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第三章
2話 伝わる熱
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「暫くって……どれくらいですか?」
「できれば……少なくとも三ヶ月は、居てもらいたい」
――三ヶ月。長い。
国内は最近ずいぶん落ち着いているし、多少の衝突があっても、そこまでの期間を空けることはないはずだ。だとしたら――。
気まずそうに話すヴァルクを見て、アメリアは、なにか良くないことが起きるのだろうと感じた。
「どこへ行かれるのです? またユーラシアですか」
「いや、隣国だがユーラシアとは逆側にあたる……サイグ民主共和国は知っているだろう」
「……サイグって……」
ロキア王国の西に位置するサイグ民主共和国。
それは、ロキアがユーラシアとの同盟を結んでしばらくした後、民衆が革命を起こして誕生した国だ。
かつてはロキアやユーラシアと同じく王政を敷いていた隣国だったが、最後の王は暴君で圧政を行い、多くの民がロキアへと逃げ出すほどだった。
やがて立ち上がった者たちによって国は一変し、革命軍は国王を処刑、排除した。国土の大半は革命軍の支配下に置かれ、一部を除いて独立国家として新たに建国することに成功したのだ。
しかし、革命軍の中も一枚岩とは言えず、混乱が続いている状態だった。
「大丈夫なの? 国が荒れているんじゃ……」
「今はもう、かなり落ち着いているそうだ。
受け入れていた避難民の問題もあるから、一度、使者として向かうことになった」
――使者。
前世でもサイグ民主共和国は、同じように革命を起こして建国された国だった。
ヴァルクがロキア王室が滅びた後もなお戦い続けたのは、この国を見ていたからなのかもしれない。この国のように、民の国にすることでロキアを守ろうとしたのではないか――。
前世のこの頃、ヴァルクが何をしていたかは覚えていない。
けれど、アメリア王女はまだこの国にいて、カリナと共にロキア国内を旅していたはずだ。
だとすれば、ユーラシアとの関係もまだ良好だった頃だ。ヴァルクがサイグ民主共和国へ向かった可能性は高い。
「ぜひ! 行ってきてください!」
「えっ……ああ、その……いいのか?」
「もちろんです。そもそも、陛下の命令に背くことはできないでしょう。
それに民主主義の国ですもの。きっと学びも多いはずだわ。
でも……どうして王都に残らなければいけないの? 私だけ先にノルディアへ帰っては、だめなのかしら」
ヴァルクは一瞬目を瞬かせ、それから、ふわりと笑った。
「ノルディアに帰りたいのか?
長く留守にすることになるから、王都の方が過ごしやすいかと思ったのだが……」
「まあ、気を遣ってくれたんですの?」
「……それに、王都にいてくれれば、戻ってきた時にすぐ会えるだろう」
気まずそうにそう言うヴァルクに、アメリアは抱きしめたくなる衝動を抑え、「わかりました」と答えた。
ヴァルクはいつでも、アメリアを一番に考えてくれていた。
寒いノルディアでの生活も、城の中は至るところ寒くならないよう配慮されていた。
隙間風が入らぬよう修繕され、以前訪れた時と比べても見違えるほど美しい。
アメリアが長く過ごす場所には暖炉が設置され、彼女が移動すると、いつでも暖かくなるよう、侍従たちの連携は完璧だった。
そんな彼が、少しでも早く会いたいがために、王都に残ってほしいと言うなんて。
にまにまと笑うアメリアの様子に、ヴァルクは気恥ずかしくなったのだろう。目を逸らし、早口で言った。
「君にはノルディアでしたいことも多いだろうし、無理にとは言わない……その、」
「いいえ! 王都でお待ちします!!」
被せるようにそう言うと、アメリアはとびきりの笑顔を見せた。
「あなたが帰ってくるのを王都で待っています。だから、早く帰ってきてください」
「ああ」
互いに見つめ合っていると、ヴァルクが大きく息を吐いた。
「早く帰ろう。ここだと、抱きしめられない」
騎乗しているため一定の距離を保っていたが、その言葉にアメリアの頬が赤く染まる。
ヴァルクは、まるで勝ったかのように口角を上げた。
***
城へ戻ると、ヴァルクはアメリアを部屋の温泉へと誘った。
「身体が冷えただろう。一緒に入るか」
「ええ!? 無理……それは無理です! 一人で入ってください~」
「そこまで嫌がるか……」
ヴァルクは少し不機嫌そうになりながらも、「それなら先に入れ」と付け加えた。
ふと、テティの言葉を思い出す。
彼女の言っていたとおり、ヴァルクの部屋――今は夫婦の部屋となったここには、温泉が設置されていた。
いつでも綺麗な湯に入れるよう循環機能も施されており、そのことに驚いた。
ヴァルクによれば、元の統治者が無類の温泉好きで、他のことには無頓着だったらしいが、温泉だけは領民たちも入れるよう整えられていたという。
『ご結婚されたら、一緒に入れるんじゃないですか~?』
ノルディアに共に来た時の、テティの明るく陽気な言葉が思い出され、胸が少し痛んだ。
「……やっぱり、一緒に入ろうかしら……」
アメリアの小さな呟きを聞き逃さなかったヴァルクは、ふわりと彼女を抱き上げ、隙を与えぬうちに風呂場へと連れていく。
「ぜったい、こっち向かないでくださいね」
結局、二人で入ることになったものの、アメリアはヴァルクの背に隠れるようにしていた。
「そもそも、何を恥ずかしがっているんだ……」
すでに何度も床を共にしているのに、そう言いたげな背中を、そっと押す。
「だって、こんな明るい場所で……恥ずかしいじゃないですか……」
ヴァルクの背中の筋肉を見るだけで、心臓が痛いほどドキドキする。
なぞるように背筋に触れ、その広い背に頬を寄せた。
「はあ……あったかくて、気持ちいいですね」
しばらくの沈黙の後、大きな水音とともに、ヴァルクが振り返った。
「えっ、やだ! こっち向かないでって言ったじゃないですか!」
「今のは、確実に君が悪い……」
抵抗する間もなく身体を絡め取られ、唇は一瞬で塞がれた。
水音とともに、吐息が漏れる。
「こんなところで、何もするつもりはなかったのに……君はもう少し、考えて話してくれ」
冷えていた身体は、いつのまにか沸騰しそうなほど、熱くなっていた。
「できれば……少なくとも三ヶ月は、居てもらいたい」
――三ヶ月。長い。
国内は最近ずいぶん落ち着いているし、多少の衝突があっても、そこまでの期間を空けることはないはずだ。だとしたら――。
気まずそうに話すヴァルクを見て、アメリアは、なにか良くないことが起きるのだろうと感じた。
「どこへ行かれるのです? またユーラシアですか」
「いや、隣国だがユーラシアとは逆側にあたる……サイグ民主共和国は知っているだろう」
「……サイグって……」
ロキア王国の西に位置するサイグ民主共和国。
それは、ロキアがユーラシアとの同盟を結んでしばらくした後、民衆が革命を起こして誕生した国だ。
かつてはロキアやユーラシアと同じく王政を敷いていた隣国だったが、最後の王は暴君で圧政を行い、多くの民がロキアへと逃げ出すほどだった。
やがて立ち上がった者たちによって国は一変し、革命軍は国王を処刑、排除した。国土の大半は革命軍の支配下に置かれ、一部を除いて独立国家として新たに建国することに成功したのだ。
しかし、革命軍の中も一枚岩とは言えず、混乱が続いている状態だった。
「大丈夫なの? 国が荒れているんじゃ……」
「今はもう、かなり落ち着いているそうだ。
受け入れていた避難民の問題もあるから、一度、使者として向かうことになった」
――使者。
前世でもサイグ民主共和国は、同じように革命を起こして建国された国だった。
ヴァルクがロキア王室が滅びた後もなお戦い続けたのは、この国を見ていたからなのかもしれない。この国のように、民の国にすることでロキアを守ろうとしたのではないか――。
前世のこの頃、ヴァルクが何をしていたかは覚えていない。
けれど、アメリア王女はまだこの国にいて、カリナと共にロキア国内を旅していたはずだ。
だとすれば、ユーラシアとの関係もまだ良好だった頃だ。ヴァルクがサイグ民主共和国へ向かった可能性は高い。
「ぜひ! 行ってきてください!」
「えっ……ああ、その……いいのか?」
「もちろんです。そもそも、陛下の命令に背くことはできないでしょう。
それに民主主義の国ですもの。きっと学びも多いはずだわ。
でも……どうして王都に残らなければいけないの? 私だけ先にノルディアへ帰っては、だめなのかしら」
ヴァルクは一瞬目を瞬かせ、それから、ふわりと笑った。
「ノルディアに帰りたいのか?
長く留守にすることになるから、王都の方が過ごしやすいかと思ったのだが……」
「まあ、気を遣ってくれたんですの?」
「……それに、王都にいてくれれば、戻ってきた時にすぐ会えるだろう」
気まずそうにそう言うヴァルクに、アメリアは抱きしめたくなる衝動を抑え、「わかりました」と答えた。
ヴァルクはいつでも、アメリアを一番に考えてくれていた。
寒いノルディアでの生活も、城の中は至るところ寒くならないよう配慮されていた。
隙間風が入らぬよう修繕され、以前訪れた時と比べても見違えるほど美しい。
アメリアが長く過ごす場所には暖炉が設置され、彼女が移動すると、いつでも暖かくなるよう、侍従たちの連携は完璧だった。
そんな彼が、少しでも早く会いたいがために、王都に残ってほしいと言うなんて。
にまにまと笑うアメリアの様子に、ヴァルクは気恥ずかしくなったのだろう。目を逸らし、早口で言った。
「君にはノルディアでしたいことも多いだろうし、無理にとは言わない……その、」
「いいえ! 王都でお待ちします!!」
被せるようにそう言うと、アメリアはとびきりの笑顔を見せた。
「あなたが帰ってくるのを王都で待っています。だから、早く帰ってきてください」
「ああ」
互いに見つめ合っていると、ヴァルクが大きく息を吐いた。
「早く帰ろう。ここだと、抱きしめられない」
騎乗しているため一定の距離を保っていたが、その言葉にアメリアの頬が赤く染まる。
ヴァルクは、まるで勝ったかのように口角を上げた。
***
城へ戻ると、ヴァルクはアメリアを部屋の温泉へと誘った。
「身体が冷えただろう。一緒に入るか」
「ええ!? 無理……それは無理です! 一人で入ってください~」
「そこまで嫌がるか……」
ヴァルクは少し不機嫌そうになりながらも、「それなら先に入れ」と付け加えた。
ふと、テティの言葉を思い出す。
彼女の言っていたとおり、ヴァルクの部屋――今は夫婦の部屋となったここには、温泉が設置されていた。
いつでも綺麗な湯に入れるよう循環機能も施されており、そのことに驚いた。
ヴァルクによれば、元の統治者が無類の温泉好きで、他のことには無頓着だったらしいが、温泉だけは領民たちも入れるよう整えられていたという。
『ご結婚されたら、一緒に入れるんじゃないですか~?』
ノルディアに共に来た時の、テティの明るく陽気な言葉が思い出され、胸が少し痛んだ。
「……やっぱり、一緒に入ろうかしら……」
アメリアの小さな呟きを聞き逃さなかったヴァルクは、ふわりと彼女を抱き上げ、隙を与えぬうちに風呂場へと連れていく。
「ぜったい、こっち向かないでくださいね」
結局、二人で入ることになったものの、アメリアはヴァルクの背に隠れるようにしていた。
「そもそも、何を恥ずかしがっているんだ……」
すでに何度も床を共にしているのに、そう言いたげな背中を、そっと押す。
「だって、こんな明るい場所で……恥ずかしいじゃないですか……」
ヴァルクの背中の筋肉を見るだけで、心臓が痛いほどドキドキする。
なぞるように背筋に触れ、その広い背に頬を寄せた。
「はあ……あったかくて、気持ちいいですね」
しばらくの沈黙の後、大きな水音とともに、ヴァルクが振り返った。
「えっ、やだ! こっち向かないでって言ったじゃないですか!」
「今のは、確実に君が悪い……」
抵抗する間もなく身体を絡め取られ、唇は一瞬で塞がれた。
水音とともに、吐息が漏れる。
「こんなところで、何もするつもりはなかったのに……君はもう少し、考えて話してくれ」
冷えていた身体は、いつのまにか沸騰しそうなほど、熱くなっていた。
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