KAITO

カビこんにゃく

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邂逅 青

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 ―三月初旬、世の中の学生は春休み、世の中は節目に突入する。そしてここ魚角市に一人暮らしをしている大学生、青井雄二もまたその一人。彼は、国立大学の鹿島大学の学生であり、四月には二学年になる。その日はバイトも講義もなく、街をふらついている…そんななんでもない日に物語は始まっていく。―

「ふぁぁ~、ぽかぽかしてて、散歩にはいい天気だねぇ。」
何もない休みの金曜日に、財布と飲み物と歯磨きセット、タオル、ミネラルウォーターを黒いトートバックに詰め、俺はここ魚角市を一人でぶらりとしていた。途中河川敷にあるベンチに腰を掛け、まだつぼみを多く有した桜の木や、ゆらゆらとしている魚の影を眺めながら物思いに浸る。
「そういや、二年前はこの近くの予備校に入ってきたんだよなぁ、うちの大学の入試問題、数学だけ異様にむずいんだもん。」
そんなことを思い出して少しにやついていた。お昼時、小腹がすく。鹿島中央駅と隣接したKAMU(カミュ)にでも行こう。

 KAMUは地下一階(Bf1)から六階(6F)まであるデパートであり、6Fには観覧車とゲームセンター、映画館や駅前を眺めることができるビュースポットがある。KAMU周りは飲み屋街やビルがあり、地下通りを使うことで向かいの道へ安全に早くいくことができる。

青井が駅前広場を通りかかると、「名物おじさん」と言われるおじさんが歌にのりながら威勢よく声を上げている。また、広場の上の方にあるモニターには、鹿島県では有名なラジオパーソナリティが映し出されている。
『元気かい?鹿島にお住いの皆さん、そして、引っ越してきた皆さんもこんにちはッ!ラヴ・E(ESTER)・ソーヘイぃ…でぇす!今回は…。』
とても陽気な声は通りかかる人から視線を集める。おそらくここに引っ越してきた人たちだろう。鹿島の人たちは育つ過程で何回も見ている人だからだ。いつも、さわがしいなぁ。

モニターを過ぎ、混んでいるエスカレーターを横目にスカスカの階段をスタスタと上がり、右折。人にもまれながら、KAMUに入った。入り口も中も意外と混んでいる。中高生が多い気がする、というのもまぁ、受験や内定が決まってゆっくりできる人や、新生活で必要なものを買う人が多いんだろう。
そんな人たちを横目にタピオカ屋さんに行き、学生サービスで安く買えるタピオカあんみつミルクティーを買った。さっぱりしたミルクティーに甘い黒みつのかかったものだ。いやぁ、これがうまいんだな。予備校の時もお世話になったな、おひとり様楽しんでたわ。持ち歩きたいから袋もらお。


4Fに本屋があるから行こう。エレベーターで上へ、そのあと出たところを右折して歩いていくと、常世夢書店鹿島中央横についた。ここには参考書を買ったりマンが買ったりでお世話になった。浪人生が漫画なんて買うなってツッコミは受け付けないからな。成果を上げた自分への褒美も必要だし。

本に水滴が落ちないよう、トートバックに入っていたコンビニのビニール袋で二重にしてトートバックにタピオカミルクティーを入れた。バッグインバッグインバッグなんて初めてやった。新書コーナーには老眼鏡をかけたおばあさんや若い男性がいたり、漫画コーナーには話したことはないがしている同学年の奴や、まだ高校生くらいの人がいたりと店内は老若男女であふれていた。意外と人がいるもんだな。


書店の漫画コーナーをサラッと見て、ふと目に入った赤本コーナーへと久々に向かってみよう、そう思った。
いつ見てもテンションの上がらない赤本コーナーは少し気の滅入った雰囲気を醸している人がちらちらといる。その中には学生服を着た女子高生もいる。よほど目立つような人ではないはずなのに少し気に留まった。それは彼女が傘を持っているからである、しかも小さい子が持つような直径一メートルあるかないか程のものだ。あまり見るのもなんか悪いため、そのままフラッと立ち去った。
しかしまだ三月初旬で赤本コーナー行くなんて真面目過ぎるだろ。

常世夢書店を堪能した後、5Fのレストランに行った。中華やバイキング、ステーキ屋などから食欲をそそる匂いが出ていて、腹の虫が欠伸をする。しかし、店前のサンプルを見ると、金額が腹の虫を睡眠へ再びいざなった。おひとり様じゃあ食えないな。あと、ミルクティーあるし…。
そうして1Fから外へ出てしばらくしたところにあるコンビニへ行き、梅と豚味噌のおにぎり、550mlのお茶を買って駅前広場で食べた。やはりこういったごはんの方が俺にはあっている。単価で見たら高いだろうけど、ゆっくり食べられるし。

二つのおにぎりを食べ終わり、口に残った米粒やひき肉をお茶で流しこんだ後、立ち上がって次にどこへいおうと考えたが、大きな笑い声がそれをかき消した。声のした方向には男がいた。スーツ姿ではあるものの、頭髪は整えられておらず、猫背で、あまり清潔感がないというか、暗いものを感じた。その周りにいた人たちは彼を避けるように通って行った。目についたが、あまりじろじろと見てはいけないだろうか、変な人だったなぁと感じた。そのつかの間に、彼の周りの雰囲気が変化した。


日の光のような温かさを皮膚で感じた。しかしどこか歪んだ暖かさであり、それはあの男から感じる。彼を見るとその頭部は炎のようにゆらゆらとしていった。いや彼の頭は皆既日食時の太陽のように真っ黒く染まっていた。そして顔がついていたであろう場所には大きな口がついており、不気味に笑っている。しかし、周りの皆はそこまで反応を示すわけでもなく、気づいているそうぶりもない。僕だけが気づいているようなこの感覚に背筋がぞわっとした。

そして、男は
「どうして俺ばかり…、俺ばかりなんだ。ふざけるな、あれは私のミスではなく上司であるあんたの連絡が遅れたからだろうが。私はちゃんと仕事をこなしたんだ、なのになんであいつから言われなきゃいけないんだ…ッ!」

とうなだれてつぶやき、歩き続けていた。

今この話を聞いた僕なら何かできるだろうか。いやぁでも怖いなぁ、だってぶつぶつ独りで愚痴言ってんだよ?そりゃみんな近づけないよ。
そう思ったけど、僕は話すことにした。やはり少しでも楽になればと思った。それがよくなかった。

「あの…大丈…夫ですか?」
「…なんだ、お前。知らん顔だが。大丈夫そうに見えるか?」
「あぁ、すみまs。」
「大丈夫に決まってんだろ。」
「…はぇ??」
「それに、この力は…この力なら…。」

怖ぁッ!訳の分からんこと言いやがる。しかも力ってなんだ…。


ぼけっとしていた僕は
「どけ、俺は忙しいんだ。」
と言われ、どつかれて尻もちをつかされた。人目の歩道のほぼ中央だったのに、道の端まで吹っ飛ばされた。その時に彼の手でどつかれた胸が、妙に熱くなってむかむかしだした。
そういや、小学校の時のあいつ…許さねぇ。今度会ったときは…くそっ!
イライラする。もう終わったことなのに。今は楽しいはずなのに。

彼がずかずかと勢いよく歩き出し、50mは離れたであろう時、僕の頬に雫があった。
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