃を出しても、教師の声は途切れず続く。
 隣に座る男子がちらりと私を見て声もなく笑った。
 気付いてしかった。
 認めてほしかった。
 ただ愛してほしかった。
 私の声帯はぐぐっと鳴るだけで、何も伝えられない。
「お前の声、ガマガエルみてぇ」
 そう言われたから、ガマガエルは鳴かなくなりましたとさ。
 声を失ったガマガエルは手首を切るしか表現方法がなくなりましたとさ。
 めでたしめでたし。
 ――って、少しもめでたくない。
 痛いし、友達も離れていくし、惨めなだけだった。
 気付いた頃には手首を切る理由もなくなっていた。想いを伝えたい人は誰もいなかった。
 蹴り飛ばす石ころが、側溝に落ちて消えていった。
 見るものがなくなって空を見上げる。
 遠くの空が、茜色に染まっていた。
 怖いくらいの赤だった。
 この空のように綺麗に染まりたかった。
 私は何者にもなれないのだ。
 けれど――。
 かすれた茜雲の向こうにも何もないことを、私は知っている。
「馬鹿らしっ」
 久しぶりに出た声は、やっぱりガマガエルのようだった。
 けれど景色はじわりと滲み、手の甲に涙の粒が落ちた。
 涙は生温かった。
 茜雲の先には、きっと、絶対、何もないだろうけれど――。
 まだ、この声を途切れさせたくなかった。
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