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第一章
【外伝】ひとつまみの幸福
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ある午後の日。
「アメリア様!! あれっ、見てください!!」
テティの弾んだ声に、アメリアは彼女の指差す方向へと視線を向けた。
そこには、美しい湖の水面に、水鳥たちが整然と並んでいる。
ノルディアでは夏になると、水鳥たちは涼を求めてこの湖へやってくる。
懐かしさを伴うその光景に、アメリアの口元には自然と笑みが浮かんだ。
「もう少し行けば、湖水浴ができる場所がありますが、行きますか?」
隣に立つリンクが、湖の奥を指差す。
記憶の中にあるこの湖は、過去も未来も、前世であっても変わらない。
ただ、そこにある美しさだけは、いつも同じだった。
「そうね……冷たい水に、少し触れてみたいわ」
「きゃー! やったー! 私、はじめてです!」
テティが飛び跳ねて喜ぶので、アメリアは苦笑するしかなかった。
「水着なんて、持っていないでしょう?」
「ないですけど、足くらい浸してもいいと思います!!」
その断言するような物言いに、アメリアはリンクと目を合わせ、思わず笑い合った。
彼女の明るく裏のない振る舞いは、胸の内に溜まっていた思いを、静かに溶かしてくれる。
湖水浴場へ向かうと、子ども連れや若者たちの姿が、ぽつぽつと見受けられた。
アメリアたちは目立たないように馬車を止め、湖畔を静かに眺める。
「テティ、足を浸してきていいわよ」
「えっ……アメリア様は?」
「私はここで見てるわ。二人で行ってきて」
テティとリンクが湖の淵へ向かう姿を眺めていると、不意に前世の記憶が呼び起こされた。
夏になるたび、この場所で泳ぐことを楽しみにしていた三人の子どもたち。
末の子がまだ幼く、溺れないよう必死で抱きしめていたこと。
冷たい、と甲高い声ではしゃぐテティの姿が、その情景をいっそう鮮明にする。
「素敵なお嬢さん、おひとついかがですか?」
突然声をかけられ、振り返ると、飴細工売りが立っていた。
「まあ! わたし、飴細工すごく好きなんです!!」
「いやぁ、本当ですか? お好きなものを作りますよ」
年老いた職人は、小さな荷車に乗せられた木箱から、湯気の立つ白い塊を木の棒に刺して取り出した。
「何にしますか?」
「では、狼でお願いします」
はさみで小気味よく切り、指で形を整え、さらに筆で色を差す。
やがて、幻想的な狼の飴細工が出来上がった。
アメリアが嬉しそうに受け取ろうとすると、いつのまにか戻ってきたリンクが代わりにそれを受け取り、銀貨を差し出した。
「おや、これは騎士団の方ではないですか」
どうやら老人は、アメリアの正体には気づいていないらしい。
遅れて戻ってきたテティに、アメリアは声をかけた。
「テティ、あなたも何か作ってもらったら?」
「わあ、素敵ですね。なんですか?」
「飴細工よ。はさみ一本で作るの」
「うーん……じゃあ、青い鳥がいいです!」
テティの願いどおり、今度は美しい青い鳥が、瞬く間に老人の手の中で形作られていく。
「すごい……こんなに綺麗な飴、食べられないですね」
「それが、味もとても美味しいのよ。優しい甘さで」
「アメリア様って、意外と食いしん坊なところがありますよね」
「えっ……そ、そうかしら?」
痛いところを突かれた。
けれど、この飴細工も、子どもたちと一緒に買った思い出のひとつだった。
誰でも味わえる、小さな幸せ。
――ああいう幸せを、与えてやりたいと願うのは……
やはり、自分の独りよがりなのだろうか。
胸の中に浮かんだその光景は、
幸せであってほしいと願う、二人の背中だった。
狼の背を、ぺろりと舐めた。
その味は、自分がよく知るそれと、何ら変わらない。
ほんのりと甘く、優しさに包まれるような味。
想い出に涙がこぼれそうになるのを堪え、
アメリアは「美味しい」と、小さく呟いた。
「アメリア様!! あれっ、見てください!!」
テティの弾んだ声に、アメリアは彼女の指差す方向へと視線を向けた。
そこには、美しい湖の水面に、水鳥たちが整然と並んでいる。
ノルディアでは夏になると、水鳥たちは涼を求めてこの湖へやってくる。
懐かしさを伴うその光景に、アメリアの口元には自然と笑みが浮かんだ。
「もう少し行けば、湖水浴ができる場所がありますが、行きますか?」
隣に立つリンクが、湖の奥を指差す。
記憶の中にあるこの湖は、過去も未来も、前世であっても変わらない。
ただ、そこにある美しさだけは、いつも同じだった。
「そうね……冷たい水に、少し触れてみたいわ」
「きゃー! やったー! 私、はじめてです!」
テティが飛び跳ねて喜ぶので、アメリアは苦笑するしかなかった。
「水着なんて、持っていないでしょう?」
「ないですけど、足くらい浸してもいいと思います!!」
その断言するような物言いに、アメリアはリンクと目を合わせ、思わず笑い合った。
彼女の明るく裏のない振る舞いは、胸の内に溜まっていた思いを、静かに溶かしてくれる。
湖水浴場へ向かうと、子ども連れや若者たちの姿が、ぽつぽつと見受けられた。
アメリアたちは目立たないように馬車を止め、湖畔を静かに眺める。
「テティ、足を浸してきていいわよ」
「えっ……アメリア様は?」
「私はここで見てるわ。二人で行ってきて」
テティとリンクが湖の淵へ向かう姿を眺めていると、不意に前世の記憶が呼び起こされた。
夏になるたび、この場所で泳ぐことを楽しみにしていた三人の子どもたち。
末の子がまだ幼く、溺れないよう必死で抱きしめていたこと。
冷たい、と甲高い声ではしゃぐテティの姿が、その情景をいっそう鮮明にする。
「素敵なお嬢さん、おひとついかがですか?」
突然声をかけられ、振り返ると、飴細工売りが立っていた。
「まあ! わたし、飴細工すごく好きなんです!!」
「いやぁ、本当ですか? お好きなものを作りますよ」
年老いた職人は、小さな荷車に乗せられた木箱から、湯気の立つ白い塊を木の棒に刺して取り出した。
「何にしますか?」
「では、狼でお願いします」
はさみで小気味よく切り、指で形を整え、さらに筆で色を差す。
やがて、幻想的な狼の飴細工が出来上がった。
アメリアが嬉しそうに受け取ろうとすると、いつのまにか戻ってきたリンクが代わりにそれを受け取り、銀貨を差し出した。
「おや、これは騎士団の方ではないですか」
どうやら老人は、アメリアの正体には気づいていないらしい。
遅れて戻ってきたテティに、アメリアは声をかけた。
「テティ、あなたも何か作ってもらったら?」
「わあ、素敵ですね。なんですか?」
「飴細工よ。はさみ一本で作るの」
「うーん……じゃあ、青い鳥がいいです!」
テティの願いどおり、今度は美しい青い鳥が、瞬く間に老人の手の中で形作られていく。
「すごい……こんなに綺麗な飴、食べられないですね」
「それが、味もとても美味しいのよ。優しい甘さで」
「アメリア様って、意外と食いしん坊なところがありますよね」
「えっ……そ、そうかしら?」
痛いところを突かれた。
けれど、この飴細工も、子どもたちと一緒に買った思い出のひとつだった。
誰でも味わえる、小さな幸せ。
――ああいう幸せを、与えてやりたいと願うのは……
やはり、自分の独りよがりなのだろうか。
胸の中に浮かんだその光景は、
幸せであってほしいと願う、二人の背中だった。
狼の背を、ぺろりと舐めた。
その味は、自分がよく知るそれと、何ら変わらない。
ほんのりと甘く、優しさに包まれるような味。
想い出に涙がこぼれそうになるのを堪え、
アメリアは「美味しい」と、小さく呟いた。
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(追記2018.07.24)
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(追記2018.07.26)
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お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
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