侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!

カナタカエデ

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第二章

40話 終わらない夜

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「いきなり話って言われても……」

躊躇うものの、ヴァルクから期待を込めた眼差しを向けられ、アメリアは何か面白い話があっただろうかと考える。

「そうですね……ノルディアに行ったら、いろいろとやりたいことがあるんです。
聞いてくれますか?」

「ああ、君はもうストーン伯爵夫人なのだから、なんだって好きにしたらいい」

「では……ノルディアを観光地にしたいのです!!」

「……は?」

「実はずっと思っていたんです。
ノルディアは確かにすごく寒い場所ですが、温泉もありますし、どこを見渡しても見応えのある景色ばかりです。
しかも鉱石が発見されたので、現地で安く買い求めたいという人も多いでしょう。

人が増えれば犯罪も増えますし、良いことばかりではありませんが……
氷狼騎士団の団長が治める地ですから、そこはお任せして大丈夫だと思っていますの」

饒舌に語り出したアメリアに、ヴァルクは呆れたように笑った。

「楽しそうだな。だが、今は鉱山で働く者たちを泊める宿や宿舎を作るので精一杯なんだが……
観光客を呼び込めるような宿なんて作れるのか?」

「もちろんです! それに関しては色々と構想を練っていまして、まとまったらぜひお話ししたいです。
それに、街の中に暖房設備も作りたいんです」

ヴァルクはアメリアの興奮具合に驚くと、好きにするといい、と笑った。

「君が来れば、ノルディアは生まれ変わるのだろうな」

楽しそうにそう言う彼の言葉に、アメリアは引っかかる。

「……生まれ変わり……」

「あの、全然違う話をしてもよろしいですか?」

いつものことだと言わんばかりに、ヴァルクは頷いた。

「もし……私が違う人間に生まれ変わって……たとえば、侍女とか!
あなたの元に現れたら……気づいてくださいますか?」

「……どういう意味だ?」

「え、えーっと……ですから、たとえば、たとえばです!
あなたはヴァルク・ストーンのままで、侍女の私と出会うんです」

「アメリアが、アメリアのまま侍女になるということか?」

「いいえ。姿も名前も、まったく違う人間になるのです。どう思います?」

「なるほど……姿も名前も変わり、自分を見つけられるか、と問いたいのか?」

「え、ええ……まあ。
ちなみに、ヴァルクは王女の婚約者で、領主で、団長なのはそのままですよ。
私だけが侍女になるのです」

無茶な設定だと思ったのだろう。
ヴァルクは眉を顰め、それでも真剣にしばらく考えた後、口を開いた。

「君が王女でも、何者でもなくなるなら……俺もそうしよう」

その瞳に、嘘はなかった。
まるでそれが当然だというように、彼は言った。

「……私だと、わかりますか?
王女ではなく、侍女だったとしても」

「難しい質問だが、気づきたいと思う」

「……では、私ではない王女との婚約を破棄して、私を選んでくださるのですか?」

「そのとおりだ。
地位も名誉も、領地もすべて国王陛下にお返ししよう」

ニヤリと笑うと、ヴァルクは悪戯を思いついた子どものように楽しそうに続けた。

「そうだな、君と一緒にこの国を出て、二人で好きなところへ行こう。
そしていつか、好きな場所で根を下ろしたらいい」

「君とこうして過ごす今もいいが……そんなもしもの未来も、悪くない」

ヴァルクが、心の中でいつまでも消えないカリナを抱きしめてくれた気がした。
そう思うと、途端に彼をただ一心に愛したくてたまらなくなる。

アメリアは身を起こし、横たわるヴァルクに覆いかぶさった。
突然の行動に驚きつつも、彼は彼女を抱きしめる。

「どうした?」

「ヴァルク……私も、あなたと生きる未来を諦めません」

そう言って、自らヴァルクの唇に口づけた。
それに応えるように、何度も口づけが交わされる。

いつのまにか体の位置が入れ替わり、
ヴァルクが覆いかぶさったまま、耳元で低く囁く。

「止められないが……いいのか」

ゆっくりと頷くと、鎖が切れた狼のように、彼の大きな手が寝着を捲し上げ、労わるように、そっと体へ触れてきた。
その熱い体温を感じただけで、声が漏れてしまいそうになる。

頭の中から、
自分が本当は侍女のカリナであることも、
アメリア王女から託された使命も、
いつかこの身体はお返しすべきものだということも、
すべてを排除し、ただ彼の熱の中に沈むことを選んだ。

この幸せが1秒でも長く続くように……











***



「ねえ、アメリア……起きて……」

真っ暗な闇の中で呼ぶその声は、もう二度と聞きたくないと願った男のものだった。

――お、お願い……もう、殺して……

勝手に口が動き、そう答える。
体がうまく動かない。
カリナとして死んだ時とは比べものにならないほど、飢えと、乾きと、痛みを感じていた。

「だめだよ。ほら、少し水をあげよう」

唇を濡らす程度の水滴が、落ちてくる。

ーーもう嫌……もうお願い……
私が何をしたの。
あなたを選ばなければよかった。
ただ、幸せになりたかっただけなのに。

その声が、自分のものとは思えないほど、か細く掠れていた。

ぼやけた視界の中で、ようやくその男の姿を捉える。

アレクサンダー・ユーラシア。
死んだはずのその男が、笑った瞬間、
恐怖と憎悪に、心が飲み込まれた。




――お願い……助けて……カリナ……。














  第二章 完
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