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第一章

4:大魔法師セギヌス

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僕の前世だった大魔法師セギヌスには実は誰も知らない秘密があった。

それは彼には【日本人であった前世の記憶】があった事。

つまり、前世で【大魔法師セギヌス】だった僕には【日本人であった前世の記憶がある大魔法師セギヌス】の記憶と能力があると言う事だ。

大魔法師セギヌスは前世の記憶を元に沢山の魔道具を造り世の中に送り出し人々の生活を豊かにして来た。今の世の魔道具は大魔法師セギヌスが造り出した物が半数をしめていると言っても良い程だ。勿論、他の魔道具師がより良くしようと改良して出来た改良型の物もあるが、魔道具造りの想像力は日本人だった記憶を持つ大魔法師セギヌスには遠く及ばない。改良型を造れても、一から新たな魔道具を造り出す事は容易い事ではないのだ。所詮、この世界しか知らない魔道具師では想像力が大魔法師セギヌスには及ばないからだ。

そして、その大魔法師セギヌスの記憶を持つ僕ならばセギヌスが当時造り出さなかった新たな魔道具を造り出す事が出来るのだ。

「.....流石に手当たり次第に異世界のモノを短期間に造り出すのもどうかと思って造らなかった魔道具も沢山あるから、これからの僕の資金源として商業ギルドに売り込む....勿論王都のギルドに申請はしないけど」

王都のギルドに申請をして、万が一僕が申請した事がバレれば確実に王達は僕から権利を取り上げようとするだろう。そうならない為にも王都ではない、別の街で申請しなければならない。勿論、僕ではなく別人として。態々僕自身が、第三王子アルファルドとして申請をする必要も全くない。ようは別人になれば良いのだから。

「髪と目の色と名前を変えて別の街に行けば第三王子だとは誰も気が付かないだろう」

僕の外見は少々人より目立つ外見をしている。一番特徴的なのが、このホワイトブロンドの髪だ。パッと見ただけだと白髪にも見えるこの髪は兎に角目立つ。この王国の王族は皆、黄色みが強いバターブロンドが殆どなので余計に目立つのだ。

けれど元々僕は第三王子として余り民衆達の前に顔を晒した事がない。そう言った行事は大抵王妃の邪魔が入って僕だけ参加させて貰えなかったからだ。

「そもそもこの翠の離宮から王都の商業ギルドのある場所まで約1日は掛かる距離だ。同じ王都にあるとは思えないぐらいに、この離宮は辺鄙な場所にあるからな....隣の街に行った方が早いぐらいだ」

そう。この離宮から王都の城に行くのに馬車で約1日掛かるのに、王都から出て街道沿いにある隣の街には馬車で1時間程で到着する距離なのだ。

「普通もうここは王都とは言わないよね?」

それでも一応立派に王都と言われる場所なのだから王妃達はどれだけ僕が嫌いなのかがわかるだろう。

「料理人と庭師も隣の街で探すつもりだし、明日は視察を兼ねて街を歩いてみるのも良いかもな」

きっと大魔法師セギヌスとして生きていた頃とはかなり街も変わっているだろう。王都周辺の街の地理は覚えておいて損はない。

「この世界の地理はあの頃とは少し変わっているし....今の僕では転移で行けない場所もある」

転移で行けるのは1度でも行ったことのある場所に限られる。つまり、大魔法師セギヌスが死んでから僕が行ったことのない新しく出来た国には転移で行けないのだ。

大魔法師セギヌスが死んでから数百年余り。無くなった国もあれば新しく出来た国もある。今の時点では必要もないけれど全ての事が片付いたら行ってみるのも悪くないかも知れない。

....その時にはマリーも一緒に連れて行ってあげても良いかも知れない。殆ど1人で僕の世話を今まで見てくれてたんだしね.... 

「ま、商業ギルドに登録するにしても取り敢えず街の下見は必要だな」

マトモなギルドなら良いんだけどな。そうでないなら他の街を探す必要が出てくる。最悪最終手段は大魔法師セギヌスの生まれた街で登録しても良いんだけど。確かあの街はまだ現存している。大魔法師を生んだ街としてそれなりに今でも栄えていた筈だ。

この王都からはかなり遠いが、僕だけが行って登録だけすれば良いのだから問題もないだろう。

「せめて料理人と庭師だけでも隣の街で見つかれば良いけど」


丁度その瞬間、部屋の扉を叩く音がしてマリーが部屋へと入ってくる。

「殿下、お食事のご用意が出来ましたよ」
「ああうん、ありがとう」

食堂へと案内をするマリーの後に着いて歩いていく。僕の乳母だったマリーの母親のアリーと、僕の専属侍女のアリーの娘のマリー。母親以外の親兄姉である王族に疎まれている僕を親身になって助けてくれたのはこの2人だけだった。

「.....僕に着いて来てくれた事を後悔だけはさせないよ」
「え?殿下、何か言いましたか?」
「何でもないよ」

僕の独り言が聞こえたのかマリーが振り返るが、ゆっくりと僕は笑みを浮かべて首を横に振る。不思議そうにするがそのまま歩き出すマリーの背中を追いながら僕は始終、その笑みを崩す事はなかった。





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