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崩壊-3-
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隆志くんは顔を上げると、私の方を見た。
目尻を赤くしながら、ニコリと笑う。
「話が長くなってごめんね。…別に、いじめの話なんて聞きたくなかったよね。俺の復讐話なんて真由美さんに何の得にもならないしね」
「そんなこと…」
「俺…転校してから一度、その担任に会いに行ったんだ。まだ、完全に希望を捨て切れてなかったのかもしれない。でも、俺、あいつに何て言われたと思う?」
隆志くんの質問に答える前に、隆志くんがまた口を開いた。
「"いじめって、いじめられてる方にも原因があるんだよ"」
隆志くんの眉間にまた皺が寄った。
目を細めて、口をへの字にしている。
とても辛そうに見えた。
そりゃそうだ。学校なんて教師しか頼れる人がいないのに、その教師に突き放されたら辛いに決まっている。
それならまだ、私のように見て見ぬふりをされている方が幾らかマシかもしれない。
「…最低だろ?いじめを楽しむ教師なんて。普通はそんなこと言わない。…そんな奴に復讐する前に、俺は死んだり出来ない」
それは、彼が「復讐が終わったとき、命を絶つ」と言っているように聞こえた。
最初に出会ったとき、「私のことを騙してたの?」という質問に「さあ、どうかな」と肩を竦めた隆志くんを思い出した。
もしかすると、あれは「死ぬつもりはあるけど、今は死なない」という意味を含んでいたのかもしれない。
「隆志くんは…、隆志くんは、こんなことで死んでいい人じゃない」
「俺は死ぬなんて一言も」
「言ってるようなものじゃない!」
私にはわかる。
いじめなんてなければ、きっと隆志くんは優しくて友達想いの明るい普通の中学生だったはず。
一緒に下校していた男の子を見れば、そんなことすぐにわかる。
どんな形であれ、隆志くんは私に手を差し伸べてくれた。
私を助けてくれた。
…今度は私が隆志くんを助けたい。
そう思った。
「もっと、自分を大切にしてよ…!」
隆志くんの目が大きく見開かれた。
キラキラとして、希望に満ち溢れた目に見えた。
しかし、それはすぐにフッと蝋燭の火を吹き消すように光が失せた。
隆志くんは伏し目がちに指の先を見つめた。
「…それ、真由美さんが言う?」
その表情は、全てを悟っているかのようだった。
これまでの事も、これからの事も。
隆志くんからすれば、私の方が自分を大事にしていないのだろう。
すぐにでも死にたかった私と、目的を達成してから死ぬつもりの隆志くんでは、そう思われるのは当たり前だ。
でも、
「私はもう、死ぬなんて言わない」
隆志くんが視線を上げた。
「残りの高校生活を謳歌するし、家庭の問題も解決する」
それを聞いて、隆志くんは再び視線を落とした。
「そう簡単に変わるもんじゃないよ。…家庭の問題なんて特に」
俺が未だに家族との問題をどうすることも出来てないみたいに、と隆志くんは言った。
確か、隆志くんは母子家庭で綾瀬とは異父兄弟だと言っていた。
綾瀬と隆志くんを見る限り、兄弟仲はそれ程悪くはなさそうに見える。
だとすれば、問題は隆志くんのお母さんにあるのかもしれない。
「俺だって、改善しようとしたことぐらいあるよ。でも、結局はどっちかが折れないと駄目なんだよ。…俺は、一生仲良く出来る気がしない。母さんとも、幸人とも」
綾瀬の名前が出たことに私は驚きが隠せなかった。
「ちょ、ちょっと待ってよ。隆志くんと綾瀬は仲がいいんじゃないの?」
隆志くんが笑った。
「…端から見たらそう見えるね。現にあいつは俺のこと大好きだし」
じゃあ、つまりそれって…。
隆志くんが一方的に綾瀬のことを嫌っているってこと?
…どうして?
私が疑問に思っていると、隆志くんはニコリと笑みを溢して立ち上がった。
スクールバッグを肩に掛ける。
「今日はここまで。…あんまり家庭のこと話すの好きじゃないんだ」
それだけを言い残し、隆志くんは背を向けた。
その背中はとても小さく見えて、そんな頼りない背中に色んなものを抱え込んでいると思うと、私の悩みなんてとても小さなことのように思えた。
いじめられていたのは私だけじゃない。
家庭事情がうまくいってないのも私だけじゃない。
…辛いと思っているのも、隆志くんだって同じはず。
だからこそ、隆志くんのことは危なっかしく思えた。
いつ死んでもいいと思っているなら、隆志くんはきっとこの先も自分を傷付けるかもしれない。
「隆志くん!」
私は立ち上がり、既に小さくなっている隆志くんの後ろ姿に声を掛けた。
隆志くんの足がピタリと止まる。
「お願い!危ないことはしないで!私が、あなたの力になるから!」
隆志くんは私に背を向けたまま、手を振った。
再び足を動かし、隆志くんは姿を消した。
目尻を赤くしながら、ニコリと笑う。
「話が長くなってごめんね。…別に、いじめの話なんて聞きたくなかったよね。俺の復讐話なんて真由美さんに何の得にもならないしね」
「そんなこと…」
「俺…転校してから一度、その担任に会いに行ったんだ。まだ、完全に希望を捨て切れてなかったのかもしれない。でも、俺、あいつに何て言われたと思う?」
隆志くんの質問に答える前に、隆志くんがまた口を開いた。
「"いじめって、いじめられてる方にも原因があるんだよ"」
隆志くんの眉間にまた皺が寄った。
目を細めて、口をへの字にしている。
とても辛そうに見えた。
そりゃそうだ。学校なんて教師しか頼れる人がいないのに、その教師に突き放されたら辛いに決まっている。
それならまだ、私のように見て見ぬふりをされている方が幾らかマシかもしれない。
「…最低だろ?いじめを楽しむ教師なんて。普通はそんなこと言わない。…そんな奴に復讐する前に、俺は死んだり出来ない」
それは、彼が「復讐が終わったとき、命を絶つ」と言っているように聞こえた。
最初に出会ったとき、「私のことを騙してたの?」という質問に「さあ、どうかな」と肩を竦めた隆志くんを思い出した。
もしかすると、あれは「死ぬつもりはあるけど、今は死なない」という意味を含んでいたのかもしれない。
「隆志くんは…、隆志くんは、こんなことで死んでいい人じゃない」
「俺は死ぬなんて一言も」
「言ってるようなものじゃない!」
私にはわかる。
いじめなんてなければ、きっと隆志くんは優しくて友達想いの明るい普通の中学生だったはず。
一緒に下校していた男の子を見れば、そんなことすぐにわかる。
どんな形であれ、隆志くんは私に手を差し伸べてくれた。
私を助けてくれた。
…今度は私が隆志くんを助けたい。
そう思った。
「もっと、自分を大切にしてよ…!」
隆志くんの目が大きく見開かれた。
キラキラとして、希望に満ち溢れた目に見えた。
しかし、それはすぐにフッと蝋燭の火を吹き消すように光が失せた。
隆志くんは伏し目がちに指の先を見つめた。
「…それ、真由美さんが言う?」
その表情は、全てを悟っているかのようだった。
これまでの事も、これからの事も。
隆志くんからすれば、私の方が自分を大事にしていないのだろう。
すぐにでも死にたかった私と、目的を達成してから死ぬつもりの隆志くんでは、そう思われるのは当たり前だ。
でも、
「私はもう、死ぬなんて言わない」
隆志くんが視線を上げた。
「残りの高校生活を謳歌するし、家庭の問題も解決する」
それを聞いて、隆志くんは再び視線を落とした。
「そう簡単に変わるもんじゃないよ。…家庭の問題なんて特に」
俺が未だに家族との問題をどうすることも出来てないみたいに、と隆志くんは言った。
確か、隆志くんは母子家庭で綾瀬とは異父兄弟だと言っていた。
綾瀬と隆志くんを見る限り、兄弟仲はそれ程悪くはなさそうに見える。
だとすれば、問題は隆志くんのお母さんにあるのかもしれない。
「俺だって、改善しようとしたことぐらいあるよ。でも、結局はどっちかが折れないと駄目なんだよ。…俺は、一生仲良く出来る気がしない。母さんとも、幸人とも」
綾瀬の名前が出たことに私は驚きが隠せなかった。
「ちょ、ちょっと待ってよ。隆志くんと綾瀬は仲がいいんじゃないの?」
隆志くんが笑った。
「…端から見たらそう見えるね。現にあいつは俺のこと大好きだし」
じゃあ、つまりそれって…。
隆志くんが一方的に綾瀬のことを嫌っているってこと?
…どうして?
私が疑問に思っていると、隆志くんはニコリと笑みを溢して立ち上がった。
スクールバッグを肩に掛ける。
「今日はここまで。…あんまり家庭のこと話すの好きじゃないんだ」
それだけを言い残し、隆志くんは背を向けた。
その背中はとても小さく見えて、そんな頼りない背中に色んなものを抱え込んでいると思うと、私の悩みなんてとても小さなことのように思えた。
いじめられていたのは私だけじゃない。
家庭事情がうまくいってないのも私だけじゃない。
…辛いと思っているのも、隆志くんだって同じはず。
だからこそ、隆志くんのことは危なっかしく思えた。
いつ死んでもいいと思っているなら、隆志くんはきっとこの先も自分を傷付けるかもしれない。
「隆志くん!」
私は立ち上がり、既に小さくなっている隆志くんの後ろ姿に声を掛けた。
隆志くんの足がピタリと止まる。
「お願い!危ないことはしないで!私が、あなたの力になるから!」
隆志くんは私に背を向けたまま、手を振った。
再び足を動かし、隆志くんは姿を消した。
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