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第一章

9:料理人と庭師

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イプシロンの商業ギルドから離宮に連絡が届いたのは街に出掛けてから数日後だった。予想より早いギルド側の対応に余程あの魔道具が魅力的に写ったのだろうなぁと想像する。

「....まぁ、あのレベルの魔道具を創れるのは今のところこの世には存在しないのだから気持ちは解るけどね」

それに此方としても早目に資金源は作っておきたいし、料理人と庭師も必須だったのだから問題はないだろう。


朝食を食べた後にマリーと再度街へと向かう。前回のようにマリーには市場での買い出しを頼み、1人で商業ギルドへと向かうとギルド長の待つ応接室へと案内された。部屋に入れば1人の青年と少し歳のいったお爺さんがそこには居た。

「アルファルド様、ようこそいらっしゃいました」

ギルド長がその場に立ち上がり僕の方へと歩いて来ようとするのを手で制して挨拶をする。

「いえ、此方が依頼した事ですから。そちらの方々がそうでしょうか?」
「はい。料理人のネイトさんと庭師のジョンさんです」

ギルド長から紹介された2人はおずおずと立ち上りながら僕には礼をして来た。まさかこんなにも若い僕が依頼主だと思わなかったのかもしれない。

「料理人のネイトさんはまだまだ若いですが腕は確実です。丁度今まで働いていた店を追い出されたようで....」
「追い出されたんじゃない!自分で辞めたんだ!!」

ギルド長がそう言い出した途端にネイトが怒りを込めてギルド長を睨み付けた。

ふむ。

「.....何故辞めたのか理由を聞いても?」
「.....俺....いや、私が働いていた店は貴族の人達が来るような店ではなかったけど大きな商会の人達が商談に利用したりする街ではそれなりに人気のある店で....自分もそんな店の料理人に弟子入りして立派な料理人になりたいと思って店で働き出したんだ。けど....実際はそんな師匠と呼べるような料理人はその店には誰も居なかった....」
「.....けれど商人達が商談に使うぐらいなのだから料理の味に問題はなかったんだろう?」

そうでなければ態々商談にその店を指定したりなどしないだろう。

「.....料理が良くてもあんな奴らに教わりたいとは思えなかった....あいつらは人間のクズだ!」

.....まぁここまで嫌悪を露にしているぐらいだから相手の料理人達の本性はわかるようなものだ。相当ダメな奴らなんだろう。

「理解した。なら君には僕の離宮で料理を作って貰おう。だが君の居た店のように沢山の客が来るような場所ではなく、基本的には僕と使用人....つまり君達の食事を作るだけだ。まぁ空いた時間に料理の研究をするのは自由だけどね。それで良ければ契約書にサインをしてくれ。それで次は庭師希望の貴方ですが.....今まで庭師を?」

僕がそう言うとギルド長が契約書をネイトの前に置いた。読むのに時間も掛かるだろうと次にネイトの隣に座っていたお爺さんの方へと向き直る。

「はい.....ただ庭師と言っても貴族様の庭を整備していたのではなく平民でも裕福な暮らしをしている方の庭を趣味程度に整えていたのです」
「趣味?」
「はい。実は私はずっと商人をしておりまして小さいながらも自分の店を持っていたんです。ですがご覧の通り歳を取りまして....引退をして息子に店を譲ったのです。その後老後の趣味として以前から興味のあった庭師の仕事を見様見真似でやっていたんです」

.....へぇ.....趣味が高じて実益になったと言う事か。

「アルファルド様、ジョンさんは趣味と言っていますがそれはそれは素晴らしい腕なんですよ」
「ギルド長.....それは言い過ぎと言うもんですよ」

少し困った様子ながらも褒められて嬉しそうなジョンに僕も表情が少しだけ和らぐ。僕にお爺様が居ればこんな感じだっただろうか?

いや、実際に居るのは居るが僕は一度も会った事がない。母上が亡くなった時も、王妃から目の敵にされていても、僕が離宮へと放逐されると決まった際も何の連絡も会いにも来てくれなかった。父上と母上、どちらの祖父母も生きているのにだ。

....まぁ、今更会いに来られても何とも思わないし、家族面をされても困るが....

「ではジョンさんも契約書に目を通して良ければサインを。翠の離宮自体はそれなりに広いですが庭はかなり小さいので広げたいなら好きに広げて頂いて構いません。後、お二人にお願いしたいのは契約後、翠の離宮での僕の行動を誰にも話さないと言う事です。これさえ守って頂ければ基本自由に離宮で生活して頂いて構いません。ただし、それを守れないようなら最初から契約はしないで下さい」

きっと僕がこの部屋に入ってから一番の緊張感が部屋の中に漂っている事だろう。けれど僕が契約をする上で一番大事な事は情報漏洩をしない事。これからの僕の行動に一番重要な要件になる。だからそれを守れないような人物では困るのだ。

彼らはじっくりと契約書を読み、わからない事があればギルド長や僕に質問をし、最終的に2人とも契約書にサインをしたのだった。



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