暁にもう一度

伊簑木サイ

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第三章 大河サラン視察

2-2

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 二人は向き合って座った。どちらも物怖じする性格ではないので、相手の目をしっかり見据えている。

「おまえ、世の子供がどんなものか、知っているか?」

 何が問いたいのか見当がつかなかったが、そんなもの、領地で散々世話をしてきたソランは、自信を持って答えた。

「知っております」
「では、どうしておまえはその子供たちと同じにふるまわない」

 ソランの年頃といえば、成人である。まだひよっ子として扱われるとはしても、女性ならば、マリーのように結婚してもおかしくない。

「ふるまっておりますが」
「どこがだ」

 殿下は深い溜息を吐いた。

「子供とはしたいことをし、言いたいことは言い、気に入らなければ泣き喚き、人の迷惑を顧みず、己の興味の赴くままに行動するものだ」

 そんな子供がいるものか。ソランは胡乱なものを見るまなざしを向けた。少なくとも領地にはいなかった。子供は子供なりに己の責任を知っているし、矜持もあるものだ。そんな馬鹿をする者は、見たことがなかった。

「それは子供ではなく幼児です。そんなまねはできません」
「我が妹は幼児か」

 殿下は承諾しかねる様子で呟いた。
 実は、殿下のまわりには、これまであまり子供がいなかった。最も身近なそれは、三つ下の妹と、その友人や取り巻きの娘たちで、彼には彼女たちが、ソランに言ったそのままに見えていた。いつも訳のわからない理屈できゃんきゃん騒ぎ、よってたかって彼を煩わす、そういうものだと。
 ……つまり、殿下の知識は偏っていた。

 ソランは事情がわからないながらも、なんとなく察し、口を噤んだ。こういうときは、不用意なことは言わないほうがいい。どう転んでも不敬な発言になってしまうだろう。
 二人は見つめあって、しばし黙りこんだ。

「まあ、それはよい。だが、おまえはもう少し自由にしてよいはずだ」

 自由。ソランは自由だった。好きでこうしているのだ。彼女は己の抱えているものを愛している。だからこそ重荷なのだ。

「自由にしておりますが」

 話が通じない。お互いそれだけは通じ合った。なんとも歯がゆい思いで相手を見る。

「おまえは」

 殿下は言葉に詰まり、苛立たしげに息を吐いた。責めたいわけではなかった。命令するべきことでもなかった。だが、どうしてもわからせたかった。
 この子供の保護者である、あの抜け目のない狸親父のアーサーが、疑問すら抱かせないほどに、この子供に義務の枷をかけてしまったのなら、よけいに、己を大事にせよと諭さねばならぬと思った。

 殿下は昨日の出来事を思い出していた。ソランが堤防の上に立ちはだかった姿を。

「心臓が止まるかと思ったのだ」

 ぽつりと言った。
 矢でも射かけられたらどうするつもりだったのか。柄に手は添えられていた。隙のない姿だった。腕に自信もあるのだろう。それでも、危険には変わりない。

「昨日のことだ。無茶はしてくれるな。おまえの腕を疑っているわけではない。だが、おまえはまだ学ぶべきことがたくさんある。先を楽しみにしておるのだ。途中でおまえを失いたくない」

 真摯な声だった。ソランは、体の中で血がざわめくのを感じた。顔が熱くなる。

「わかったな」
「……はい」

 ソランはおとなしく素直に返答するほか、どうにもできなかったのだった。
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