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第三章
27話 前世からの糸
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城下街の散策は、ヴィータの好奇心をより掻き立てた。
ノルディアの街とは比べ物にならない店の数、行き交う人々の多さに目を輝かせ、予定していた場所を見終わった後も、まだ物足りなさそうにしていた。
「母上! どこかで遊びたい!」
「遊ぶって言われても……街中だし、公園くらいならあるけど」
「公園? 行きたい!!」
「なんだ? 公園って」
隣で聞いていたシンシアの問いに、アメリアは一瞬戸惑ったものの、彼女の育った環境を思い出し、丁寧に答えることにした。
「ノルディアにも、子どもたちが遊べる広場があるでしょう?
子ども用の遊具を置いてある場所のことよ」
「ああ、あれは公園っていうのか! それなら、さっき向こうにあったな。行くか? ヴィータ!」
「うんっっ」
シンシアとヴィータが手を繋いで歩き出した。
公園には、数人の親子が遊びに来ていた。
ヴィータは早速、木材で作られた遊具に登り、滑り降りた。
そうやって、しばらく楽しそうに遊んでいる様子を眺めながら、アメリアはシンシアとベンチに腰掛けた。
「ヴァルクと喧嘩したのか」
「ええっ……どうして?」
「今朝、ヴァルクが見送りに来た時、アメリアは一度もあいつのことを見なかったじゃないか。
露骨すぎて、気づかない人間なんていないぞ」
「……それは、お騒がせしてます」
恥ずかしさで俯くと、シンシアは声をあげて笑った。
「早く仲直りしろよ……!」
「そうね……」
「ははうえ!!」
えーーーん!!
ヴィータの叫び声と同時に、幼子の泣き声が響いた。
慌てて遊具を見上げると、子どもの姿はなく、走って後ろへと回り込む。
そこには、小さな女の子が泣きながら、ヴィータにしがみついていた。
「まあ、その子……どうしたの? 親は?」
「わかんない。ひとりでキョロキョロしてたから、『どうしたの?』って聞いたら、泣き出したの」
「お母さんが見えなくなっちゃったのかしら?
こちらにおいで。お母さんは、すぐ見つかるわよ」
ヴィータの足にしがみつき、顔を埋めていた子は、そっとアメリアを見上げた。
くりっとした愛らしい目に、栗色の柔らかい髪、そして赤みを帯びたふっくらした頬。
それを見た瞬間、心臓が高鳴るのを感じた。
「……この子……」
知ってる……。
途端に湧き上がる衝動を抑え、女の子の頭を優しく撫でた。
「……お名前は?」
「ぐずっ……ぐすっ……ふぃ……フィーロ」
「そう、フィーロというの。素敵な名前ね。
すぐに、お母さんたちを探してあげるわね」
そっと手を繋ぐと、小さな温かい手が握り返してくれる。
間違いない。
フィーロ……前世で、私が産んだ子。
夫が、男でも女でも、そう名付けたいと言った子。
遊具の影になった場所から、公園の中心へと歩き、あたりを見渡した。
「大丈夫。すぐ見つけてあげるからね」
シンシアが、すぐ近くにいた親子たちに声をかけ、探してくれているが、なかなか見つからない。
(あの人が、子どもを公園に連れてくるような時間じゃないわよね。
じゃあ、母親かしら。こんな小さな子を置いて……)
この子は自分の子ではないと、本心ではわかっていても、苛立ちを覚えた。
すると、走ってくる女性が見えた。
「フィーロ! フィーロー!!」
「あ、ママぁぁぁ」
女の子は繋いでいた手を振り払い、女性の元へと一直線に走り出した。
それに気づき、彼女もまた女の子へと手を広げ、迎えに行く。
抱きしめ合った二人は、本当の親子に見えた。
いや、事実、親子なのだ。
「あ、あの、ありがとうございます!
まだ三つなのに、私が店番している間に、ひとりで出て行ってしまって……」
「いえ、見つかって良かったです。
でも、気をつけてくださいね。王都は平和とはいえ、こんな小さな子ですもの。
馬車の前に飛び出してしまったら、大変なことになりますわ」
「……はい。本当にありがとうございます!」
女性はフィーロの頭を撫でながら、ふとこちらを見て目を見開いた。
「あ……」
視線が、アメリアの顔から衣装へ、そして、その立ち居振る舞いへと移る。
次の瞬間、彼女は慌てて背筋を伸ばし、深く頭を下げた。
「も、もしかして……アメリア王女殿下でいらっしゃいますか……?」
周囲にいたシンシアが一瞬身構えるのを感じ、アメリアはすぐに小さく首を振った。
「お気遣いなく。ただの散策中です。どうか、そのままで」
「で、ですが……命の恩人のようなものですし……せめて、何かお礼を……!」
「本当に大丈夫です。
お子さんが無事に見つかったこと、それだけで十分ですわ」
穏やかに、けれどはっきりとそう告げると、女性は何度も頭を下げながら、ようやく身を引いた。
「……ありがとうございます。本当に……」
少し落ち着いた様子で、フィーロの手を握り直すと、女性は照れたように笑った。
「実は……皮靴の店を営んでいまして。
夫が職人で……腕はいいんですが、接客がまるで駄目でして」
「まあ……」
「店に出ても、夫は作業場にこもりきり。
お客さまの相手は、全部私です。
フィーロも店に連れて行くんですが……小さな子ですから、どうしても退屈してしまって……。
今日は私も、あまり体調が良くなくて気が回っていなくて、お客さまと話している間に、いなくなってしまって……」
申し訳なさそうに肩をすくめるその姿に、アメリアは思わず小さく息を吐いた。
(……わかる……。
そうなのよ、あの人。まったく、接客はしなかったのよね。
ノルディアに行ってから、一人で店をするようになって変わったけど、
王都で構えていた店では、本当にもう……)
前世の夫を思い返すと、彼女の苦労が手に取るようにわかった。
子どもをあやしながら、帳簿をつけ、接客に明け暮れる日々。
「大変ですわね」
そう口にしながら、心の中で夫に舌打ちをした。
「でも……この子がいるから、頑張れます。
だから、本当にありがとうございます!」
そう言って微笑む女性の腕の中で、フィーロは安心しきった顔で、母に身を預けている。
その光景から目を逸らし、アメリアは胸の奥で、静かに呟いた。
(……素敵な女性で良かった。きっと、子どもたちも幸せになれるわ)
前世とは違う形でも。
この子が、ちゃんと愛されているのなら、それでいい。
自分で産むことは出来なくても……子どもたちの人生は、ちゃんと存在したのだ。
「……フィーロ!」
遠くから、子を呼ぶ父の声が響く。
その声に反応して、フィーロはぱっと顔を上げ、母の腕から身を乗り出した。
「パパ!」
駆け寄ってきた男は、息を切らしながらも娘を抱き上げ、安堵したように強く抱きしめた。
その姿を確認すると、心は凪のように、穏やかになった。
悲しくもあり、嬉しくもある。
前世はいつまでも前世であり、今は今で、確かに繋がっているのだということを。
ノルディアの街とは比べ物にならない店の数、行き交う人々の多さに目を輝かせ、予定していた場所を見終わった後も、まだ物足りなさそうにしていた。
「母上! どこかで遊びたい!」
「遊ぶって言われても……街中だし、公園くらいならあるけど」
「公園? 行きたい!!」
「なんだ? 公園って」
隣で聞いていたシンシアの問いに、アメリアは一瞬戸惑ったものの、彼女の育った環境を思い出し、丁寧に答えることにした。
「ノルディアにも、子どもたちが遊べる広場があるでしょう?
子ども用の遊具を置いてある場所のことよ」
「ああ、あれは公園っていうのか! それなら、さっき向こうにあったな。行くか? ヴィータ!」
「うんっっ」
シンシアとヴィータが手を繋いで歩き出した。
公園には、数人の親子が遊びに来ていた。
ヴィータは早速、木材で作られた遊具に登り、滑り降りた。
そうやって、しばらく楽しそうに遊んでいる様子を眺めながら、アメリアはシンシアとベンチに腰掛けた。
「ヴァルクと喧嘩したのか」
「ええっ……どうして?」
「今朝、ヴァルクが見送りに来た時、アメリアは一度もあいつのことを見なかったじゃないか。
露骨すぎて、気づかない人間なんていないぞ」
「……それは、お騒がせしてます」
恥ずかしさで俯くと、シンシアは声をあげて笑った。
「早く仲直りしろよ……!」
「そうね……」
「ははうえ!!」
えーーーん!!
ヴィータの叫び声と同時に、幼子の泣き声が響いた。
慌てて遊具を見上げると、子どもの姿はなく、走って後ろへと回り込む。
そこには、小さな女の子が泣きながら、ヴィータにしがみついていた。
「まあ、その子……どうしたの? 親は?」
「わかんない。ひとりでキョロキョロしてたから、『どうしたの?』って聞いたら、泣き出したの」
「お母さんが見えなくなっちゃったのかしら?
こちらにおいで。お母さんは、すぐ見つかるわよ」
ヴィータの足にしがみつき、顔を埋めていた子は、そっとアメリアを見上げた。
くりっとした愛らしい目に、栗色の柔らかい髪、そして赤みを帯びたふっくらした頬。
それを見た瞬間、心臓が高鳴るのを感じた。
「……この子……」
知ってる……。
途端に湧き上がる衝動を抑え、女の子の頭を優しく撫でた。
「……お名前は?」
「ぐずっ……ぐすっ……ふぃ……フィーロ」
「そう、フィーロというの。素敵な名前ね。
すぐに、お母さんたちを探してあげるわね」
そっと手を繋ぐと、小さな温かい手が握り返してくれる。
間違いない。
フィーロ……前世で、私が産んだ子。
夫が、男でも女でも、そう名付けたいと言った子。
遊具の影になった場所から、公園の中心へと歩き、あたりを見渡した。
「大丈夫。すぐ見つけてあげるからね」
シンシアが、すぐ近くにいた親子たちに声をかけ、探してくれているが、なかなか見つからない。
(あの人が、子どもを公園に連れてくるような時間じゃないわよね。
じゃあ、母親かしら。こんな小さな子を置いて……)
この子は自分の子ではないと、本心ではわかっていても、苛立ちを覚えた。
すると、走ってくる女性が見えた。
「フィーロ! フィーロー!!」
「あ、ママぁぁぁ」
女の子は繋いでいた手を振り払い、女性の元へと一直線に走り出した。
それに気づき、彼女もまた女の子へと手を広げ、迎えに行く。
抱きしめ合った二人は、本当の親子に見えた。
いや、事実、親子なのだ。
「あ、あの、ありがとうございます!
まだ三つなのに、私が店番している間に、ひとりで出て行ってしまって……」
「いえ、見つかって良かったです。
でも、気をつけてくださいね。王都は平和とはいえ、こんな小さな子ですもの。
馬車の前に飛び出してしまったら、大変なことになりますわ」
「……はい。本当にありがとうございます!」
女性はフィーロの頭を撫でながら、ふとこちらを見て目を見開いた。
「あ……」
視線が、アメリアの顔から衣装へ、そして、その立ち居振る舞いへと移る。
次の瞬間、彼女は慌てて背筋を伸ばし、深く頭を下げた。
「も、もしかして……アメリア王女殿下でいらっしゃいますか……?」
周囲にいたシンシアが一瞬身構えるのを感じ、アメリアはすぐに小さく首を振った。
「お気遣いなく。ただの散策中です。どうか、そのままで」
「で、ですが……命の恩人のようなものですし……せめて、何かお礼を……!」
「本当に大丈夫です。
お子さんが無事に見つかったこと、それだけで十分ですわ」
穏やかに、けれどはっきりとそう告げると、女性は何度も頭を下げながら、ようやく身を引いた。
「……ありがとうございます。本当に……」
少し落ち着いた様子で、フィーロの手を握り直すと、女性は照れたように笑った。
「実は……皮靴の店を営んでいまして。
夫が職人で……腕はいいんですが、接客がまるで駄目でして」
「まあ……」
「店に出ても、夫は作業場にこもりきり。
お客さまの相手は、全部私です。
フィーロも店に連れて行くんですが……小さな子ですから、どうしても退屈してしまって……。
今日は私も、あまり体調が良くなくて気が回っていなくて、お客さまと話している間に、いなくなってしまって……」
申し訳なさそうに肩をすくめるその姿に、アメリアは思わず小さく息を吐いた。
(……わかる……。
そうなのよ、あの人。まったく、接客はしなかったのよね。
ノルディアに行ってから、一人で店をするようになって変わったけど、
王都で構えていた店では、本当にもう……)
前世の夫を思い返すと、彼女の苦労が手に取るようにわかった。
子どもをあやしながら、帳簿をつけ、接客に明け暮れる日々。
「大変ですわね」
そう口にしながら、心の中で夫に舌打ちをした。
「でも……この子がいるから、頑張れます。
だから、本当にありがとうございます!」
そう言って微笑む女性の腕の中で、フィーロは安心しきった顔で、母に身を預けている。
その光景から目を逸らし、アメリアは胸の奥で、静かに呟いた。
(……素敵な女性で良かった。きっと、子どもたちも幸せになれるわ)
前世とは違う形でも。
この子が、ちゃんと愛されているのなら、それでいい。
自分で産むことは出来なくても……子どもたちの人生は、ちゃんと存在したのだ。
「……フィーロ!」
遠くから、子を呼ぶ父の声が響く。
その声に反応して、フィーロはぱっと顔を上げ、母の腕から身を乗り出した。
「パパ!」
駆け寄ってきた男は、息を切らしながらも娘を抱き上げ、安堵したように強く抱きしめた。
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もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
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