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第二章

18:アルラキス・ディーバイン

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アルラキス・ディーバイン。次期辺境伯として王都まで噂になる程の実力を持っているとされていると王宮に引きこもって居た僕ですら知っている名前だ。けれどその本人は辺境伯の補佐と自らが夜会等の派手な催しを好まないとかで余程の理由がなければ辺境から王都へは出てこない為にその姿を見た者は余り居ないのだとか。

本来ならば結婚の適齢期でもあり、次期辺境伯家を継ぐ者として多数の貴族家からの釣書やパーティーへの招待状が辺境伯家にも届いているが全てお断りしていると聞く。

.....じゃあどうして僕に招待状を送って来たのか謎なんだけど.....

僕はじっとアルラキス・ディーバインを座ったまま見上げる。

身長はかなり高いのだろう。座ったまま見上げているにも関わらず、顔の位置が僕の視線よりもかなり高い位置にある。そしてその容姿。婚約者のまだ決まっていないご令嬢やご子息が彼を見れば十中八九皆が皆、彼に釣書を送りたくなるであろう。それ程に彼の容姿は整っている。そして容姿だけでなく、その夜会服の上からでもわかる鍛え上げられた体躯。

.....脱いだら凄いんです~……ってぐらいには筋肉が凄そうだよね。

「貴方はアルファルド殿下だろう」
「.....そうだけど.....次期辺境伯が僕に何か用でも?ああ、もしかして招待状に関して何か言いたい事でもあるのかな?」

辺境伯から来た招待状に関しては一応後々角が立たぬようにマリーが断りの手紙を出していたから文句を言われる筋合いはない筈だ。

「いや.....ただ私が君に逢いたかっただけだ」
「......僕に?」

ただ逢いたかっただけ、とは?

じ小さく頷き、じっと見つめてくるその視線に僕の方が何やら居たたまれなくなってくる。

意味がわからない。

だからこそ余計にどういう態度を取るのが正解なのかがわからないのだ。

「.....貴方とは初対面だったと思うんだけど。ああ、王妃や貴族達の噂話を聞いて本人に会って見たくなったとか?」
「いや、違う......覚えていないのか、昔に私達は逢った事があるんだが」
「覚えていたら初対面かとは聞かないでしょ?」
「あ、ああ......そうか。その、すまない」


まるで大型犬が主人に叱られてシュンとしている様を連想してしまうぐらいに明らかにその大きな体躯をしょんぼりさせたアルラキス・ディーバインに僕は思わず吹き出してしまった。

最初に僕の前に現れた時の覇気はどうした!?と言うぐらいにはあからさまな態度に笑ってしまった僕は悪くないだろう。

その見た目どおりの大きな体躯で敵国兵や魔獣等を類い稀な剣術の腕でもって容赦なく切り捨てていく辺境の騎士がまさかこんな男だとは誰が予想しただろうか。

「.....それで?僕に会ってどうするつもりだったの?僕は王族の一員だとは王妃を筆頭に認められていない。そんな僕に利用価値などないよ?」

自虐的だと捉えられてしまうかもしれないが、現状それが事実だ。そんな僕に近付くなんて意味がないだろうに。

「.....いや、ただ今日の夜会にアルファルド殿下が参加されると聞いて.....その、逢いたいと思っただけで利用など私はそんな事は一切考えていなかった」
「......は?何それ?」

じゃあ本当にただ単純に僕に会いたかっただけ?でも彼と昔に会った記憶なんて僕にはないんだけどなぁ……それとも僕が忘れているだけ?確かに母上が生きていらした時に辺境伯家には行った事はあるけれど、その時には確か嫡子である彼は魔獣討伐に出てて居なかった筈だ。

「.......」
「その、隣に座っても良いだろうか?」

過去の記憶を辿っているとふいに彼が話し掛けてきた。

「それは構わないけど.....会場に戻らなくても良いの?きっと辺境伯家の嫡子である貴方を待ってるご令嬢やご子息は多いと思うけど?」
「別に構わない。私の方に用はないから」
「そ?ならどうぞ。ワインでも飲む?」

そう言って予備のワイングラスにワインを注いで渡す。勿論このワインとグラスは自分で準備した物だ。用心をして無限収納にある程度の飲食物は自前で準備をしている。突然目の前に現れたグラスとワインに少しだけ目を見張るも、アルラキス・ディーバインはゆっくりとそのワイングラスを手にしたのだった。





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