KAITO

カビこんにゃく

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邂逅 海月

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 しまった、やらかした…よりにもよって戦えないこいつに火球がもろ当たってしまった。待てよ、考えろ絶対に弱点があるんだ間違いない。

 冷静に保とうとしても、やはり弱いやつを守りながら戦うのは難しい。パニックで逃げ回ってくれた方が、攪乱できるんだろうが、うずくまって唸ってるだけだ。そして、こいつをかばい続ければ、あたしだって死ぬ。まだほかのやつはゾンビみたいに起き上がってくる。これ…どうすんだよ…ッ!

 ―レイン坊、もとい雨咲翔子は高い戦闘技能を持つが、多勢に無勢。しかも相手は倒してもよみがえりキリがない。どうしようもない状況にいら立ちが募っているのか、唇を噛み切って血が流れている。―


 あぁ、優子…あんたこんなときどうする?って妹に聞くなんて、ふがいない姉貴だよな。もうだめなのか…。なんだろう、今までの楽しかった記憶がよみがえってる。走馬灯かな…。あぁ、そのゲームはまだ刺激が強いゾンビゲーム。優子あんたにはまだ早いよ。

 火球が飛んできている。目の前の事象がゆっくりに感じる。記憶の中の優子。あんたあの時、あたしにゲームを教えてくれてたっけ。
「姉ちゃん下手!あたしがやるから見てて!」
 あたしよりゲームの上手な優子はアサルトライフルを持つ主人公を操り、敵をばっさばっさと倒していく。とても冷静だった。この年齢で冷静に銃を撃って敵を殺してるの怖い。しかも全部頭部狙い…。
「良い?姉ちゃん、ゾンビは頭を狙えば一発なの。そこが弱点だし、一発で倒せて球も節約できるの。まぁまずは狙いをつけられるようにすることね。それと基本的な操作、立ち回り…。」

 …ゲームの時にはほんっと可愛げがなかったよな、優子。
「ちなみにこのゲーム、ゾンビゴーストが人に取り付いているから、ちゃんと取り払ってあげるってコンセプトらしいよ。」
そんなとこまで見てやるのか…優子。
今あたしもゾンビと戦ってるよ、かっこ悪くてごめんね優子。
「そうやってすぐあきらめる。もっとかっこ悪いよ。」


 ゾンビ…ヘッドショット…
あたしは目を見開いた。火球は目前まで迫っていたが、顔の両端に逸れ、壁にぶつかって鎮火した。そうだ、頭部の太陽!こいつらは感染する!そして『取り除く』方法をあたしは持っている!

「おいぃぃッ翔子ォォォッ!!こいつを!こいつをなんとかしろォォ!!!!」
気づくと雄二はあたしの後ろから、ボスの後ろにいる。そしてあいつはボスを羽交い絞めにして動きを制限している。それ以上にヘイトを買っているため、こっちに攻撃が飛んでこない。あいつ、火球を食らってでも止めていやがる。

「訂正する、お前は『弱く』なんかない。そしてそのガッツ、見事だ!」
「うるせぇッ!早kあっつッ!!はよしろ!」

 父さん、あたしの成長を、優子、あたしのかっこいいとこを…見ててくれよ。



 
 翔子は、1つ大きな深呼吸をし、傘をさした。そして一言。

「…廻船詩曲、海月。」


 ―空間が凪いだ、雨音ではない、水の滴る音がひとつ、またひとつと聞こえてくる。そして地面から、壁から、天井から、どこからともなくクラゲが現れた。片手に乗っかるほどのかわいい個体から、人の頭一つ分のサイズはあるだろう個体がうようよと漂っている。クラゲはふわふわと空中を泳ぎ、雄二やボス、その他の者6名の頭上へと移動した。―


 そして頭に触手を絡めて上へ上へと昇っていく。
「うわぁぁやめろ痛い!」
痛がる雄二の頭から太陽がスポッと抜けていく。他の者も次々と抜けていく。太陽が抜けた者はみなしぼむ風船のように倒れていく。
一番時間がかかったのはボスだ。なかなか太陽が抜けず、小さいクラゲたちも手伝うように絡みだした。
「俺は!この太陽を失うわけにはいかない!!」
じたばたと暴れる男の腕や脚にまで絡みだすクラゲ。半透明なクラゲの肌越しにわかる、彼の悔しそうな口は怒りや不快感をそのまま表すようだった。そしてついに、彼の頭から、太陽が抜けそうである。
「まだ、俺の子供たちがどこかに潜伏している!貴様らにすべて対処できるかなぁ!」
不敵な笑いを最後に見せ、怒号と同時にクラゲに取り込まれる太陽。
「…そのまま海へ帰ってくれ。それとそこのクラゲ、ちょっと来い。」
耳打ちをされた固体を含め、翔子の指示にそのまま従うクラゲたち。窓から出ていくクラゲたちは雨に打たれてみずみずしく、夕日に照らされて美しく漂う。


 倒れている雄二にビンタを食らわす翔子。
「起きんかい。」
「痛…はっ!どうなった。結局あいつは倒せたのか?」
「あぁ、倒せたさ。とりあえずここから出るぞ。警備員も多分戻ってるはずだ、太陽がいないから今頃さむがってんじゃねぇかな。」
「お、おう。あ、あとこの水あげます。多分飲んでないですよね。」
「え、あ、ありがとう。あと…敬語じゃなくていい。別に戦闘じゃなくても。なんか、よくわかんねぇけど、こっぱずかしいわ。」

 現場を去る二人、安堵なのか疲労なのか、彼らの表情は先ほどよりも緩んでいる。エレベーターで降りた二人。雄二は翔子の肩を借り、ビル一階へ。
ビル一階では警察やその関係者、野次馬や記者などがずらりといた。がしかし、翔子たちをみて驚愕。ガラスが割れるような騒動に若い二人が先に出てくるのだから。
「君たち!なんでここにいるだ!」一人の警察官が詰め寄ってきた。彼らの疲れた体にはこたえる圧力と音量である。
「あぁ、待ってくれ。こいつらを入れたのは俺だ。こいつらが解決するって言って悪いやつをぶっ飛ばしてくれたんだよな。」
割って入ったのは自販機横で休んでいた警備員。翔子たちの方向を向き、誰にもバレないように、目くばせをした。
「ここは俺が事情を説明するから、ぼろぼろの彼らは帰してやってくれないか?それに現場検証や調べが足りない状態で社員じゃなく彼らを尋問するのか?どうせ疲れているから、こたえられないだろう。今は帰してやろうじゃないか。」


 警備員は警察を説得し、二人は病院へ搬送された。翔子は軽傷で済んだものの、雄二は火球をゼロ距離で何発も食らっているため、かなり肉体にダメージがあった。二人は病院で治療を受けた後、そのまま帰ることを許された。その日はそのまま、話す気力もなかったため、解散した。


 二日後、雄二は翔子からの連絡を受け、Colorfulに訪れた。
「んで、何の用なんだ。」
「あの会社、相当ブラックだったらしい。お前より早く来て中に入ったんだけど、あの社員らの怒号は主に会社やそこに属している者への不満だった。合ってるかは知らんが、お前が来る前にそこの部長が来てた。部長も大変そうだったが、大変だからと言ってそのストレスを社員にぶつけるのも間違っているとあたしは思う。」
「え、待って。話が急でわけわかんないんだけど。」


 水を一口飲み、翔子が冷静に話し始める。
「まず、あの会社の部長含め社員はみな問題を持っているんだと思う。女はしっかりスーツを着ないのにメイクばかり気にしている、老人は格下げされたのにいつまでも上司気取り、何人かはタバコ休憩と称して全然仕事しない。そして部長はそんな部署の人に嫌気がさしてセクハラまがいなことをしていたんだ。」
「数え役満だな。でも推測なんだろ?それ。」
「いや、それが昨日確信に変わった。というのもあたしのクラゲが情報を取ってきてくれてな。監視カメラの映像をあらかた取ってきてくれたんだ。決定的な証拠もある。あとはこの情報をどうするかだ。メディアに売ってもいいし、あの会社の上の方へ直接言いつけてもいい。」
そういって彼女はバッグから白のUSBメモリを取り出した。
「翔子さん、とても僕を薄情だなんだと言ってたけど、あなたも存外心無いよ。」


 そんな会話をしていると、二人の後ろから聞いたことのある声がした。
「その情報、どこで手に入れたかは知らんが、押収させてもらうぞ。」
警備員だった。今日は非番なのか、迷彩柄のTシャツに黒の長ズボンで、雄二たちの席に座ってきた。
「あのな、ああいう会社は部外者が口を出すもんじゃない。俺も正直知ってはいたが、言えば『部外者は黙っててくれ』の一点張りだ。俺が思うに、正義感で突っ込んだところで自分が不快になるだけなんだよ、ああいうヘドロ鍋のようなところはな。」
翔子と雄二は顔を合わせ、少ししょげたがその情報の入ったUSBを警備員に渡した。
「じゃあこれ、あなたに渡しますよ。あたしたちが取ってきたとっておきの切り札。」
翔子のくそデカため息が彼女の周りを取り巻く雰囲気を暗くする
「…おいおいその落ち込み具合、金にするつもりだったろ。」

 ギクッとする翔子にはっはっはと豪快に笑う警備員。
「しかし、君たちのおかげで変な事件が解決したのは事実だ。あの暑さの中、俺は動けずにいた。あまり聞かないでおくが、俺には解決できないことを成し遂げたのだろ?正直にUSBを渡してくれたこともある。今日はたんと食え!」

 しょぼんとしていた翔子の顔は、一気に晴れた。雄二も目の輝きが違う。もう、きらっきらである。翔子はスタミナ丼、雄二はハンバーグ定食、警備員はかつ丼大盛を頼み、和気あいあい話しながら食事を楽しむ。
「そういやおっさん、名前は?」
「あぁ、俺の名前か?俺は柁城 豪次郎(だじょう ごうじろう)だ…ってこてから関りあるか?」
「まぁ、いいんじゃない?こう、関係があっても。あたしは雨咲翔子。」
「僕は青井雄二です。」
「翔子に雄二、だな。覚えたぞ。」

 三人はそんな話をしながら完食し、Colorfulを後にした。豪次郎はこの後トレーニングをするらしく、ふたりのもとを去っていく。
「人の金で食べる飯は最高にうまい。」
「あ、そういや僕翔子さんにパフェ代わたs「あぁ、いいのいいの!あの時ちゃんと逃げずに来てくれたし、お前も体張ってくれたからな…ありがとう。」

 翔子は微笑みながら、でもなんだか気恥ずかしそうに感謝していた。
「じゃあ、次は何おごってもらおうかな。」
「…あのな、一応年下なんだけど?本来ならおごってもらってもいいんだけど?」
傘の先端が雄二の首元に向く。
「じ、冗談だってば。まぁ、嫌なこと思い出したけど、面白い冒険ができた。またいつか会おう。」
「…おう、その時はパフェおごれ、ちょっと高えやつ。」

雄二は大きくうなずいた。二人は途中まで帰り道が同じだったが、交差点で別々の方向へ別れ、各々の午後を過ごした。



 僕は家へ帰りつき、ベッドに横たわった。血糖値スパイクで気絶しそうになったが、せっかくの休みの日をまだ寝るわけにはいかない。
ふと右手を見た。中学生の時より大きくなっていることに成長を感じ、その右手を太陽に向ける。その時に思い出した。あの老婆のことを。


「その陽を逃す出ないぞ、器よ。」
「今は大丈夫じゃろうが、後々そのあふれ出る感情は抑えられなくなり、そなたは塵と化すじゃろう。あぁ、主が言うておる。あの橙をつかむ手がそなたにはある、と。」


…まだ何か、終わっていない気がする。少し不安だ。少しでも体力をつけておくか。
僕はこの日から、ランニングを行うことにした。趣味が一つ増えたからなのか、久しぶりのランニングだからなのか、少し気分がいい。またいつか、その時が来たら、戦えるようにしないとな。






tips ; 鹿児島県には柁城小学校という、城跡をそのまま小学校にしたところがあるぞ!作者は、そこの卒業生です。白を基調とした校舎、校内を取り囲む壁には趣があり、堂々たる学び舎ですぞ。
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