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邂逅 追跡と決断
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さて、腹も膨れた。あの男、名前なんて言ったっけな。なんとかじだった気がする…。青井…まぁいいや。探すか、例の男。
Colorfulから出てまず情報集め、もしかしたら同じ感性を持つやつがSNSで投稿をしているかもしれない。そうだな、「スーツ」「猫背」…いやこれじゃないな。整体の広告が多く流れてくる。「黒い顔」「スーツ」…これも違う。「きもい」「スーツ」…あぁもう違う。主婦の愚痴とかマジでどうでもいい。
SNSでの人探しは時間がかかる上に正確性やキーワードを絞るのが難しい。さっき追っていけばよかった。時間は16:15。帰宅途中の学生や社会人が増え、KAMUの広間の人通りもよりいっそ増えている。広間の上のスクリーンでは鹿島の魅力を伝える広告があるはずだが、今はニュースというか、特集をしている。スマホばかり触っていたから気づかなかったがこういうの流れているのかこの時間は。その特集はそうやら御心酒造という会社の特集のため、インタビューしているらしい。
そこにいた。アナウンサーの奥で、車線を隔てた反対の歩道をぬらりぬらりと歩いている。あの時見たスーツ、猫背!それは間違いなくやつさ。
動揺して出てきた脳内の赤い男を振り払い、名物おじさんに聞いた。「おい、あのニュースいつ撮られているかわかるか!!」名物おじさんは困惑して「え、えぇ?書いちょっど、『LIVE』ち。」と一言。
ハッとした。左上に確かに赤文字で『LIVE』と書いてある。そこに行けばやつはいる。あたしは御心酒造の建物まで急いだ。ちくしょう荷物置いてくるんだった、邪魔だ。大体そこまで走って7分。その間にやつがそこまで遠くに行かなければいいが。行きながらあいつに場所を送っておこう。来るか来ないかはあいつ次第だ。ひとまず今は急げあたし!
―一方、少し時間を巻き戻して青木雄二。彼はトイレから出て少し水を飲み、席で腕組をしながら考えていた。これからどうすべきなのか。あの男を追跡するかこのまま逃げるか。―
彼女は女子高生なんだろ?どうしてそこまでする。人のためにどうしてそこまでできる?自分の進路もあるのだろうに。…いや今はそこではない。問題はあの男だ。彼に触れた瞬間のあの感じ…久しぶりにあふれた、蓋をしたくなるような感情。過去の出来事を鮮明に思い出させてくれやがった。それでも今を楽しむために蓋をして、見ないふりをしてきたんだ。つらく生きる必要なんてない。だがなぜだろう。ここで目を背けたらいけない気がする…。高校生時代ならいったん外に出ていたな。
翔子の置いていった2000円で支払いを済ませ、外へ出た。もう16時、日も傾いてきた。人がさっきより多い気がする。僕は予備校へ向かう川沿いの道を歩いていた。影は河川側に伸びて涼しい。この気温も散歩にはちょうどいいのかもしれない。つぼみの多くは未だに硬いままだが、桜の花びらがちらほらとみられる。その時ポケットのスマホが振動した。連絡主は翔子…、少しためらいつつ内容を開くと、御心酒造の建物を中心に赤丸のしてあるマップのスクショと「やつを見つけた、先に向かって探しとく。」とのこと。ふつーにやだ。公園のベンチに腰を掛ける。鳩がぽっぽと足元へ寄ってきている、誰かが餌付けしているのだろうか。禁止なんだけどな。
うつむく視界に一人の足が映りこむ。誰だろうと見上げると、130cmくらいの腰が少し曲がったおばあちゃんが目の前に立ち、細い目をこちらに向けていた。
「その陽を逃す出ないぞ、器よ。」その声にはよぼよぼながらも、重圧があった。陽?器?なんだそれ。訳の分からないやばめのおばさんならむこうに行ってほしい。だが、その老婆は続けて言った。
「そなた、覗かれたのじゃな。奴はお前の影を覗いた。今は大丈夫じゃろうが、後々そのあふれ出る感情は抑えられなくなり、そなたは塵と化すじゃろう。あぁ、主が言うておる。あの橙をつかむ手がそなたにはある、と。そのおなごの下へ向かうがよい。大丈夫じゃ、そなたはおなごの力になれる。自分を信じなさい。」
「自分を信じなさい」だ?訳が分からない、宗教の勧誘じゃないのか?何が目的なのかさっぱりわからん。…いや待て、なんでこのおばあちゃん、僕の連絡している相手が『女』だと気づいたんだ?それにこの現実離れした現状を的確に当ててくるんだ?不可思議が加速していく事態についていけないぞ。
おばあちゃんが僕から去っていった。バッグからさっき買ったお茶を取り出そうとすると、ミルクティーも出てきた。完ッ全に忘れてた。もうぬるくて飲めないか…いや行けるか?そんなことを思っているとバッグから紙が一枚、Colorfulで証拠からもらった紙が裏向きに落ちた。そこには「待っているぞ。」の一言。
…行くか。もしかしたら、もしかしなくても、逃げられないんだ、この運命からは。「覚悟を決めなさい。」という母親から何べんも言われたことを思い出した。あの時は高校生で、「覚悟」ってなんだよって思ってたな。今でもわからないんだけど、多分こんな感じなんだろう。別に探偵じゃないが、おばあちゃんが言っていた『主』も気になるし、やらなかった後悔はやる後悔よりつらいはずだ。
僕はいろんな言葉を自分自身に言い聞かせた。そんなときにまた連絡が来た。
「場所がわかった。」と。
Colorfulから出てまず情報集め、もしかしたら同じ感性を持つやつがSNSで投稿をしているかもしれない。そうだな、「スーツ」「猫背」…いやこれじゃないな。整体の広告が多く流れてくる。「黒い顔」「スーツ」…これも違う。「きもい」「スーツ」…あぁもう違う。主婦の愚痴とかマジでどうでもいい。
SNSでの人探しは時間がかかる上に正確性やキーワードを絞るのが難しい。さっき追っていけばよかった。時間は16:15。帰宅途中の学生や社会人が増え、KAMUの広間の人通りもよりいっそ増えている。広間の上のスクリーンでは鹿島の魅力を伝える広告があるはずだが、今はニュースというか、特集をしている。スマホばかり触っていたから気づかなかったがこういうの流れているのかこの時間は。その特集はそうやら御心酒造という会社の特集のため、インタビューしているらしい。
そこにいた。アナウンサーの奥で、車線を隔てた反対の歩道をぬらりぬらりと歩いている。あの時見たスーツ、猫背!それは間違いなくやつさ。
動揺して出てきた脳内の赤い男を振り払い、名物おじさんに聞いた。「おい、あのニュースいつ撮られているかわかるか!!」名物おじさんは困惑して「え、えぇ?書いちょっど、『LIVE』ち。」と一言。
ハッとした。左上に確かに赤文字で『LIVE』と書いてある。そこに行けばやつはいる。あたしは御心酒造の建物まで急いだ。ちくしょう荷物置いてくるんだった、邪魔だ。大体そこまで走って7分。その間にやつがそこまで遠くに行かなければいいが。行きながらあいつに場所を送っておこう。来るか来ないかはあいつ次第だ。ひとまず今は急げあたし!
―一方、少し時間を巻き戻して青木雄二。彼はトイレから出て少し水を飲み、席で腕組をしながら考えていた。これからどうすべきなのか。あの男を追跡するかこのまま逃げるか。―
彼女は女子高生なんだろ?どうしてそこまでする。人のためにどうしてそこまでできる?自分の進路もあるのだろうに。…いや今はそこではない。問題はあの男だ。彼に触れた瞬間のあの感じ…久しぶりにあふれた、蓋をしたくなるような感情。過去の出来事を鮮明に思い出させてくれやがった。それでも今を楽しむために蓋をして、見ないふりをしてきたんだ。つらく生きる必要なんてない。だがなぜだろう。ここで目を背けたらいけない気がする…。高校生時代ならいったん外に出ていたな。
翔子の置いていった2000円で支払いを済ませ、外へ出た。もう16時、日も傾いてきた。人がさっきより多い気がする。僕は予備校へ向かう川沿いの道を歩いていた。影は河川側に伸びて涼しい。この気温も散歩にはちょうどいいのかもしれない。つぼみの多くは未だに硬いままだが、桜の花びらがちらほらとみられる。その時ポケットのスマホが振動した。連絡主は翔子…、少しためらいつつ内容を開くと、御心酒造の建物を中心に赤丸のしてあるマップのスクショと「やつを見つけた、先に向かって探しとく。」とのこと。ふつーにやだ。公園のベンチに腰を掛ける。鳩がぽっぽと足元へ寄ってきている、誰かが餌付けしているのだろうか。禁止なんだけどな。
うつむく視界に一人の足が映りこむ。誰だろうと見上げると、130cmくらいの腰が少し曲がったおばあちゃんが目の前に立ち、細い目をこちらに向けていた。
「その陽を逃す出ないぞ、器よ。」その声にはよぼよぼながらも、重圧があった。陽?器?なんだそれ。訳の分からないやばめのおばさんならむこうに行ってほしい。だが、その老婆は続けて言った。
「そなた、覗かれたのじゃな。奴はお前の影を覗いた。今は大丈夫じゃろうが、後々そのあふれ出る感情は抑えられなくなり、そなたは塵と化すじゃろう。あぁ、主が言うておる。あの橙をつかむ手がそなたにはある、と。そのおなごの下へ向かうがよい。大丈夫じゃ、そなたはおなごの力になれる。自分を信じなさい。」
「自分を信じなさい」だ?訳が分からない、宗教の勧誘じゃないのか?何が目的なのかさっぱりわからん。…いや待て、なんでこのおばあちゃん、僕の連絡している相手が『女』だと気づいたんだ?それにこの現実離れした現状を的確に当ててくるんだ?不可思議が加速していく事態についていけないぞ。
おばあちゃんが僕から去っていった。バッグからさっき買ったお茶を取り出そうとすると、ミルクティーも出てきた。完ッ全に忘れてた。もうぬるくて飲めないか…いや行けるか?そんなことを思っているとバッグから紙が一枚、Colorfulで証拠からもらった紙が裏向きに落ちた。そこには「待っているぞ。」の一言。
…行くか。もしかしたら、もしかしなくても、逃げられないんだ、この運命からは。「覚悟を決めなさい。」という母親から何べんも言われたことを思い出した。あの時は高校生で、「覚悟」ってなんだよって思ってたな。今でもわからないんだけど、多分こんな感じなんだろう。別に探偵じゃないが、おばあちゃんが言っていた『主』も気になるし、やらなかった後悔はやる後悔よりつらいはずだ。
僕はいろんな言葉を自分自身に言い聞かせた。そんなときにまた連絡が来た。
「場所がわかった。」と。
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