79 / 117
第二章
38話 春、幸せのはじまり
しおりを挟む
冬が終わり、王都に温かな風が吹き始める頃――
春の訪れとともに、アメリア王女とヴァルク・ストーン伯爵の結婚式が催された。
結婚式は三日間にわたって行われ、各地の諸侯や外国の大使、さらには多くの国民までもが王都へ押し寄せ、それはまさに盛大なものだった。
そして最終日の今日。
ヴァルクはすでに限界を迎えていた。
「大丈夫?」
「……これが大丈夫に見えるか?」
連日続くパーティに、ヴァルクは完全に参っていた。
着飾ることも、愛想笑いも、これほど長い期間強いられたことはなかったからだ。
「で、でも……とても素敵でございますわ。
今日の御衣装なんて、まるで王子様のようです!」
シーリーンが励ますように声をかけると、どうやら逆効果だったらしく、ヴァルクはがくりと肩を落とした。
「これが最終日なんだから、頑張りましょう」
「……今日が一番きつい……」
今日は、街中を馬車で巡るパレードの後、城へ戻り、王から正式に結婚の許可を拝命する予定だ。
たしかダリオンの結婚式の時は、群衆が押し寄せ、城を出てから戻るまでに三時間はかかっていた。
あの時よりも人が多く感じると伝えた時の、ヴァルクの表情は、思わず笑ってしまうほど嫌そうだった。
「アメリアー! ヴァルク! 元気か?」
二人のもとへ、正騎士姿のシンシアとジオが現れる。
「まあ! シンシアもジオも、とても素敵だわ!」
「アメリアは、今日もよく似合っているな」
シンシアはアメリアの姿を見て笑った。
この三日間、何度も行われた衣装替えを思い出したのだろう。
婚約の儀とは打って変わり、真っ白なシルクのドレスに、胸元では大きなシンハライトのネックレスが輝いている。
「最終日は白と決まっているのよ」
「……だからお前も、そんな軟弱そうな格好なのか」
ジオのからかうような言い方に、ヴァルクは苛立った様子で睨みつけた。
「あら、素敵でしょう?
ヴァルクは騎士だから、騎士服をイメージしているのよ。
今日のジオも似合っているわ」
「お前だって、まるで服を着せられた狼みたいじゃないか。
なんで騎士授与もされていないお前が、そんな格好を――」
「それがさ、パレードの護衛をするなら、この格好をしろって言われちゃってさ。
どうにか着せたんだから、余計なこと言うなよ……」
ヴァルクとジオの応酬を見て、シンシアが慌てて割って入る。
「ふふっ。あなたたちが護衛につくなら、安心ね」
コンコン。
ノックの音とともに扉から顔を出したのは、マリアとダリオンだった。
「アメリア! 今日もとても素敵ね!」
「マリアお姉様! ダリオンお兄様も!
どうしたのですか?」
シンシアとジオは敬礼し、部屋を出ていく。
マリアは嬉しそうに、アメリアたちの前に腰を下ろした。
「忙しい時にごめんなさい。
あなたたちが、明日にはノルディアへ出発すると聞いて」
「ああ、そうなの。
実はノルディアでも、お祝いの準備がされているようでして……」
「だから、マリアがパレードが始まる前に知らせたいって、聞かなくてさ……」
「だって、この後がどれくらい大変か、あなたは知っているでしょう?」
「まあ……ね。でも、それより、ストーン伯爵は三年も待たされたんだ。
早く妹を連れて帰りたい気持ちの方が、僕はわかるな」
「なっ……こんな時に、変なこと言わないで!」
二人の口論は、どこか甘い雰囲気を含んでいた。
怪訝そうに見つめるヴァルクに気づき、アメリアは気遣うように話題を変える。
「それより……何を話したかったのですか?」
「そうそう! 実は……子どもができたんだ。
生まれるのは冬だから、春になったら会いに来てくれ!」
嬉しそうなダリオンの声に、マリアは優しく微笑んだ。
「ええっ、本当!?
良かった……良かったわね、マリア!」
「ええ」
マリアの幸せそうな表情に、アメリアも自然と微笑んだ。
「それはおめでとう」
「ありがとう。でも僕は、マリアと二人でも全然良かったんだけどね」
ヴァルクの祝福に、ダリオンはマリアを見つめながら、嘘偽りのない言葉を返す。
「もう……アメリアたちの前ですよ」
赤く染まった頬を隠すように、マリアは視線を逸らした。
(すっかり、この二人もおしどり夫婦に戻ったのね……)
アメリアは安堵するように、そっと息を吐いた。
「良かったわ……ここまで、いろいろあったから」
「ごめんなさいね。
アメリアには、テティのことでもたくさん迷惑をかけてしまって。
そのことも、実は話したいことがあるのだけれど……」
マリアとダリオンは顔を見合わせ、少し躊躇ったあと、もう一度こちらを見る。
「でも、それはこんな時に話すことでもないわね。
また機会があった時に話すわ」
「え? いいわよ。だって、今くらいしか時間がないんでしょう?」
「ううん、大したことじゃないの。
それこそ、春でもかまわないわ」
「そうそう。
この後は本当に息つく暇もないと思うけど、頑張れよ!」
二人はそう言うと立ち上がり、そそくさと部屋を後にした。
「ねえ、一体何があったのかしら?」
ヴァルクに声をかけると、「さあな」と短く返される。
「それより、パレードの警護の確認をしておきたい。
少しシンシアたちと話してくる」
(こんなときまで心配性なんだから)
去っていくヴァルクの背中を見つめていると、シーリーンがからかうように笑った。
「本当にアメリア様は、ヴァルク様がお好きでございますね。
これからずっとご一緒だというのに」
「い、嫌ね!
彼がそばにいるのが……珍しいだけよ。
二週間前に王都へ来てから、ずっと慌ただしかったし……」
けれど、たしかにこれからはずっと一緒だ。
明日にはノルディアへと出発し、新しい生活が始まる。
ふと、アメリアは大事なことを思い出した。
「あ、ねえ、シーリーン」
「はい?」
「もしかして……今日って……
私たちの、初夜になるのかしら?」
アメリアの言葉に、シーリーンは一瞬目を丸くし、
そして、みるみる顔色を失っていった。
「も……申し訳ございません!!!」
シーリーンが大きく頭を下げ、その声が部屋に響き渡った。
春の訪れとともに、アメリア王女とヴァルク・ストーン伯爵の結婚式が催された。
結婚式は三日間にわたって行われ、各地の諸侯や外国の大使、さらには多くの国民までもが王都へ押し寄せ、それはまさに盛大なものだった。
そして最終日の今日。
ヴァルクはすでに限界を迎えていた。
「大丈夫?」
「……これが大丈夫に見えるか?」
連日続くパーティに、ヴァルクは完全に参っていた。
着飾ることも、愛想笑いも、これほど長い期間強いられたことはなかったからだ。
「で、でも……とても素敵でございますわ。
今日の御衣装なんて、まるで王子様のようです!」
シーリーンが励ますように声をかけると、どうやら逆効果だったらしく、ヴァルクはがくりと肩を落とした。
「これが最終日なんだから、頑張りましょう」
「……今日が一番きつい……」
今日は、街中を馬車で巡るパレードの後、城へ戻り、王から正式に結婚の許可を拝命する予定だ。
たしかダリオンの結婚式の時は、群衆が押し寄せ、城を出てから戻るまでに三時間はかかっていた。
あの時よりも人が多く感じると伝えた時の、ヴァルクの表情は、思わず笑ってしまうほど嫌そうだった。
「アメリアー! ヴァルク! 元気か?」
二人のもとへ、正騎士姿のシンシアとジオが現れる。
「まあ! シンシアもジオも、とても素敵だわ!」
「アメリアは、今日もよく似合っているな」
シンシアはアメリアの姿を見て笑った。
この三日間、何度も行われた衣装替えを思い出したのだろう。
婚約の儀とは打って変わり、真っ白なシルクのドレスに、胸元では大きなシンハライトのネックレスが輝いている。
「最終日は白と決まっているのよ」
「……だからお前も、そんな軟弱そうな格好なのか」
ジオのからかうような言い方に、ヴァルクは苛立った様子で睨みつけた。
「あら、素敵でしょう?
ヴァルクは騎士だから、騎士服をイメージしているのよ。
今日のジオも似合っているわ」
「お前だって、まるで服を着せられた狼みたいじゃないか。
なんで騎士授与もされていないお前が、そんな格好を――」
「それがさ、パレードの護衛をするなら、この格好をしろって言われちゃってさ。
どうにか着せたんだから、余計なこと言うなよ……」
ヴァルクとジオの応酬を見て、シンシアが慌てて割って入る。
「ふふっ。あなたたちが護衛につくなら、安心ね」
コンコン。
ノックの音とともに扉から顔を出したのは、マリアとダリオンだった。
「アメリア! 今日もとても素敵ね!」
「マリアお姉様! ダリオンお兄様も!
どうしたのですか?」
シンシアとジオは敬礼し、部屋を出ていく。
マリアは嬉しそうに、アメリアたちの前に腰を下ろした。
「忙しい時にごめんなさい。
あなたたちが、明日にはノルディアへ出発すると聞いて」
「ああ、そうなの。
実はノルディアでも、お祝いの準備がされているようでして……」
「だから、マリアがパレードが始まる前に知らせたいって、聞かなくてさ……」
「だって、この後がどれくらい大変か、あなたは知っているでしょう?」
「まあ……ね。でも、それより、ストーン伯爵は三年も待たされたんだ。
早く妹を連れて帰りたい気持ちの方が、僕はわかるな」
「なっ……こんな時に、変なこと言わないで!」
二人の口論は、どこか甘い雰囲気を含んでいた。
怪訝そうに見つめるヴァルクに気づき、アメリアは気遣うように話題を変える。
「それより……何を話したかったのですか?」
「そうそう! 実は……子どもができたんだ。
生まれるのは冬だから、春になったら会いに来てくれ!」
嬉しそうなダリオンの声に、マリアは優しく微笑んだ。
「ええっ、本当!?
良かった……良かったわね、マリア!」
「ええ」
マリアの幸せそうな表情に、アメリアも自然と微笑んだ。
「それはおめでとう」
「ありがとう。でも僕は、マリアと二人でも全然良かったんだけどね」
ヴァルクの祝福に、ダリオンはマリアを見つめながら、嘘偽りのない言葉を返す。
「もう……アメリアたちの前ですよ」
赤く染まった頬を隠すように、マリアは視線を逸らした。
(すっかり、この二人もおしどり夫婦に戻ったのね……)
アメリアは安堵するように、そっと息を吐いた。
「良かったわ……ここまで、いろいろあったから」
「ごめんなさいね。
アメリアには、テティのことでもたくさん迷惑をかけてしまって。
そのことも、実は話したいことがあるのだけれど……」
マリアとダリオンは顔を見合わせ、少し躊躇ったあと、もう一度こちらを見る。
「でも、それはこんな時に話すことでもないわね。
また機会があった時に話すわ」
「え? いいわよ。だって、今くらいしか時間がないんでしょう?」
「ううん、大したことじゃないの。
それこそ、春でもかまわないわ」
「そうそう。
この後は本当に息つく暇もないと思うけど、頑張れよ!」
二人はそう言うと立ち上がり、そそくさと部屋を後にした。
「ねえ、一体何があったのかしら?」
ヴァルクに声をかけると、「さあな」と短く返される。
「それより、パレードの警護の確認をしておきたい。
少しシンシアたちと話してくる」
(こんなときまで心配性なんだから)
去っていくヴァルクの背中を見つめていると、シーリーンがからかうように笑った。
「本当にアメリア様は、ヴァルク様がお好きでございますね。
これからずっとご一緒だというのに」
「い、嫌ね!
彼がそばにいるのが……珍しいだけよ。
二週間前に王都へ来てから、ずっと慌ただしかったし……」
けれど、たしかにこれからはずっと一緒だ。
明日にはノルディアへと出発し、新しい生活が始まる。
ふと、アメリアは大事なことを思い出した。
「あ、ねえ、シーリーン」
「はい?」
「もしかして……今日って……
私たちの、初夜になるのかしら?」
アメリアの言葉に、シーリーンは一瞬目を丸くし、
そして、みるみる顔色を失っていった。
「も……申し訳ございません!!!」
シーリーンが大きく頭を下げ、その声が部屋に響き渡った。
11
あなたにおすすめの小説
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる