【完結】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!

カナタカエデ

文字の大きさ
107 / 117
第三章

26話 人が故に

しおりを挟む
「母上! それじゃあ、明日はまずここに行く?」

「どこへ行くんだ?」

ヴィータとふたり、明日の予定を立てていると、ようやくヴァルクが戻ってきた。

「父上! 父上も行く??
母上が街を案内してくれるんだって」

「街を? アメリアが?」

街の地図を掲げて嬉しそうに尋ねるヴィータを見て、不審そうにするヴァルクに、アメリアは苦笑いして答えた。

「シンシアも一緒よ。あなたは忙しいでしょう?」

「……明日も陛下と打ち合わせがあるが、どこかで合流できるようにしよう」

「やったぁー! 聞いた? 母上!」

「ええ、楽しみね。さ、あなたは明日に備えて、もう寝ましょう」

「はあーい!」

ローラがヴィータを子ども部屋に連れて行くのを見送ると、ヴァルクは大きなため息を吐き、椅子に腰掛けた。
持ち帰った書類の束を、睨みつけるように読み続けている。

「お父様は……とても確信に満ちていらっしゃったわね」

「……どういう意味だ?」

「私が王位を継ぐことが、この国をより発展させるとお思いなのでしょうか」

「それは……そうだろう。君のノルディアでの行いは、すべてこの国の領主たちの耳に入っている。誰もが君を真似ようと必死なのも……」

ヴァルクは知らない。
私が、前世で立ち直っていくこの国を知っていることを。

ここから先、五十年の未来を知っているのだ。
今はまだ存在しない技術も、知識も、私の中にはある。
たかが一市民であっても、その記憶があるだけで、私は先の世界を作れる。

だけど、それだけだということを、誰も知らないから――
そんなことが言える。

「……ねえ、ヴァルク」

いつまでも書類から目を離さないヴァルクに耐えきれず、アメリアは呼びかけた。

「あなたは、どう思っているの?」

「どう、とは?」

それでも下を向いたままのヴァルクに、胸の奥がちくりと痛む。

「私が王になるべきだと、本当に思っているのかって聞いているの」

その言葉に、ようやくヴァルクは顔を上げた。

「当然だろう」

迷いのない即答だった。

「君ほど、この国の未来を考え、行動できる者はいない。王位を継ぐにふさわしい」

「……私が王位を継げば、自動的にあなたは宰相になるのでしょう。そうなれば、ノルディアは他人に任せ、ここで暮らすことになるわよ。騎士団も同じ……」

「それが与えられる任なら、全うするまでだ。
もともと、すべて陛下より与えられたものだ」

その一言で、何かがぷつりと切れた。

「じゃあ、あなたは何を望んでいるの?
あなたは私が決めることだと言うけど、あなたは何も決めないの?
ただ、与えられるものを受け入れるだけなの?」

「そうは言っていない」

「言っているのと同じよ!」

思わず声を荒らげて、アメリアは立ち上がった。

「私には、平気で選べと言うくせに。
そういえば、婚約した時もそうだったわね……。あなたは、自分の望みは決して言わなかった。
私に選ばせたわ……! 自分を選んでほしいと……結婚してほしいと、一言も言わなかった!!」

「……それは、今関係ない話だ」

ヴァルクの低い声が、部屋に落ちた。

「……関係ない?」

「あの時は……君が選ぶべきことだった。
今もそうだ……君が選ぶことだ」

その瞬間、アメリアの目に宿ったのは、怒りよりも深い失望だった。

「あなたはそう言うけど、私に与えられている道は、女王になるか王妃になるかの二択で、それはどちらも大差ないわ」

「アメリア」

それ以上言うなと言うような彼の呼びかけに、決して止めることなく続ける。

「それに……私は……ヴィータに、弟か妹だって作ってあげたい」

「……なのに、あなたはこの五年……私に気づかれないように、子どもができないようにしてきたわよね」

ずっと心の隅に堕ちていた闇を、白日の下に晒すように、アメリアはヴァルクを睨んだ。
その事実に気づいた時、どれほど傷ついたか……。それでも、いつかは幸運が舞い降りるかもしれない、ヴァルクが考えを変えるかもしれないと、祈り続けた。
何も言わない彼を、追及もせず……。

アメリアの瞳に揺れる焔に、ヴァルクは言葉を失った。
それは、何ひとつ言い訳ができないと、自白しているかのようだった。

沈黙が、二人の間に重く落ちる。

ヴァルクは一瞬、何かを言いかけて、結局言葉を飲み込んだ。

「……今日は、ここまでにしよう」

そう言って視線を逸らした彼に、アメリアは背を向けた。

胸の奥が、じくじくと痛む。

「……今日は、ヴィータと眠るわ」

ヴァルクのこと、わかっていると思っていた。
彼は、いつだって正直な人だったから。

なにひとつ、嘘偽りを言わない。
誰にも言えなかった過去さえ、打ち明けてくれた。
己の過去の残酷な行為さえ、懺悔できる人だ。

だけど、今日、わからなくなった。
いや、わかっていたけど、わからないふりをしていたのかもしれない。

前世で彼は、今にも分裂し、他国に侵略されそうな、沈没しかけのこの国を守り抜いた。
それは、他の誰かに命じられたわけではなかったはずだ。

だから彼は、いつだって決断し続けた人だと思っていた。

それは……勝手な期待だったのだろうか。
彼が子どもを作ることから逃げていたことも、決断を誰かに委ねることも、彼の弱さなのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

処理中です...