拝啓、今日からモブ、始めます!

水月

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第一章

1:プロローグ

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「ねぇねぇ聞いた!?バッカーノ伯爵様の事!」
「聞いたわよ!今回は伯爵様のお屋敷が狙われたって新聞でも街でも大騒ぎだもの!!」

市場に買い物に来ていた顔見知りの女性達が街で今一番話題になっている話を楽しそうにしているのを横目でチラリと流し見しながら歩いていく。

「まぁあの伯爵様は昔から悪どい事をしてるって有名だったからなぁ」
「今回は違法奴隷の売買をしてたって聞いたわよ!?本当に最悪よね!」

けれど街中ではその話題で盛り上がっているからどこに居ても内容が聞こえてくる。

「通報を受けた騎士団が到着した時には縄で縛り上げられてて奴隷達も地下牢から出されてたって聞いたわ!しかも屋敷に溜め込んでたお金が盗まれてて、孤児院やスラムの住人に分け与えられてたって聞いたわよ?」
「伯爵家も違法な事業で稼いだ金だから訴える事も出来ないみたいで....ザマァ見ろって感じよね~!」
「本当本当!」

被害にあったのはこの街では悪い意味で有名なバッカーノ伯爵家。国で定められた法を守らず違法な奴隷事業で己の資産を増やしてばかりの最低最悪な貴族で有名だった。

だから被害にあっても誰もが当然と思い、自業自得だと笑い話にすらしてしまう。

「怪盗様々よね!」
「私達平民の勇者様みたいよね!」

雑踏に紛れながら自然と聞こえてくる沢山の人々の会話にクスリと笑みが自然と浮かんでくる。

「....勇者様、か.....フフッ。本当に皆、面白い事を言うよね」






アントニアリッジ王国では最近貴族達の屋敷が襲撃される事件が続いていた。

けれど襲撃された貴族家達は皆、他の貴族家や民からの評判も悪く裏で国で禁止されている非合法な奴隷を売買したり、民から定められた上限以上の税を秘密裏に取り立て国に申告をせずに自身の資産を増やそうとしたりと、そんな貴族家ばかりだった。

そして襲撃された貴族家から盗まれた金品は全てその襲撃犯から街の貧しい住民達や孤児院等へと配られ、民衆からは称賛を浴び、絶大な人気を誇っていた。

その襲撃犯は最初に襲撃予告を出し、厳重な警備の中をどんな方法で盗み出すのかさえわからない。しかも屋敷の人間を怪我はさせても必ず死なせない。罪状と共に騎士団へと引き渡す。そんなところも民衆の支持を受けた。所謂義賊的な人気だった。


その襲撃犯の名前は青薔薇の幻影ブルーファントム

青薔薇の紋章のカードを残し華麗に去っていく。騎士なのか、それともその華麗な手口から魔術師なのか。

その正体は未だ誰も知らない。


 
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