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第三章 大河サラン視察
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二人は向き合って座った。どちらも物怖じする性格ではないので、相手の目をしっかり見据えている。
「おまえ、世の子供がどんなものか、知っているか?」
何が問いたいのか見当がつかなかったが、そんなもの、領地で散々世話をしてきたソランは、自信を持って答えた。
「知っております」
「では、どうしておまえはその子供たちと同じにふるまわない」
ソランの年頃といえば、成人である。まだひよっ子として扱われるとはしても、女性ならば、マリーのように結婚してもおかしくない。
「ふるまっておりますが」
「どこがだ」
殿下は深い溜息を吐いた。
「子供とはしたいことをし、言いたいことは言い、気に入らなければ泣き喚き、人の迷惑を顧みず、己の興味の赴くままに行動するものだ」
そんな子供がいるものか。ソランは胡乱なものを見るまなざしを向けた。少なくとも領地にはいなかった。子供は子供なりに己の責任を知っているし、矜持もあるものだ。そんな馬鹿をする者は、見たことがなかった。
「それは子供ではなく幼児です。そんなまねはできません」
「我が妹は幼児か」
殿下は承諾しかねる様子で呟いた。
実は、殿下のまわりには、これまであまり子供がいなかった。最も身近なそれは、三つ下の妹と、その友人や取り巻きの娘たちで、彼には彼女たちが、ソランに言ったそのままに見えていた。いつも訳のわからない理屈できゃんきゃん騒ぎ、よってたかって彼を煩わす、そういうものだと。
……つまり、殿下の知識は偏っていた。
ソランは事情がわからないながらも、なんとなく察し、口を噤んだ。こういうときは、不用意なことは言わないほうがいい。どう転んでも不敬な発言になってしまうだろう。
二人は見つめあって、しばし黙りこんだ。
「まあ、それはよい。だが、おまえはもう少し自由にしてよいはずだ」
自由。ソランは自由だった。好きでこうしているのだ。彼女は己の抱えているものを愛している。だからこそ重荷なのだ。
「自由にしておりますが」
話が通じない。お互いそれだけは通じ合った。なんとも歯がゆい思いで相手を見る。
「おまえは」
殿下は言葉に詰まり、苛立たしげに息を吐いた。責めたいわけではなかった。命令するべきことでもなかった。だが、どうしてもわからせたかった。
この子供の保護者である、あの抜け目のない狸親父のアーサーが、疑問すら抱かせないほどに、この子供に義務の枷をかけてしまったのなら、よけいに、己を大事にせよと諭さねばならぬと思った。
殿下は昨日の出来事を思い出していた。ソランが堤防の上に立ちはだかった姿を。
「心臓が止まるかと思ったのだ」
ぽつりと言った。
矢でも射かけられたらどうするつもりだったのか。柄に手は添えられていた。隙のない姿だった。腕に自信もあるのだろう。それでも、危険には変わりない。
「昨日のことだ。無茶はしてくれるな。おまえの腕を疑っているわけではない。だが、おまえはまだ学ぶべきことがたくさんある。先を楽しみにしておるのだ。途中でおまえを失いたくない」
真摯な声だった。ソランは、体の中で血がざわめくのを感じた。顔が熱くなる。
「わかったな」
「……はい」
ソランはおとなしく素直に返答するほか、どうにもできなかったのだった。
「おまえ、世の子供がどんなものか、知っているか?」
何が問いたいのか見当がつかなかったが、そんなもの、領地で散々世話をしてきたソランは、自信を持って答えた。
「知っております」
「では、どうしておまえはその子供たちと同じにふるまわない」
ソランの年頃といえば、成人である。まだひよっ子として扱われるとはしても、女性ならば、マリーのように結婚してもおかしくない。
「ふるまっておりますが」
「どこがだ」
殿下は深い溜息を吐いた。
「子供とはしたいことをし、言いたいことは言い、気に入らなければ泣き喚き、人の迷惑を顧みず、己の興味の赴くままに行動するものだ」
そんな子供がいるものか。ソランは胡乱なものを見るまなざしを向けた。少なくとも領地にはいなかった。子供は子供なりに己の責任を知っているし、矜持もあるものだ。そんな馬鹿をする者は、見たことがなかった。
「それは子供ではなく幼児です。そんなまねはできません」
「我が妹は幼児か」
殿下は承諾しかねる様子で呟いた。
実は、殿下のまわりには、これまであまり子供がいなかった。最も身近なそれは、三つ下の妹と、その友人や取り巻きの娘たちで、彼には彼女たちが、ソランに言ったそのままに見えていた。いつも訳のわからない理屈できゃんきゃん騒ぎ、よってたかって彼を煩わす、そういうものだと。
……つまり、殿下の知識は偏っていた。
ソランは事情がわからないながらも、なんとなく察し、口を噤んだ。こういうときは、不用意なことは言わないほうがいい。どう転んでも不敬な発言になってしまうだろう。
二人は見つめあって、しばし黙りこんだ。
「まあ、それはよい。だが、おまえはもう少し自由にしてよいはずだ」
自由。ソランは自由だった。好きでこうしているのだ。彼女は己の抱えているものを愛している。だからこそ重荷なのだ。
「自由にしておりますが」
話が通じない。お互いそれだけは通じ合った。なんとも歯がゆい思いで相手を見る。
「おまえは」
殿下は言葉に詰まり、苛立たしげに息を吐いた。責めたいわけではなかった。命令するべきことでもなかった。だが、どうしてもわからせたかった。
この子供の保護者である、あの抜け目のない狸親父のアーサーが、疑問すら抱かせないほどに、この子供に義務の枷をかけてしまったのなら、よけいに、己を大事にせよと諭さねばならぬと思った。
殿下は昨日の出来事を思い出していた。ソランが堤防の上に立ちはだかった姿を。
「心臓が止まるかと思ったのだ」
ぽつりと言った。
矢でも射かけられたらどうするつもりだったのか。柄に手は添えられていた。隙のない姿だった。腕に自信もあるのだろう。それでも、危険には変わりない。
「昨日のことだ。無茶はしてくれるな。おまえの腕を疑っているわけではない。だが、おまえはまだ学ぶべきことがたくさんある。先を楽しみにしておるのだ。途中でおまえを失いたくない」
真摯な声だった。ソランは、体の中で血がざわめくのを感じた。顔が熱くなる。
「わかったな」
「……はい」
ソランはおとなしく素直に返答するほか、どうにもできなかったのだった。
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