ロクデナシ黙示録 ~夕立市最悪の三日間~

松山リョウ

文字の大きさ
20 / 26
5月10日~16日  乱戦に至るまで

第20話 仕切り直し

しおりを挟む

【黒猫】

「まずは、ええと、自己紹介でもしましょうか。私は久雅夜叉綴喜と申します。ツヅキと呼んでください」

 綴喜は両手を胸の前で合わせながらはにかむ。

 呆れた。この状況でのんびり自己紹介をし始めるとは。

「この霊圧は……綴喜なんか!?」

 夜雀の能力の影響か、綴喜の姿を確認できないようだ。地面に伏したまま叫ぶ。

「ふざけるんはほどほどにせぇ! せめて僕だけでも解放せんかい!」

「いけません、無名が冷静になるまでは。大体何事です。仲間であるクロールさんまで攻撃していたではありませんか」

 おっといけない。僕は押さえつけられる力に抗いながら右手を上げる。

「……ごめんよ、僕が影縫だと言ったのは嘘だ」

「え、そうなのですか?」

「はあ? なんぞ?」

「クロール・ヴォルグマンと名乗ったのも嘘。本名はクローイ・サリヴァンだよ」

「そんな! 偽名だったんですか」

「……なんだ急に? なんで俺の苗字を勝手に名乗ってやがる」

 ルガールが会話に割り込んでくる。

「いいじゃないか。どうせ来月には挙式をあげるんだし」

「冗談よせ、てめぇが式なんざあげようもんなら敬虔な神父も泡吹いて――」

 ガキィン。

 激しく鉄のぶつかる音が響いた。

「残念だけれど、私にお遊戯を見ている暇はないの。馴れ合いたいなら他所でやって」

 ナイフを地面に突きつけながら、メイファが鋭く言い放つ。

「あなたは、先ほどの月の影がなくなった理由を、ご存じなのですか?」

 メイファは周囲を見渡し、霊力に抗う術を探そうとしている。

「月の影は幻界に住む者、現実界に住む者、双方の安寧のために必要なものです。あなた方の目的はわかりませんが、ここは一度協力関係を結びませんか」

「俺は赤髪とは気が合うな。馴れ合うつもりはさらさらない」

 ヴィクトールはその場に膝をつき、立ちあがろうとする。

「どこのどいつか知らんが、この程度の霊圧ごときで俺を抑え切れると思うな」

「ですから、先ほど申し上げました通り、私は綴喜と申します」

 綴喜が頬を膨らませるが、そういうことじゃないだろう。僕は少し助け舟を出してやる。

「まあまあそうピリつかなくてもいいじゃないか。自己紹介ぐらいしていってもいいんじゃないか?」

「なんの意味もないわ。どうせ嘘八百を並べるだけやろ」

「確かに意味がねぇ」

 ルガールが割り込んできた。

「ただな、今一度てめぇらに教えておかねぇといけねぇようだ。恐るべき俺の名前をな」

 ルガールは顔を地面に貼りつけたままで息を吸う。

「いいか、俺の名はルガール――」

 ポン。

 間抜けな音と同時に、ルガールが子犬の姿に戻った。

 やべ。

「ああ、しばらく経つと子犬の姿に戻されるってこと、言ってなかったね」

「ぐおううう!?」

 ルガールが悲痛な声を上げる。目をきつく閉じて、爪をコンクリートに突きつけている。子犬の姿ではこの重圧に耐えきれないらしい。

「ふわ、ごめんなさい――」

 綴喜がとっさに右手を上げる仕草を取る。すると僕の体も軽くなった。どうやらこの念力は部分的に強めたり弱めたりということはできないらしい。

 彼女は思わずとってしまった行動なのだろうが、ここにいる奴らはこの隙を見逃すほど甘くはない。

 ヴィクトールが右の握り拳を瞬時に上げ、一気に振り下ろした。地面に向かって流れ落ちる綴喜の霊圧も相乗効果となり、コンクリートが大きく抉れ、大地に亀裂が走る。大きなコンクリート片が炸裂弾のように辺りに散らばった。

 やはり亡霊、綴喜にはただの物理攻撃は効かないようだ。コンクリート片も彼女の体を通り抜けていく。しかし体を透けるとは分かっていても体は反応してしまうようで、彼女は両腕を顔の前で組み、上方にふわりと浮きあがった。体の重圧が消える。

「ジャック・オー・ランターンッ!」

 メイファが叫ぶと、鬼火の男とも女ともつかない、耳をつんざくような叫び声が響きわあり、青い炎に包まれて姿を消した。同時にバサッと地面になにかが転がる。

 ダイナマイト――。

 認識したのと同時に爆風と爆音が体を突き刺した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...