KAITO

カビこんにゃく

文字の大きさ
4 / 12

邂逅 追跡と決断

しおりを挟む
 さて、腹も膨れた。あの男、名前なんて言ったっけな。なんとかじだった気がする…。青井…まぁいいや。探すか、例の男。
Colorfulから出てまず情報集め、もしかしたら同じ感性を持つやつがSNSで投稿をしているかもしれない。そうだな、「スーツ」「猫背」…いやこれじゃないな。整体の広告が多く流れてくる。「黒い顔」「スーツ」…これも違う。「きもい」「スーツ」…あぁもう違う。主婦の愚痴とかマジでどうでもいい。

SNSでの人探しは時間がかかる上に正確性やキーワードを絞るのが難しい。さっき追っていけばよかった。時間は16:15。帰宅途中の学生や社会人が増え、KAMUの広間の人通りもよりいっそ増えている。広間の上のスクリーンでは鹿島の魅力を伝える広告があるはずだが、今はニュースというか、特集をしている。スマホばかり触っていたから気づかなかったがこういうの流れているのかこの時間は。その特集はそうやら御心酒造という会社の特集のため、インタビューしているらしい。

そこにいた。アナウンサーの奥で、車線を隔てた反対の歩道をぬらりぬらりと歩いている。あの時見たスーツ、猫背!それは間違いなくやつさ。
動揺して出てきた脳内の赤い男を振り払い、名物おじさんに聞いた。「おい、あのニュースいつ撮られているかわかるか!!」名物おじさんは困惑して「え、えぇ?書いちょっど、『LIVE』ち。」と一言。
ハッとした。左上に確かに赤文字で『LIVE』と書いてある。そこに行けばやつはいる。あたしは御心酒造の建物まで急いだ。ちくしょう荷物置いてくるんだった、邪魔だ。大体そこまで走って7分。その間にやつがそこまで遠くに行かなければいいが。行きながらあいつに場所を送っておこう。来るか来ないかはあいつ次第だ。ひとまず今は急げあたし!


―一方、少し時間を巻き戻して青木雄二。彼はトイレから出て少し水を飲み、席で腕組をしながら考えていた。これからどうすべきなのか。あの男を追跡するかこのまま逃げるか。―


彼女は女子高生なんだろ?どうしてそこまでする。人のためにどうしてそこまでできる?自分の進路もあるのだろうに。…いや今はそこではない。問題はあの男だ。彼に触れた瞬間のあの感じ…久しぶりにあふれた、蓋をしたくなるような感情。過去の出来事を鮮明に思い出させてくれやがった。それでも今を楽しむために蓋をして、見ないふりをしてきたんだ。つらく生きる必要なんてない。だがなぜだろう。ここで目を背けたらいけない気がする…。高校生時代ならいったん外に出ていたな。

翔子の置いていった2000円で支払いを済ませ、外へ出た。もう16時、日も傾いてきた。人がさっきより多い気がする。僕は予備校へ向かう川沿いの道を歩いていた。影は河川側に伸びて涼しい。この気温も散歩にはちょうどいいのかもしれない。つぼみの多くは未だに硬いままだが、桜の花びらがちらほらとみられる。その時ポケットのスマホが振動した。連絡主は翔子…、少しためらいつつ内容を開くと、御心酒造の建物を中心に赤丸のしてあるマップのスクショと「やつを見つけた、先に向かって探しとく。」とのこと。ふつーにやだ。公園のベンチに腰を掛ける。鳩がぽっぽと足元へ寄ってきている、誰かが餌付けしているのだろうか。禁止なんだけどな。


うつむく視界に一人の足が映りこむ。誰だろうと見上げると、130cmくらいの腰が少し曲がったおばあちゃんが目の前に立ち、細い目をこちらに向けていた。
「その陽を逃す出ないぞ、器よ。」その声にはよぼよぼながらも、重圧があった。陽?器?なんだそれ。訳の分からないやばめのおばさんならむこうに行ってほしい。だが、その老婆は続けて言った。
「そなた、覗かれたのじゃな。奴はお前の影を覗いた。今は大丈夫じゃろうが、後々そのあふれ出る感情は抑えられなくなり、そなたは塵と化すじゃろう。あぁ、主が言うておる。あの橙をつかむ手がそなたにはある、と。そのおなごの下へ向かうがよい。大丈夫じゃ、そなたはおなごの力になれる。自分を信じなさい。」


「自分を信じなさい」だ?訳が分からない、宗教の勧誘じゃないのか?何が目的なのかさっぱりわからん。…いや待て、なんでこのおばあちゃん、僕の連絡している相手が『女』だと気づいたんだ?それにこの現実離れした現状を的確に当ててくるんだ?不可思議が加速していく事態についていけないぞ。

おばあちゃんが僕から去っていった。バッグからさっき買ったお茶を取り出そうとすると、ミルクティーも出てきた。完ッ全に忘れてた。もうぬるくて飲めないか…いや行けるか?そんなことを思っているとバッグから紙が一枚、Colorfulで証拠からもらった紙が裏向きに落ちた。そこには「待っているぞ。」の一言。


…行くか。もしかしたら、もしかしなくても、逃げられないんだ、この運命からは。「覚悟を決めなさい。」という母親から何べんも言われたことを思い出した。あの時は高校生で、「覚悟」ってなんだよって思ってたな。今でもわからないんだけど、多分こんな感じなんだろう。別に探偵じゃないが、おばあちゃんが言っていた『主』も気になるし、やらなかった後悔はやる後悔よりつらいはずだ。

僕はいろんな言葉を自分自身に言い聞かせた。そんなときにまた連絡が来た。
「場所がわかった。」と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

処理中です...