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5月10日~16日 乱戦に至るまで
第22話 夢を見ていた
しおりを挟む【ミツル】
夢を、見ていた。
明るい。瞼を瞑っていてもオレンジ色の光が瞬いているのがわかる。それが太陽の光とは異なることをミツルは知っていた。
ゆっくりと目を開ける。地面に頬をつけていた。目の前に自分の体よりも大きな瓦礫がある。上から落ちてきたのであろう、天井に暗い穴が空いていた。ミツルの投げ出された足のすぐ近くには柱のような物が崩れ落ちている。ミツルの背中側には大きな銀色の鉄の板が紙のようにひしゃげていた。ガラスの破片が下に散らばっている。
奥で炎が燃えているのを感じた。黒い煙が辺りに充満している。頭がズキズキと痛む。息苦しい。呼吸を止めたいほどに喉が渇いていた。
生温かい煙がすぐそこに来ているというのに、ミツルは寒さを感じていた。粘り気のある赤い血がミツルの左手に流れる。そうだ、脇腹になにかが刺さっているんだっけ。
この夢は何度も見てきた夢だった。ミツルは次になにが起こるのかも知っている。
目の渇きに耐えられず瞼を閉じるのだ。それから呼吸も次第に浅くなっていく。そのまま意識が一度途切れる。
そして再び目覚めるのだ。ポツリと落ちる、水滴に。喉を潤す、水滴に、覚醒させられるのだ。
目を開けると誰かが覗きこんでいた。背丈が低く、長い髪が煌めいている。少女だろうか。視界がぼやけて顔を確認できない。ミツルは仰向けに寝かされていた。少女らしきその影がミツルの顔の前に拳を突き出している。
音も痛みも消えていた。
ミツルは目だけを動かして、その人の顔に焦点を合わそうとする。炎の光がその人の顔に影を作り表情がよく見えない。
その人が頭を動かした。そこでようやくわかる。赤い瞳。炎の光のせいではない、もっと赤い、血のような深紅色。
少女の口から八重歯が覗いている。その口がゆっくりと動いた。
「――」
音は聞こえないのに、その声が震えているのがわかる。彼女はなんと言ったのだろう。そこでいつも意識が無くなってしまう――。
*
ミツルは跳ね起きるように目を覚ました。荒い呼吸を繰り返す。それから大きく息を吐いて、再び枕に頭を埋めた。左脇腹にある傷跡に触れる。
最近この夢を見ることが多くなっていた。ミツルは嫌になっていた。この夢を見た後は汗で不快な気分になるし、強烈に頭に残り続けるから二度寝がしにくい。最近寝不足が続いていたのにはこの夢のせいもあった。
今回も例に違わず寝付けなかった。ミツルは諦めて一旦窓を開けて心を落ち着けることにした。
昨日は昼間から快晴だった。日を跨いだ深夜も変わらず天気はいいようで、綺麗な星空が広がっていた。ミツルは出窓に腰かけて外の空気を吸う。ほんの少しだけ欠けた月は、ミツルを歓迎するかのように輝いている。
ミツルは夜風の冷たさが心地よくなって小さく鼻歌を歌う。『Seven Nation Army』という曲。洋楽でロクに歌詞も分かっていなかったが、父が車のなかでかけていたロックの曲だ。ミツルはこの曲のサビのメロディをとても気に入っていた。
昼間倒れたことが嘘のようにミツルは元気になっていた。このまま夜の街に飛び出したくなるほどに気分が高揚していた。
ミツルは歌う。ご機嫌に、夜の空に向けて。
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