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5月10日~16日 乱戦に至るまで
第20話 仕切り直し
しおりを挟む【黒猫】
「まずは、ええと、自己紹介でもしましょうか。私は久雅夜叉綴喜と申します。ツヅキと呼んでください」
綴喜は両手を胸の前で合わせながらはにかむ。
呆れた。この状況でのんびり自己紹介をし始めるとは。
「この霊圧は……綴喜なんか!?」
夜雀の能力の影響か、綴喜の姿を確認できないようだ。地面に伏したまま叫ぶ。
「ふざけるんはほどほどにせぇ! せめて僕だけでも解放せんかい!」
「いけません、無名が冷静になるまでは。大体何事です。仲間であるクロールさんまで攻撃していたではありませんか」
おっといけない。僕は押さえつけられる力に抗いながら右手を上げる。
「……ごめんよ、僕が影縫だと言ったのは嘘だ」
「え、そうなのですか?」
「はあ? なんぞ?」
「クロール・ヴォルグマンと名乗ったのも嘘。本名はクローイ・サリヴァンだよ」
「そんな! 偽名だったんですか」
「……なんだ急に? なんで俺の苗字を勝手に名乗ってやがる」
ルガールが会話に割り込んでくる。
「いいじゃないか。どうせ来月には挙式をあげるんだし」
「冗談よせ、てめぇが式なんざあげようもんなら敬虔な神父も泡吹いて――」
ガキィン。
激しく鉄のぶつかる音が響いた。
「残念だけれど、私にお遊戯を見ている暇はないの。馴れ合いたいなら他所でやって」
ナイフを地面に突きつけながら、メイファが鋭く言い放つ。
「あなたは、先ほどの月の影がなくなった理由を、ご存じなのですか?」
メイファは周囲を見渡し、霊力に抗う術を探そうとしている。
「月の影は幻界に住む者、現実界に住む者、双方の安寧のために必要なものです。あなた方の目的はわかりませんが、ここは一度協力関係を結びませんか」
「俺は赤髪とは気が合うな。馴れ合うつもりはさらさらない」
ヴィクトールはその場に膝をつき、立ちあがろうとする。
「どこのどいつか知らんが、この程度の霊圧ごときで俺を抑え切れると思うな」
「ですから、先ほど申し上げました通り、私は綴喜と申します」
綴喜が頬を膨らませるが、そういうことじゃないだろう。僕は少し助け舟を出してやる。
「まあまあそうピリつかなくてもいいじゃないか。自己紹介ぐらいしていってもいいんじゃないか?」
「なんの意味もないわ。どうせ嘘八百を並べるだけやろ」
「確かに意味がねぇ」
ルガールが割り込んできた。
「ただな、今一度てめぇらに教えておかねぇといけねぇようだ。恐るべき俺の名前をな」
ルガールは顔を地面に貼りつけたままで息を吸う。
「いいか、俺の名はルガール――」
ポン。
間抜けな音と同時に、ルガールが子犬の姿に戻った。
やべ。
「ああ、しばらく経つと子犬の姿に戻されるってこと、言ってなかったね」
「ぐおううう!?」
ルガールが悲痛な声を上げる。目をきつく閉じて、爪をコンクリートに突きつけている。子犬の姿ではこの重圧に耐えきれないらしい。
「ふわ、ごめんなさい――」
綴喜がとっさに右手を上げる仕草を取る。すると僕の体も軽くなった。どうやらこの念力は部分的に強めたり弱めたりということはできないらしい。
彼女は思わずとってしまった行動なのだろうが、ここにいる奴らはこの隙を見逃すほど甘くはない。
ヴィクトールが右の握り拳を瞬時に上げ、一気に振り下ろした。地面に向かって流れ落ちる綴喜の霊圧も相乗効果となり、コンクリートが大きく抉れ、大地に亀裂が走る。大きなコンクリート片が炸裂弾のように辺りに散らばった。
やはり亡霊、綴喜にはただの物理攻撃は効かないようだ。コンクリート片も彼女の体を通り抜けていく。しかし体を透けるとは分かっていても体は反応してしまうようで、彼女は両腕を顔の前で組み、上方にふわりと浮きあがった。体の重圧が消える。
「ジャック・オー・ランターンッ!」
メイファが叫ぶと、鬼火の男とも女ともつかない、耳をつんざくような叫び声が響きわあり、青い炎に包まれて姿を消した。同時にバサッと地面になにかが転がる。
ダイナマイト――。
認識したのと同時に爆風と爆音が体を突き刺した。
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