【完結】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!

カナタカエデ

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第三章

30話 決意と選択

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丘の上に、夜の気配が降りてきていた。

夕陽はすでに地平へと沈み、王都を染めていた黄金色は、ゆっくりと群青へと溶けていく。
風が草を揺らし、昼の名残を静かに攫っていった。

アメリアは、ゆっくりと向かって歩いてくるヴァルクを迎える覚悟ができていた。

「怒っている顔ね」

顰めっ面の彼に、困ったように笑いかける。
ヴァルクは怒りを抑えるように体を強張らせた。

「当たり前だ……こんな場所で、ひとり待つなんて何を考えている?
シンシアもシンシアだ。護衛の意味がないじゃないか」

「そんなに怒らないで。私が無理を言ったのだから」

「一体……どういうつもりだ」

荒ぶる感情を抑えきれず、声に震えが混じる。
アメリアは、そっと彼の手を取った。

「あなたと、ここで話したことを覚えてる?」

彼の指先が、わずかに揺れる。

「あなたは、小さなアメリア王女を怖がらせたことを悔いていた。
……そして私は、そんなあなたに言ったのよね。
これからは、守ってほしいって」

「はあ……覚えているよ……。
その話をするために、わざわざ危険を冒したというのか」

「ふふ……怒りが晴れないわね」

アメリアは小さく息を吐く。

「違うわ。
あなたは最初から、ずっと正直だった。
いつだって誠実で、嘘がない」

ヴァルクの顔を、まっすぐに見つめる。

「あなたが次の子を避けていたのも、それを黙っていたのも……
聞かれたら、逃げられないと分かっていたからでしょう?
あなたはきっと、本心を語る以外の選択がなかった。
本当に……馬鹿みたいに正直者なんだから」

ヴァルクの苦悩に満ちた表情が、何よりの答えだった。
彼には、沈黙することしか逃げ道がなかったのだろう。

「だけど……私は違うわ」

指先が、ゆっくりと離れる。

「私は……あなたに、とてつもなく大きな真実を隠して来たの」

ヴァルクの瞳が揺れる。
不安と戸惑いが、はっきりと宿ったのが分かった。

「私は……アメリア・ド・ロキアじゃない」

一拍置き、静かに続ける。

「彼女から、この人生を託されただけで――
なにも特別なものなど持たない人だったの……」

そう自分のことを語った途端、不意に涙が滲みそうになり、背を向けた。
ヴァルクの手に縋りつきそうになる衝動を、必死に抑える。

黄金だった世界は、いつの間にか、柔らかな光をきらめかせる藍色の絨毯へと変わっている。
深く息を吸い、吐いて、言葉を続けた。

「私が……この世界で生きるのは、二度目なんです」

夜風が、頬を撫でる。

「一度目は、アメリア王女の侍女として生き、最期はノルディアで天寿を全うしました。
その世界で、王女は……今の私と同じ年で亡くなり、ロキア王国は再び戦争を強いられることになります」

声は、揺れなかった。

「そして王室は……国王も含め、暗殺され……消滅します。
だけどヴァルク……あなたが、この国を復興させるのです」

振り返り、彼を見据える。

「ロキア王国としてではなく――
民が君主を選ぶ、共和国として」

ヴァルクの表情が、見る間に歪んでいく。

「な……何を……言っているんだ……」

「私は……あなたが必死で作り上げた……
“民の国”を、この世界でも成し遂げたいと思っています」

だから、彼を呼び出した。
ずっと隠して来た、“王女ではない”という事実まで明かし、覚悟を決めた。

一歩、前へと進む。
逃げない――それが、今の決意の表れだった。

「そのために、女王になります。
そして……王政を廃止する、ロキア王国最後の王になります」

揺るがない眼差しのアメリアとは対照的に、ヴァルクの表情は明らかに普段と異なっていた。
彼女が近づくと、一歩、後ずさる。

「……意味がわからない」

掠れた声には、不安が滲んでいた。

「それは……それは謀反と同じだ……!
王政を廃する? 最後の王になる?
そんなこと……許されるはずがない……!」

怒鳴るような言葉とは裏腹に、瞳には恐怖が色濃く滲んでいた。
彼の忠誠心が、簡単に揺らがないことはわかっていた。

アメリアは、少しだけ目を伏せ、そして微笑んだ。

「そうよね……
いきなりこんな話をされて、戸惑わないはずないわ」

これは、想像していた反応だった。
だからこそ、彼女はここに来た。

「……あなたが理解できるまで、何度でも話すわ」

丘を渡る風が、二人の間を抜けていく。
夜の気配は、もう逃げ場を残していなかった。

「最初からすべて。
私が見てきた……失われた世界を……」

言葉は、途切れなかった。
侍女として過ごした日々と別れ。
王女の最期。
戦火に沈む王都。
それでも、決して諦めなかった一人の男。
そして――立ち直っていく国で、民たちがどう手を取り、強く逞しく生きて来たかを。

時間の感覚が失われるほど、彼女は語り続けた。

やがて――
沈黙と闇だけが、丘の上に残った。

「……それが、本当に起きたことだとして……」

ヴァルクは、愕然としたまま立ち尽くしていた。

「……なぜ、今、王政を廃止する必要があるんだ?
民主主義の良い面を取り入れながら、このまま続ければいいじゃないか」

震える手を、彼は強く握りしめる。
怒りも、否定も、もはや形にならなかった。

「もし、カリオン王子が王位を継いでいれば……
廃止しようとは思わなかったわ。
きっと今も、ノルディアで、あなたとヴィータとのんびり過ごしていたはずよ」

アメリアは、夜の闇に包まれた空を見上げた。
空には、すでに星々が輝き始めている。

「でも、事実、王政はすでに崩壊しかけているじゃない。
この先、ヴィタリスにその宿命を背負わせて……
さらに、その子どもへと引き継がせることが、本当にこの国のためだとは思えない」

「だけど、それは私の考えであって……
あなたの考えではないわ」

そして、はっきりと告げた。

「止めたいなら――
国王陛下に、私がしようとしていることを伝えればいい」

その言葉は、剣よりも重かった。

「どんな結果になっても、受け入れるわ。
ここから先は……あなたが決めること。
私が、最初に選んだのは、あなたなんだもの」

アメリア王女として転生したとき、ヴァルク・ストーンの名を叫んだ。
あれが、アメリアとしての人生の始まりだった。

風が止み、丘は完全な静寂に包まれた。
アメリアは握りしめられたヴァルクの手をそっと触れた。
ヴァルクは一瞬、顔を上げ、そして、その手を振り払うかのように下ろした。

いつもは暖かい彼の手は冷たく何も感じなかった。

ヴァルクの選択が、
この国の未来を――
そして、二人の関係を決める。
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