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第二章
7話 襲撃
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「許さない……? ふっ……はははっ!
なんで可愛いんだ、アメリア。
君のそんな目が見られるなんて、震えるくらい嬉しいよ」
この男は――まともじゃない。
前世ではいつも礼儀正しく、アメリア王女に優しく言葉をかけていた。
だが、あれはすべて演技。自分のものにするためだけの。
「私がいなくなったことは、もう王宮で知れ渡っているでしょう。港まで行けば、逃げるチャンスだって増える。あなたの好きにできると思う?」
「そうだねえ……きっと大騒動になっているだろうね。だけど、もし君が結婚したくなくて逃げたのだとしたら? あの、君が大好きな王は、少し時間をあげようとするかもよ」
「そんなことありえないわ! ヴァルクだって、探してくれるはずよ!」
「……ヴァルク……あんな野蛮人の何がいい?!」
怒号が響き、アレクサンダーの手がアメリアの腕を掴んだ。
爪が細い手首に食い込み、痛みで涙がにじむ。
「君があいつを選んだ時、本当に殺してやりたかったよ……。君はあいつがどんな人間か知らないんだ!」
「あなたと比べたらヴァルクは聖人だわ!生きるために戦う彼と、己の欲のために愚かな真似をするあなたと比べないで!!」
アレクサンダーの顔が歪んだ。
次の瞬間、男の手がアメリアの顔を押さえつけた。
必死にもがいても、さらに力は強くなる。
「僕はね、あいつと共に戦場に出たことがあるんだ。ロキアとユーラシアが協定を結んだ後、納得しない領主たちを抑えるために、両国の軍でそこに向かった。
あいつの作戦で領主たちは一網打尽。抵抗をやめない者は躊躇なく処刑した。首を並べて、誰もが見える場所に晒したんだ。」
この男も、欲のために人を犠牲にしてきた。
それなのにヴァルクを“野蛮人”と罵るなど、あまりに滑稽だった。
「あなたとは比べ物にならないほどの功績を残したでしょうね。
いつまでも争いを選ぶ領主を一掃したんだから。」
その瞬間、アレクサンダーの目がぎらりと光り――視界が大きく揺れた。
鈍い痛みとともに、意識が落ちていった。
***
――揺れている。
体の芯を突き上げるような振動で、意識が引き戻された。
目を開けると、馬車の中。板の隙間から光が差し込み、温かい陽が射していた。
もう夜は明け、昼に近い。どれほど眠っていたのか分からない。
隣では、アレクサンダーが膝を抱え、何かを呟いていた。
「……君が悪いんだ……僕を拒んだから……」
かすれた声。
それが繰り返されるたびに、背筋が凍った。
気づかれぬように、アメリアは自分の髪を一本抜き、
指先で細く丸めて、板の隙間に落とした。
――誰かが見つけてくれるかもしれない。
それだけが、唯一の抵抗だった。
時間の感覚が消えるほどに、馬車は止まらなかった。
喉は乾き、唇はひび割れ、頭がぼんやりと霞む。
そのとき――
ドンッ!!
車体が大きく跳ねた。
積まれた荷物が床に散らばる。
「な、何だ?!」
アレクサンダーが立ち上がり、小窓を開けようとした。
外からは怒鳴り声と蹄の音、そして――狼の遠吠え。
「くそっ、なんだこいつらっ!」
従者の悲鳴と同時に、馬車の外で爆ぜるような音が響いた。
車輪が外れ、馬車が激しく傾ぐ。
「きゃっ!」
身体が投げ出され、床に叩きつけられる。
息が詰まり、視界がぐるぐると回る。
(襲撃……誰が……?)
馬の悲鳴、軋む音、土煙。
そして――馬車が横転した。
***
アレクサンダーの呻き声。
開かれた戸の向こうに、逆光を背負った影が現れた。
「殿下!! お怪我ありませんか?!」
その声に、アメリアの心臓が跳ねる。
ノルディアで出会った、あの女性――。
「……シンシア……?」
金の装飾を施した鎧が陽光を反射していた。
氷狼騎士団第二部隊隊長。
山の民を従える巫女。
その彼女が、なぜここに――?
「殿下、良かった! すぐに助けます!」
「……どうして……?」
震える声で問うと、シンシアは短く息を吐いた。
「立てますか? こちらへ!」
アレクサンダーが剣を抜く。血が滲む刃が光り、狂気に満ちた目がシンシアを射抜いた。
「邪魔をするな! 彼女は僕のものだ!!」
「チッ……!!」
灰色の狼が飛びかかる。
鋭い牙がアレクサンダーの腕を掠めた。
「うっ……!」
痛みに顔を歪めながら、アレクサンダーはアメリアを捕らえ、腕を首に巻き付ける。
「殿下っ!!」
シンシアの叫び。
狼たちは一斉に動きを止めた。
「お前たちが近づいたら――アメリアが首だけになるぞ。」
アレクサンダーの声に、シンシアは無言のまま立ち尽くす。
「どけっ!!」
彼女はゆっくりと道を開けた。
(どうして……? あなたなら、この男とも戦えるはずでしょ……)
絶望が喉を締めつけた。
――お願い。
この男を、殺して。
どんな怪我を負っても構わない。
ただ、この地獄から逃れたかった。
けれど、シンシアは静かに剣を置いた。
狼が唸りを上げる中、アレクサンダーはアメリアを引きずり出す。
周囲には倒れた二人の男。
そして、その奥に立つ見知らぬ赤毛の男。
(……助けて……お願い……)
縋るようにシンシアを見る。
だが、彼女は表情ひとつ変えず、ただ見つめていた。
どうして……?
助けに来てくれたんじゃないの……?
希望が崩れ落ち、アメリアは再び、暗い森の奥へと引きずられていった――。
なんで可愛いんだ、アメリア。
君のそんな目が見られるなんて、震えるくらい嬉しいよ」
この男は――まともじゃない。
前世ではいつも礼儀正しく、アメリア王女に優しく言葉をかけていた。
だが、あれはすべて演技。自分のものにするためだけの。
「私がいなくなったことは、もう王宮で知れ渡っているでしょう。港まで行けば、逃げるチャンスだって増える。あなたの好きにできると思う?」
「そうだねえ……きっと大騒動になっているだろうね。だけど、もし君が結婚したくなくて逃げたのだとしたら? あの、君が大好きな王は、少し時間をあげようとするかもよ」
「そんなことありえないわ! ヴァルクだって、探してくれるはずよ!」
「……ヴァルク……あんな野蛮人の何がいい?!」
怒号が響き、アレクサンダーの手がアメリアの腕を掴んだ。
爪が細い手首に食い込み、痛みで涙がにじむ。
「君があいつを選んだ時、本当に殺してやりたかったよ……。君はあいつがどんな人間か知らないんだ!」
「あなたと比べたらヴァルクは聖人だわ!生きるために戦う彼と、己の欲のために愚かな真似をするあなたと比べないで!!」
アレクサンダーの顔が歪んだ。
次の瞬間、男の手がアメリアの顔を押さえつけた。
必死にもがいても、さらに力は強くなる。
「僕はね、あいつと共に戦場に出たことがあるんだ。ロキアとユーラシアが協定を結んだ後、納得しない領主たちを抑えるために、両国の軍でそこに向かった。
あいつの作戦で領主たちは一網打尽。抵抗をやめない者は躊躇なく処刑した。首を並べて、誰もが見える場所に晒したんだ。」
この男も、欲のために人を犠牲にしてきた。
それなのにヴァルクを“野蛮人”と罵るなど、あまりに滑稽だった。
「あなたとは比べ物にならないほどの功績を残したでしょうね。
いつまでも争いを選ぶ領主を一掃したんだから。」
その瞬間、アレクサンダーの目がぎらりと光り――視界が大きく揺れた。
鈍い痛みとともに、意識が落ちていった。
***
――揺れている。
体の芯を突き上げるような振動で、意識が引き戻された。
目を開けると、馬車の中。板の隙間から光が差し込み、温かい陽が射していた。
もう夜は明け、昼に近い。どれほど眠っていたのか分からない。
隣では、アレクサンダーが膝を抱え、何かを呟いていた。
「……君が悪いんだ……僕を拒んだから……」
かすれた声。
それが繰り返されるたびに、背筋が凍った。
気づかれぬように、アメリアは自分の髪を一本抜き、
指先で細く丸めて、板の隙間に落とした。
――誰かが見つけてくれるかもしれない。
それだけが、唯一の抵抗だった。
時間の感覚が消えるほどに、馬車は止まらなかった。
喉は乾き、唇はひび割れ、頭がぼんやりと霞む。
そのとき――
ドンッ!!
車体が大きく跳ねた。
積まれた荷物が床に散らばる。
「な、何だ?!」
アレクサンダーが立ち上がり、小窓を開けようとした。
外からは怒鳴り声と蹄の音、そして――狼の遠吠え。
「くそっ、なんだこいつらっ!」
従者の悲鳴と同時に、馬車の外で爆ぜるような音が響いた。
車輪が外れ、馬車が激しく傾ぐ。
「きゃっ!」
身体が投げ出され、床に叩きつけられる。
息が詰まり、視界がぐるぐると回る。
(襲撃……誰が……?)
馬の悲鳴、軋む音、土煙。
そして――馬車が横転した。
***
アレクサンダーの呻き声。
開かれた戸の向こうに、逆光を背負った影が現れた。
「殿下!! お怪我ありませんか?!」
その声に、アメリアの心臓が跳ねる。
ノルディアで出会った、あの女性――。
「……シンシア……?」
金の装飾を施した鎧が陽光を反射していた。
氷狼騎士団第二部隊隊長。
山の民を従える巫女。
その彼女が、なぜここに――?
「殿下、良かった! すぐに助けます!」
「……どうして……?」
震える声で問うと、シンシアは短く息を吐いた。
「立てますか? こちらへ!」
アレクサンダーが剣を抜く。血が滲む刃が光り、狂気に満ちた目がシンシアを射抜いた。
「邪魔をするな! 彼女は僕のものだ!!」
「チッ……!!」
灰色の狼が飛びかかる。
鋭い牙がアレクサンダーの腕を掠めた。
「うっ……!」
痛みに顔を歪めながら、アレクサンダーはアメリアを捕らえ、腕を首に巻き付ける。
「殿下っ!!」
シンシアの叫び。
狼たちは一斉に動きを止めた。
「お前たちが近づいたら――アメリアが首だけになるぞ。」
アレクサンダーの声に、シンシアは無言のまま立ち尽くす。
「どけっ!!」
彼女はゆっくりと道を開けた。
(どうして……? あなたなら、この男とも戦えるはずでしょ……)
絶望が喉を締めつけた。
――お願い。
この男を、殺して。
どんな怪我を負っても構わない。
ただ、この地獄から逃れたかった。
けれど、シンシアは静かに剣を置いた。
狼が唸りを上げる中、アレクサンダーはアメリアを引きずり出す。
周囲には倒れた二人の男。
そして、その奥に立つ見知らぬ赤毛の男。
(……助けて……お願い……)
縋るようにシンシアを見る。
だが、彼女は表情ひとつ変えず、ただ見つめていた。
どうして……?
助けに来てくれたんじゃないの……?
希望が崩れ落ち、アメリアは再び、暗い森の奥へと引きずられていった――。
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