【完結】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!

カナタカエデ

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第三章

1話 白銀の世界

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ノルディアでは秋は瞬く間に過ぎ去り、雪が降り積もる凍てつく冬がやってきた。
アメリアは、窓から差し込む雪の反射が強い光となった日差しに目を覚ました。

身体を起こそうとして、ようやく身動きできない状態だということに気づく。
背中から伝わる温かさにふと顔を上げると、そこにはすっかり見慣れたヴァルクの寝顔があった。

(夜中には戻ってこなかったのに、いつのまに……)

アメリアがそっとその腕を避け、ベッドから抜け出そうとした瞬間――
一瞬で、また暖かな毛布の中へ引きずり込まれた。

「もう、起きてるんでしょ!」

「どこに行くんだ?」

毛布の中で当然のように抱き寄せられると、ついその温もりに身を委ねてしまいそうになる。
けれど、今日は朝から予定があるのだ。

「今日は街外れの村まで出かける予定なんです。
騎士団に護衛を頼みましたから、わかっているでしょう?」

「はあ……わざわざ湖の反対側の村に、何の用があるんだ?」

呆れたように肩肘をつき、ヴァルクはアメリアを見下ろした。

「それも……説明しましたよ。
ダリオンとマリアの娘が生まれたから、お祝いにノルディアのものを贈りたいって」

「それなら街で買えばいいだろう」

「あの村では木彫りの工芸品を作っていて、とても繊細で丁寧なんです。
生まれる前に、赤子用の食器とおもちゃを依頼していたので、取りに行くんです」

「そうか……。
その護衛の役目をするのが俺だと言ったら、少しくらいベッドで過ごす時間を伸ばしてもいいと思わないか?」

驚いて見上げると、ヴァルクは答えがわかっているかのように笑っていた。

「……仕事を片付けて、時間を作ってくれたんですか?」

「ああ。久しぶりに遠乗りといこう」

「それなら、致し方ありませんわね」

アメリアはヴァルクの胸に潜り込み、背中に腕を回した。

こうしてヴァルクがノルディアにいる間は、結局、予定どおりに事が進むことはない。
それでも彼の望むままに動いてしまうのは、この時間が有限だとわかっているからだった。

***

城門の橋を渡ると、アメリアは毛皮のコートに身を包み、ヴァルクから贈られた馬に跨って勢いよく駆け出した。
そのすぐ後ろを、ヴァルクが追う。

「そんなに急がすな。雪が積もっている、脚を取られるぞ」

「わ、わかっています!
でもサーガはまだ子どもなので、扱いが難しいんです!」

ヴァルクから贈られたその馬は、まだ成長途中の白毛の雄馬だった。
雪を踏みしめるたび、落ち着きなく身じろぎする。

「……代わってやろうか?」

「だ、大丈夫です!」

「サーガ、いい子ね……落ち着いて行きましょう」

宥めるように首筋を優しく撫でると、くるりと数回その場を回り、サーガは落ち着いた様子で歩き出した。

「ほら、大丈夫でしょう?」

得意げに言うアメリアに、ヴァルクは眉を顰めつつも穏やかに頷く。

「無理はするな。雪道は慣れた馬でも危ない」

「……わかりました」

凍えてしまいそうな寒さに、駆けたいというサーガの気持ちも理解できたが、二人は落ち着いて村への道を進んだ。

やがて、日の暖かさで身体はすっかり温まり、エルレイム山と城が凍った湖に映る光景を眺めながら、他愛もない会話を楽しむことができた。

(もしかして……わかっていて出発を遅らせたのかしら)

ちらりとヴァルクを見ると、彼はようやく視界に入った村を見て、ほっとしたようにアメリアへ視線を向けた。

「もうすぐ着きそうだな。冷えただろう?
暖かいものでも食べようか」

「そうね。あの村で育てている山羊のチーズが、とても美味しいのよ。
パンにのせてもいいし、温かいスープにかけるのもおすすめよ」

「……ずいぶん詳しいな」

「え……ああ、まあ。領主の妻ですから」

(しまった……また前世の記憶を……)

気まずそうに目を逸らし、ヴァルクの視線から逃げる。

村に到着すると、入り口にはすでに人だかりができており、大袈裟な飾り付けまで施されていた。

「伯爵夫人! よくおいでくださいました~!」

駆け寄ってきた初老の男は、ヴァルクの姿に気づいて驚き、立ち止まる。

「はっ、伯爵様!!
これは……いらっしゃるとは……」

慌てて深々と頭を下げると、周囲の村人たちも一斉にそれに倣った。

「村長、久しぶりだな。調子はどうだ?」

「は、はい! お陰様で、この村にもよく人が立ち寄るようになりまして、宿屋も増え、活気づいております!」

「そうか、それは良かった。
今日は妻が贈り物を頼んだそうで取りに来たんだが、せっかくだから村を見て回ってもいいか?」

「はい、もちろんでございます!」

ヴァルクとアメリアは村人たちの手厚い歓迎を受け、食事まで振る舞われた。
その中には、アメリアが話していた山羊のチーズも、ワインとともに薄切りで用意されていた。

注文していた赤子の食器やおもちゃも無事に受け取ると、アメリアは一つひとつを確かめ、満足そうに微笑んだ。

「ずいぶん嬉しそうだな」

「はい。このオークの樹で作られたスプーンを見てください。
滑らかで、赤ちゃんの口にちょうどいいサイズでしょう?
こんな素敵な品を、私も使ってみたかっ……」

うっかり口にした、カリナだった頃の小さな願望に気づき、言葉が途切れる。
ヴァルクは気にした様子もなく、木製のスプーンをじっと見つめていた。

(もう……ノルディアに来てから、気が緩んでいるわ。気をつけないと)

前世でノルディアに逃れ、三人目を産んだときにも、この村の品は街に流通していなかった。
子どもたちが成長してからようやく手に入るようになり、初めてこの小さなスプーンを手にしたとき、心から美しいと思った。

知り合いが子どもを授かるたび、このスプーンに名前を焼き入れてもらい、贈った。
そのたびに思ったのだ――本当は、自分が使ってみたかったのだと。

村人たちに丁重に礼を述べ、再び雪道を戻る。
陽が傾き、オレンジ色の夕日に城が照らされるのを眺めていると、ふいにヴァルクが口を開いた。

「アメリア、春になったらダリオン殿たちに会いに王都へ行くのだろう」

「ええ。そのつもりよ。
ヴァルクも一緒に行ってくれる?」

そう尋ねると、ヴァルクは少し寂しげに笑った。

「ああ。一緒に行こう」

「ふふ……あなたが来たら、お父様が大喜びするわ」

「……王都に着いたら、しばらく滞在してくれないか?」

「え?」

夕焼けがヴァルクの髪に差し、灰色の瞳が燃えるように紅く揺れていた。
何かが起こる前触れのように、アメリアの胸がざわめいた。
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