ロクデナシ黙示録 ~夕立市最悪の三日間~

松山リョウ

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来たる四人、迎える二人、加えて一人

第6話 管理局の怪物 ヴィクトール・ロマーノヴィチ・フランケンシュタイン

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【改造人間】
 とぅるるるるるるん。月明りに照らされた公園でオーケストラを消閑の具としていると、古風な電話のコール音が邪魔をしてきた。

 俺はこの音が嫌いだ。ヘッドフォンを外しながら顔をしかめる。呼び出しているということは、当然電話の向こうの相手は俺に用事があるということだ。俺は常日頃から俺に用事があるやつなんてこの世から消えればいいと思っているし、こんな俺に用事があるやつは往々にしてろくな奴じゃない。

 ポケットから携帯電話をつまみ出す。異臭を放つ靴下を取り扱うように顔から遠ざけてみる。忌々しいことに、20秒が経過しても呼び出し音は鳴りやまない。

 わざとため息が聞こえるように、電話に出る。

「俺だ」

「あ、もしもしヴィッキーですか? おっひさー! いや~実に百九十七時間と三十三分二十九秒ぶりで……」

 即刻電話を切った。不快だ。

 性懲りもなくすぐにまた電話がかかってくる。俺は電話に出て開口一番に告げる。

「ウイルスをバラまいてやろうのか?」

「先ほどはオメガが失礼いたしました」

 打って変わって無機質な女性の声が聞こえた。双子の姉のアルファだ。

「気を悪くしたのなら謝ります。どうしてもヴィクトールと話がしたいからって」

 アルファは淡々と告げる。俺はふんと鼻を鳴らし、ベンチの背もたれに深く腰掛ける。夜も更けた児童公園に人の姿は見当たらない。草陰からリンリンと虫たちが命を燃やして鳴くばかりだ。

「どうですか? 日本は」

「世間話なら他所でやれ。俺は今大層機嫌が悪いんでな」

「……仕事を放棄したと伺ったのですが」

「人聞きの悪い。戦略的休息をとっているだけだ」



 元々管理局から依頼された仕事は人探しだった。五年前、とある法理士が、管理局と取引して、法理鏡会に所属する貴族から禁術を盗み出した。金銭と引き換えに管理局に手渡す手筈だったが、そのまま持ち逃げして行方をくらました。鏡会と管理局両方に喧嘩を売る度胸は認めざるを得ないが、無謀すぎる。もはや犯人の名は全世界に行き渡っている。

 しかしそれほどのことをしておきながら、それから音沙汰がない。監視の目が厳しくなって動けないのか、もうどこかで死んでいるのか。俺は後者だと思うのだが、如何せん管理局も躍起になっていて、その大莫迦者が潜んでいるという情報が入れば、信ぴょう性が薄くとも諜報員を派遣している。俺がここにいるのも、最近この付近での目撃情報があったからだ。

 日本はいまだ万象法廷に加盟していない。表向きの先進国で万象法廷に加盟していないのは日本くらいだ。だから隠れ家としては格好の場所だ。法廷も簡単には調査をできず、それでいてニンゲンが多くいる。国民の九割が『絶対神』を信じていないのも化け物どもには居心地がいい。生きていると仮定するならば、ここに件の法理師が隠れている可能性は確かに高いかもしれない。

 以上の事情があり、俺は金で雇われてここにきた。最初の三日間はやる気もあった。だが土着の妖怪どもが鬱陶しい。売られた喧嘩は買わない主義だが、一度あまりにもしつこく絡んでくる鬼どもがいたので殴り飛ばしたら、そいつらが近場では有名な腕っぷしだったらしく、あっという間に俺の噂が広まった。なにせ、俺のニンゲン形態は二メートルを超える黒人だ。その辺を歩いているだけですぐに見つかり、鬼の一味が喧嘩を吹っかけてくるようになった。

 本当なら一度本国に帰って装備から練り直したいところだが、運悪く国境に厳戒態勢が敷かれてしまった。タイミングの悪いことに、『次元の魔女』が許可なく越境したらしく、一時的に警備が強化されているらしい。



「つまりは今、例の法理師探しはやっていないのですね?」

「報酬が倍なら探偵セットを買えるんだがな。依頼人に交渉してみてくれないか?」


「別の任務をやってみますか?」


 ……別の任務? 俺は喉元まで出かかったさまざまな言い訳を胸にしまう。

「管理局から別の任務が出ているんです。日本で予言の子どもを保護せよと」

「ああ。例のヴェルナーが言っていたやつか」

 三カ月ほど前から欧州では話題になっていた。予言士・ヴェルナーが描いた十数年前の絵画が発端だ。日本で災厄をもたらす子どもが力に目覚める、とも読みとれる絵だった。俺から言わせれば幼稚園児がクレヨンで描いた落書きにしか見えないのだが、とにかく、ヴェルナー自身もこれは予言かという問いに対し、YESと答えたのだそうだ。例の隕石飛来を予言したヴェルナーだ。信頼性がまったくないというわけではない。

 最初は管理局が極秘としていたが、復権を望む世紀末派が法理鏡会にリークしたようだ。噂を広めて予言が実現すれば、世紀末派はノストラダムス以前の力を取り戻せると信じているらしい。ニンゲン社会にも広まりつつあり、日本でも一部の若人の話のタネになっている。

 世界中に予言が広まりつつある今、管理局は予言内容への対策よりも、いかにして予言を実現させるかに躍起になっている。最悪日本国が災厄に見舞われたとしたとしても、極東の島国がどうなろうが知ったことではない、ということなのだろう。

「やはり鏡会も黙ってはいないようで。次元の魔女が日本に入国したとの情報もあります」

「まさに、その魔女様のおかげで俺は今動けないんだよ」

「彼女に関しては、日本国と管理局が法廷に異議を申し立てたので問題ないでしょう。ただ、ほかにも鏡会からの刺客がいるらしく、それらを迎え撃つために管理局も人員を日本に送り込みたいのですが……。最初に戻るのですが、次元の魔女の無許諾の訪日があったので、日本が出入国の警戒を強化していまして。簡単には入国できない状態になっているのです」

「なるほど。それで先立って日本にいた俺の力を借りたいというわけだ」

「ええ、どうでしょうか。かなり名誉ある仕事だと思いますが」

「断る」

 きっぱりと言い切る。

「戦略的休息をしていると言っただろう。今俺が動くのはリスクがでかすぎる」

 予言の日とされる期間はもう来週だ。そろそろ大物が出てくる頃合いだろう。法理師探しよりも鏡会と対立する仕事になりそうだし、報酬が渋いようではやる気が起きない。

「わかりました」

 アルファの声が電話口から響く。



「しかし残念ですね。報酬も今の仕事の三倍以上出すとのことですが」

「引き受けよう」

「でしょうね」



 常に平坦なアルファの口調に、わずかに呆れの二文字が滲み出る。なんとでも思え。世の中、金だ金。名誉なんざ犬に食わせとけ。


「経費はかかりますが、転送は使いますか? 『三色コード』なら鏡会に補足される前に転送することが可能かと思いますが」

「いざとなればな。いつでもモニターから転送できる準備はしておけ。あと、転送時のド派手な警告音はやめろとマスクに伝えろ。パチンコの当たり演出のようで不愉快だ」

 二、三必要事項を確認してスマホを切った。



 金が払われるなら、きっちり仕事はこなす。神でも悪魔でも相手してやろうじゃないか。



 時は金なり、善は急げ、だ。俺は公園を離れ、街灯一つない闇夜に歩を進めた。




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